60 土壌改良魔法陣
それから俺は新しく広がった結界の範囲に土壌改良魔法陣を描いていくことにする。
まずは魔樹と魔草を伐採し、根っこを掘り起こす。
そうしてから、土壌改良魔法陣を描いていくのだ。
俺の作業を見守ってくれたのはモラクスとペロだ。
コボルトたちは、新居を案内した後、子供たちとお昼寝をしにいったので同行していない。
「モラクスとペロは寝なくていいの?」
『だいじょうぶ。ねむかったらねる』「ぁぅ」
モラクスとペロは俺の作業を見ながら、昼寝するつもりらしい。
「そっか。遠慮せずに寝るんだよ」
モラクスとペロは、眠いのかいつもより静かなので作業に集中できた。
どんどん、魔法陣を描いていると、家の方でシルヴァたちの声がした
「あ、もうそろそろシルヴァが帰る時間か」
これからシルヴァは毎日自分の巣とこの拠点を行き来する予定なのだ。
俺とモラクス、ペロがシルヴァに挨拶するために戻ると、
「それではまた明日だ」
「なぁ~」「みゃあ」「にゃあ」
子猫たちは、元気に「また明日」といっている。
昨日とは違い、子猫たちは泣かなかった。
「一日見なかっただけで、立派になったのだな……」
逆にシルヴァが泣きそうになっている。
「ママ、またあしたな?」
「わぅわぅ」
「ああ、また明日だ。アオ、クロ、シロを頼むぞ」
「のえるにまかせてな?」「がうがう」
それから、シルヴァは俺たちにも子供たちを頼むと言って巣に帰っていった。
「む? てぃる!」
「どした?」
「まほうじんかいたな?」
どうやら室内にいる間に起こった拠点の変化に気づいたらしい。
「ノエルは鋭いな。午前中に結界を広げたからね。土壌改良魔法陣を描いてたんだ」
「ぜんぶかいた?」
「まだだよ……魔法陣を描くところ見たいの?」
「みたい! みていい?」「あ、私も見たいです」
ノエルとカトリーヌが言う。母子だけあって、興味も似ているのかもしれない。
「もちろんいいよ」
「ありがと! あ、でも、いるみんのむすめのたねをうえないと! まっててな?」
「うん。ゆっくりでいいよ」
ノエルはエルフの家の中へと元気に走って行き、種を持って戻ってきた。
ノエルと一緒にフィロもやってくる。
「とうさまも、ノエルがいるみんのむすめをうえるとこ、みててな?」
「ああ、楽しみだなぁ」
どうやら、ノエルはフィロに自慢したいようだ。
「ねね、てぃる! どこにうえたらいい?」
「好きなところに植えていいよ」
「ノエル。できればこの辺りにお願いしたいの」
「む? リラ、ここ?」
「そう、そのあたり。そこに植えると、神殿がより強固になるの」
「ほえー。すごいなぁ?」「わふわふ」
そんなことを言いながら、ノエルとガルガル、子猫たちが穴を掘っていく。
ノエルたちは穴を掘るのが楽しいらしく、ものすごく嬉しそうだ。
「むふー。このぐらいでいいな? がるがる。もういいよ?」
「…………」
「もういいよ? あお、くろ、しろも」
「…………にゃ」
止められても楽しすぎるのか、ガルガルと子猫たちは止まらなかった。
「ほりすぎだな? とまるの!」
「がうー」「なあ」「みゃあ」「にゃあ」
ノエルに強めに言われて、ガルガルと子猫たちは渋々穴を掘るのをやめた。
「もう、しかたないんだからー。穴がふかすぎても、だめな?」
ノエルはガルガルたちを止めると、掘った穴に聖樹の種を植えていく。
まだ穴を掘り足りなさそうなガルガルと子猫たちに、
『あの辺りならあなをほっていいわん』『あとで畑をつくるわんからねー』
コボルトたちがそう言った。
「がう?」「なぁ?」「みゃ?」「にゃ?」
『いいわんね? ティル』
「いいよ。畑を作るのに耕したいんでしょう?」
『そうなんだわん!』
畑を作る前には、掘り起こして、土を軟らかくしたり、石を取り除いたりするのだ。
「ガルガル、アオ、クロ、シロも、一応注意点として……」
俺は魔法陣が描いてあるから魔法を使って穴を掘らないようにと説明した。
「がう!」「なぁ」「みゃ」「にゃ」
どうやらガルガルと子猫たちは、俺の説明を理解してくれたようだった。
俺とコボルトたちとガルガルたちが話している間も、ノエルは種を植えている。
「……ノエル、思ったより種はたくさんあるんだね」
「えっとな、ママがいるみんのむすめをくばっているのな? それで――」
各地に配った聖樹にも当然実がなる。その実はその土地の聖獣たちが食べるのだという。
だが、種だけはシルヴァの元に返却される。
「だから、種がママのところにあつまるのなー」
聖樹を育てることができるのはノエルだけで、聖獣たちは育てることができない。
それゆえのシステムだろう。
「げんきにそだてよ~」
ノエルは種を植え終わると、魔力を与えて芽を出させる。
発芽した聖樹の種は全部で五つだった。
「相変わらず見事なものだな」
「本当に。ノエルの魔力は凄いわね。操作も見事としか言い様がないわ」
魔導師でもあるカトリーヌは魔力の動きを把握して感心している。
「将来有望だな! 凄いぞ、ノエル! ティルもそう思うよな!」
「ああ、努力を怠らなければ、魔導師系の職なら何にでもなれると思うよ」
俺がそう言うと、カトリーヌとフィロは嬉しそうに微笑んだ。
「神官になるのもいいわよ。楽しいし、気楽だし? 考えてみて」
リラがそういって、ノエルの頭を撫でる。
「そっかー? なんでもなれるかー。えへへ」
ノエルは照れながらも魔力を与え続けている。
「お、おお……成長が早いな」
「なー、さすがはいるみんのむすめだな?」
「聖樹が凄いというより、ノエルが凄いのよ。うちの神が気に入る訳ね」
出たばかりの芽はすくすくと高さ一メートルまですぐに育った。
「よしよし。おまたせだ! てぃる。まほうじんかくとこ、見せてな?」
「いいよ。こっちおいで」
俺が歩き出すと、ノエル、カトリーヌ、フィロ、それにリラが付いてくる。
ペロとガルガル、モラクスも一緒だ。
子猫たちはノエル親子に一匹ずつ抱っこされて大人しくしている。
穴を掘って疲れたのかもしれない。
「このへんは、もうまほうじんかいた?」
「うん。描いてるよ。これから描くのはこの辺りから」
「ふむふむ。きになる」
「勉強させていただきます」
ノエルとカトリーヌに真剣な表情で見守られながら、魔法陣を描いていった。
一人で描いていたときよりも、わかりやすいようにゆっくりと描いた。




