63 コカトリス親子
俺がコカトリスの羽毛を堪能していると、
「とはいえだ。モニファスやペリーナたちもそうなのだが、縄張りがあるゆえな」
「ん? どういうことだ?」
「成獣である聖獣は、ここに住むわけにはいかないのである」
ジルカが少しさみしそうに言う。
「縄張りの魔物を狩ることが成獣である聖獣の義務なのであるからして」
縄張りに定住して魔物を倒さなければいけないのだろう。
「あくまでも、傷を癒やす間、拠点に住まわせてもらっているに過ぎぬのだ。我も含めて」
「さみしいこというなよ」
「だが、仕方ないことである。もちろん遊びに来させてもらうつもりなのだが……」
「ジルカも我のように毎日遊びに来れば良い。もちろん魔王種が生まれぬ限りだが」
シルヴァはそう言って尻尾を揺らす。
「そうであるなー。そして魔王種がでたら、ティルに頼んで討伐してもらうのだ!」
「ああ、いつでも討伐に力を貸すよ」
「百人力である!」
ジルカは尻尾を嬉しそうにぶんぶんと振った。
「ティル。……不躾なお願いになるのだが」
「なんだ? 何でも言ってくれ。シルヴァの頼みなら、俺にできることなら何でもするよ」
「かたじけない。……聖獣の子を、もっとたくさん、この拠点で保護してくれぬか?」
「かまわないよ。だけど、親は不安にならないか? それにさみしいだろう?」
人族同士でも、子供だけ預けるというのは不安になるはずだ。
ましてや聖獣ならば、知らない人族の拠点に子供だけ預けるというのは不安だろう。
「もちろん、我らも自分の手で我が子を育てたいという思いはある。だがな……」
「ティル。聖獣の子が成獣まで成長する確率ってどのくらいであると思う?」
ジルカが深刻な表情で尋ねてきた。その表情をみるとあまり高くないのだろうわかる。
「……五割ぐらいか」
「そんなにないのである。せいぜいが一割であろう」
「そんなに低いのか? 聖獣は強いのに」
弱い生き物ほど子の間にたくさん死ぬ。だからこそ弱い生きものほどたくさん産むのだ。
「聖獣は強い故、あまり子をたくさん産まないのだが……」
「我は今回三匹の子猫を産んだが、通常は一匹のことが多いのだ」
「だがな。最近は瘴気が濃くなり、水が汚染されつつあるのである」
だから、子育てが難しくなっているのだとジルカが語る。
「昔は三割は育ったものだ。だが今は一割をきっておる」
「だから、瘴気がなくて、清浄な水のあるティルの拠点に子を預けたいのである」
「そういうことなら、預かろう。だけど、スペースの問題があるからな」
無制限で預かるわけにはいかない。
「わかっておる。数を調整しつつ、弱った子から連れてきてもいいだろうか?」
「もちろんだ。調整はシルヴァとジルカに任せるよ」
「恩に着る」
「ありがとうである。皆喜ぶのである」
ジルカとシルヴァは深く深く頭を下げた。
同時にコカトリスと、ペリオス、ペリーナも頭を下げる。
それを真似したのか、モラクスとペロも頭を下げていた。
「ママ! おはよ! おお! にわとりがおる! しっぽがあるな?」
「がう? がうがう~」「なぁ」「みゃあ」「にゃ」
そのとき、勉強していたノエルがシルヴァに気づいて、駆けてくる。
ガルガルと子猫たちも走ってきた。
「みんなおはよう。この者たちはコカトリスという聖獣なのだ」
「おおー、こかとりす。かっこいい。しっぽがかっこいいな? ノエルだ、よろしくな?」
「がうがう」「ななぁ」「みゃみゃぁ」「にゃにゃぁ」
コカトリス親子もノエルたちに挨拶している。
挨拶が終わると、シルヴァはノエルに尋ねる。
「ノエル、勉強していたのではないのか? こちらに来て良いのか?」
「べんきょうはおわった! おひるだからな?」
ノエルの言うとおり、子供たちはミアの指揮の下、お昼ご飯の準備を開始している。
「そうか。ならばよい。そなたたちはどんなことを教わったのだ?」
「わふわふ」「なぁなぁなぁ」「みゃあ~」「にゃにゃにゃ」
ガルガルと子猫たちは、教えてもらったことを一生懸命アピールしている。
どうやら、今日は初日なので数字と文字を教わっていたらしい。
「のえる、はやくも、すうじともじをますたーしたのな?」
「それは凄い。さすがノエルだ」
「がうがう!」「なぁ」「みゃ」「にゃ~」
ガルガルたちも負けじとマスターしたとアピールした。
「そうかそうか。じゃあ、これはなんと読む?」
シルヴァは爪で地面にノエル、ガルガル、アオ、クロ、シロと書いていく。
神代語で、しかも、相当な達筆だった。まるで名筆と呼ばれる古典のようだ。
「シルヴァ、字がうまいな」
「まあな。太古の昔に習ったのだ」
「習ったって誰に? 人族」
「どちらかというと……神族に近いであろうなぁ」
遠い目をしてシルヴァが言う。
「神族? シルヴァは神族に師事したことがあるのか?」
「まあ、そんなことはどうでもよい。ガルガル、読めるか」
「がぅがぅ」
「おお、正解だ。アオは?」
「なぁなぁ」
シルヴァははぐらかすように答えてくれなかった。
きっと、シルヴァにも事情があるのだろう。俺は深く聞かないことにした。
誰にも答えたくないことや答えられないことはあるはずだ。
「おお、アオもクロもシロもちゃんと読めているではないか」
「なぁなぁ」「みゃあ~」「にゃっ」
「うむ。これほど習得が早いならば、我が教えてやるべきであったかも知れぬな」
シルヴァはモニファスに礼を言わねばとぼそっと呟く。
「なぁなぁ、ママはどうだった? まものふえた?」「わふわふ」「な~」「みゃ」「にゃ」
「落ち着くのだ。一斉に尋ねるでない。そうだな。魔物は――」
どうやら、ノエルたちはシルヴァに話ししたいことが一杯あるようだ。
しばらく親子だけでお話しさせてあげた方が良いだろう。
「コカトリスたち、みんなに紹介しよう。付いてきてくれ」
「こここ」「こぅこ」「ぴぃぴぃ」
俺たちはシルヴァ親子を置いて、集落の中心へと向かう。
「みんな。あたらしい仲間だよ」
「我やモニファス、ペリオス、ペリーナと共に魔王種と戦ったコカトリスである」
『われらは聖獣のコカトリス』『よろしくたのむ。こっちはひよこ』
「ぴいぴよ」
「おお~コカトリス、かっけー!」「ひよこかわいい!」
『かっこいいわん!』
子供たちとコボルトたちがやってきて、自己紹介をしていく。
ミアを手伝っていたフィロとカトリーヌも丁寧に自己紹介をしていた。
ミアは咖喱を作る手を止めて自己紹介をした後、コカトリスに尋ねる。
「コカトリスは咖喱を食べられるかな?」
『たべたことはないが』『とてもおいしそうなにおいだ』
「聖獣ゆえな。人族が食べられるものならば何でも食べられるのである」
ジルカはそう言うが、食べられると食べたいは違う。
モラクスも肉を食べられるけど、草の方が好きだ。
『おいしそうなにおいゆえ』『ぜひたべたい』
「ぴよぴよ」
『ひよこも』『たべたいといっている』
「それじゃあ、是非食べてくれ。もし口に合わなかったら遠慮なく言って欲しい」
そうして、コカトリスたちに咖喱を振る舞うことになったのだった。




