67 魔法の練習
俺とノエル、ペロ親子とモラクスは拠点の外に出る。
「相変わらず臭いなぁ」
「くさいな? でもなつかしさをかんじる……」
「ああ、ノエルは赤ちゃんの頃からからずっと嗅いできたんだものな」
馴れすぎているせいで、数日ぶりでも懐かしさを感じるのかもしれない。
「うん。なつかしさをかんじるけど、かぎたくはないな? くさいし?」
「そりゃそうだ」
そんなことを話している間に、太めの魔樹が沢山生えている場所に到着する。
『おさらいする』『ぺろ、もらくすやってみて』
「がうがう~」「もっもっ」
ペロとモラクスは俺の方をちらちらと見る。
「みてるよ。やってみて」
「がう!」
ペロは尻尾を振りながら一声吠える。同時に口から魔力で作った刃を飛ばした。
直径三十センチほどの立派な魔樹が一撃で倒される。
「おお、すごい」
「もっもー『みてて』」
モラクスも「もっ」っと鳴きながら、魔力で作った刃を放つ。
ペロとは違い、魔力の刃は口からではなく、頭の先から出た。
出た場所はちょうど、将来的に角が生えるあたりだ。
角が生えたら、きっと角から魔法を放つのだろう。
モラクスの放った魔力の刃も直径三十センチほどの魔樹を一撃で倒した。
『ティル、どう? ほめてやって』『ペロもモラクスもうまい』
「見事なものだ。すごいね。魔力操作もうまいし威力も高い」
「わふわふ」「もっも!」
近寄ってきたペロとモラクスをノエルと一緒に撫でる。
「モラクスは魔法を使えなかったんじゃないの?」
『おしえてもらった』
「さっき教えてもらったばかりなのに、もうこんなにうまいのか」
「せいじゅうは、すごいな?」
「本当にね。凄いよな」
モラクスを褒めた後、ペロも褒めることも忘れてはいけない。
「ペロも火を吐けることは知っていたけど、魔力の刃もつかえたの?」
「わふわふ」
「おお、さっき習ったばかりなのか。ペロも凄いな」
「ペロはすごいな?」
「わふわふ~」
俺とノエルに褒められてペロは大喜びで尻尾を振っていた。
ひとしきり褒めた後、作業を進めることにする。
「みんな、魔法の鞄で運ぶから、どんどん切っていってくれ」
『わかった』『まかせて』「わふわふ」「もっも」
ペリオスとペリーナが指導を再開し、ペロとモラクスに木を切らせていく。
「がう~」「わふ」
「わふ?」「もっも」
威力や精度をあげるためのアドバイスを聖獣の言葉で伝えている。
「聖獣語って便利だな」
言語ではなく、意志をそのまま伝えるのだ。
ニュアンスなどを含めて、一瞬で伝えてしまう。
指導には人族の言葉より最適に思える。
「とはいえ、俺は聖獣語を話せないからな」
俺は人族の言葉でノエルへの指導を始める。
「ノエル、人族の魔法では――」
「ほうほう? えいしょうかー」
「世界にお伺いを立てるってのが原則だからね。それに――」
俺は改めて簡単に人族の魔法について説明しておく。
以前、カトリーヌと一緒に説明したことのおさらいだ。
説明を済ませてから、実演してみる。
「まあ、みててよ。魔刃」
俺は魔樹を一撃で倒してみせる。
「おおー、すごい精度な?」
「ありがとう。これが人族の魔法。猫魔法ではどうするの?」
「みててな? にゃっ!」
聖獣語の詠唱の後、ノエルの持つ聖樹の枝から魔力の刃が放たれ、一撃で魔樹を倒した。
「ティル、どうだった?」
「威力も精度も十二分だな。すごいよ」
「えへへへ」
人族の魔法など学ぶ必要がないように思えるほどだ。
「じゃあ、つぎはひとぞくの魔法、つかうな?」
「うん。聖樹の枝を置いてやってみて。その方が練習になるからね」
「わかった!」
「最初は長めの詠唱の方が――」
「あしえす!」
ノエルがそう叫ぶと、魔力の刃が放たれる。
だが、魔樹は一撃で倒れなかった。
「しっぱいしっぱい。もういっかい――」
「まあ、待て。失敗じゃないよ?」
「む?」
「まさか、最初から魔刃を発動できるとは思わなかった。凄いね。才能があるよ」
ノエルの魔法センスはずば抜けている。
「えへへ、すごい?」
「すごいよ。発動しただけでなく、ちゃんと人族の魔法だった」
口で魔刃と唱えているだけではない。
魔力の流れも人族の魔法のそれだった。
「最初は長い詠唱が必要なものだし、初めて発動させられるまで数か月ぐらいかかるんだよ」
「えへへ~。のえるすごかったかー」
「うん、すごい、すごい」
「てぃるはどうだった?」
「もちろん、できなかったよ。短縮できるまで結構かかったかな」
それは本当だ。
発動は最初からできたが、短縮は数日かかった。
ノエルが始めから短縮詠唱で発動できたのは、猫魔法での修練が大きいだろう。
猫魔法、つまり聖獣の魔法を身につけた人族はノエルの他にいない。
それはノエルが魔導師としての成長に大きなプラスになるに違いない。
「ノエルは猫魔法を高いレベルで使えるだろう?」
「うん。猫魔法、ノエルは得意な?」
「だから人族の魔法なんて学ばなくていいと思うかもしれないけど」
「そんなことないな? おもしろいし」
「それはよかった」
俺はノエルの頭を撫でる。
「猫魔法と人族の魔法の両方を使えることは、ノエルにとって財産になるよ」
「そっかな? そうだといいな?」
「きっと、そうなるよ」
異なる体系の魔法を習得することで、独自の魔法体系を編み出せる可能性も高い。
人族の魔法体系は、いわゆる大賢者と呼ばれる人物が大昔に作り出したものだ。
俺を含めた全ての人族の魔導師は、大賢者の魔法体系を乗り越えることができていない。
それを乗り越える可能性があるのは、ノエルのような魔導師だと俺は思う。
そして、腐界をなくすことができるのは、きっとノエルのような魔導師に違いない。
「ノエルは頑張れば、歴史に名を残すことができるかもな」
「そっかー。がんばるな?」
「ああ、頑張るといい」
「さっそく、もういっかいやってみる! あしえす!」
「おお、さっきよりもうまくなっているよ。もう少し精度を高めたらもっと良くなる」
「せいど? わかった! やってみるな? みてて! あしえす! あしえす!」
「連続で放つのはまたあとでだ。今はゆっくりでいいから精度重視だよ」
「わかった! あしえす!」
「魔力回路を意識することはできているよ。指先ではなく、指の五ミリ先から放つイメージで!」
「うん! あしえす!」
魔力が潤沢なノエルは何度も練習し、どんどん精度と威力を上げていった。
その間にもペロとモラクスは魔樹を切ってくれている。
途中からはノエルにはペロとモラクスが切った魔樹を板に加工してもらった。
ノエルは魔力は十二分にあるので、威力は出せる。課題は精度だ。
精度を上げるなら、単に切るより板への加工の方が練習になる。
「そう、慎重にね」
「あしえす! こうだな?」
「そうそう。ノエルは飲み込みが早いな!」
ノエルもペロもモラクスもセンスが良い。
おかげで、あっという間に必要な木材が揃ったのだった。




