51 夕食
大筋で話が決まった後、シルヴァは色々と尋ねてきた。
ジルカのこと、魔王種のこと。モニファスとペリオス、ペリーナのこと。
そして、もっとも興味を持っているように見えたのは、ミアたちエルフのことだ。
「今のエルフたちには、大人たちがいないと言っていたが……」
「瘴気病で弱体化していたところに、強力な魔物と戦って、全滅したようだ」
「…………なんと」
「シルヴァはエルフたちを知っているのか?」
そう尋ねると、シルヴァは頷く。
「遥か昔。……それこそ千年ほど前のことであるが――」
大賢者とエルフたち、そして聖獣たちは共に魔物たちと戦っていたという。
「あと少しというところまで追い込んだのだが……」
千年前のことだというのに、シルヴァは悔しそうだ。
それほど、惜しく、悔いが残る戦いだったのだろう。
「我も呪いを受けたのだ。大賢者やエルフ族に比べれば弱い呪いだがな」
「どのような呪いだ?」
「大賢者とエルフを探せない呪いである。逆に大賢者とエルフも我を探すことはできぬ」
「……分断が狙いか」
「恐らくな。偶然出会ったエルフ族を保護していたこともあったが……」
数百年前の魔王種との戦いで、シルヴァが保護していたエルフ族は滅びたという。
「ならば、エルフ族がかけられた呪いも知っているんだよな?」
「ああ、魔法を使えず、腐界かでられないのであろう?」
「そうだ。そのせいで、水が瘴気に汚染されてしまうと、どうしようもなくてな」
瘴気病が蔓延したことも教えておく。
「そうか。それは、辛かろうな。だが……」
シルヴァが何か言いかけたとき、ノエルが目を覚ました。
「ノエルおはよう。よく眠れた?」
カトリーヌが笑顔で尋ねると、
「うん! 眠れた! かあさま、ノエルおもくなかった?」
ノエルは嬉しそうに笑うと、カトリーヌの胸に顔をうずめる。
「大きくなったものね。でも、ぜんぜん、大丈夫よ」
「そっかー」
「きゅーん」
「お、ペロ、ひまなの? よーしよしよし」
そして、ノエルはカトリーヌの膝の上から降りて、ペロと遊び始めた。
「ペロ、しょうぶだ!」
「ぁぅ!」
ノエルとペロが遊んでいると、ガルガルも起きてくる。
「ガルガルもこい。ノエルがあいてしてやる」
「がぅがぅ~」
自分より何倍も大きなペロとガルガル相手でも、ノエルは力負けしていなかった。
ペロとガルガルが手加減しているわけではない。
かなり本気でノエルを押さえつけようとしているが、跳ね返されてひっくり返されている。
(身体強化か……)
それも抜群にうまい身体強化だ。
恐らく死の山で生き延びるために身に付けた技術なのだろう。
遊ぶノエルたちを眺めていると、子猫たちも目を覚ました。
目を覚ました子猫たちは、ノエルの方へと歩いて行く。
「なぁなぁなぁ」「みゃあみゃぁ」「にゃ」
「む? クロ、アオ、シロ、おなかすいたの? ママ、ノエルが肉焼くな?」
「おお、頼む。山菜も焼くのだぞ」
「うん! わかってる! とうさまとかあさまもみてて! ノエル、肉やくのうまいよ!」
「それは楽しみだ」「まあ、凄いわね」
ノエルがどや顔で魔猪の肉を、魔法を使って焼いていく。
同時にノエルたちが山菜と呼んでいる魔野菜も焼きはじめた。
「……見事なものだな」
俺がぼそっと呟くと、フィロがノエルを見つめたままぼそっと囁くように言う。
「……ティルはそう思うのか? 小さな魔法だと思うが……」
「ああ。弱い魔法をじわじわと使っているだろう? しかも肉と野菜ごとに火力をわけている」
魔導師ではないフィロにはそれがどれだけ凄いことかわからないのだ。
「大きな魔法を放てるかどうかは魔力量に依存するが、弱い魔法は魔力操作の精度に依存する」
身体強化が異常にうまいのも、魔力操作の精度が極めて高いことと無関係ではないだろう。
「同時、しかも複数の火力を操っている。あれができるのは宮廷魔導師にもいないよ」
「ティルがそういうならそうなんだろうな。……さすがはノエルだ」
フィロは嬉しそうにノエルを見つめている。
その間にもノエルは、どんどん肉と野菜を焼いていく。
「ペロは……ガルガルと同じくらいたべるか?」
「わぅ~」
「うむ。モラクスは……僕といっしょに山菜たべるか?」
「もうも」
「あ、そっか。かあさまたちも人族だものな?」
そういうと、ノエルは、大量の肉に加えて、追加で沢山の野菜を焼き始めた。
「山菜もたくさん焼いておこ」
本当に見事な魔力操作だ。
「ノエルは本当に魔法を使うのがうまいな」
俺がノエルに声をかけると、
「そっかな? ティルも魔法がうまそうだけどな?」
笑顔のノエルがこちらを見て返事をする。その間も魔力操作はよどみない。
「俺も得意だが……ノエルの魔法とは体系が違うな。無詠唱でここまで威力を出せるとは」
「ほむ? 僕の魔法はママに教わった猫魔法だからな?」
「猫魔法……それは気になるな」
本当に気になる。
竜よりも強く、千年以上生きているという聖獣の守護者、影歩きのジルカの魔法だ。
どのような魔法理論なのか知りたい。
「ノエルがお肉をやいている……立派になって」
「あんなに小さかったのに……」
一方、フィロとカトリーヌは、ノエルが元気に肉を焼いているのを見て感動している。
カトリーヌは涙ぐんでいるほどだ。
しばらくしてノエルは肉と野菜を焼き終わった。
「焼けたよ! かあさまととうさま! はい。ティルとペロも。モラクスも野菜焼いたよ!」
「ありがとう。ノエル。立派になったな……」
「ノエルは本当に大きくなって……」
お肉と野菜は岩を加工したお皿に乗せられている。
「えへへ。ノエルは肉やくのうまいからな? 一杯食べてな? ティルもな?」
「ああ、ありがとう」
「ペロとモラクスもな?」
「わうわぅ」「も~」
ノエルが全員にお肉と野菜を配り終えると、皆で同時に食べ始める。
「うん! やっぱりお肉うまいなー」
「がふがふがふがふ」「なぁな」「みゃむ」「にゃむ」
ノエルやガルガル、子猫たちは本当においしそうにご飯を食べている。
「うん。火加減が丁度良いな、ノエル美味しいよ」
「ええ、とても美味しいわ。ノエルは本当に上手なのね」
「よかったー」
フィロとカトリーヌも嬉しそうだ。
「ノエルは料理がうまいな。俺より肉と野菜を焼くのは上手だな」
「えへへ、ティルよりもかーえへへへ」
ただ焼いただけなシンプルなお肉と野菜だ。
それでも、火加減が素晴らしく、とても美味しかった。
夕ご飯を食べた後、子猫と遊ぶノエルに向かってカトリーヌが切り出した。
「ノエル、シルヴァとも話し合ったのだけども、ノエルはティルの拠点に移るのがいいと思うの」
「むむ? ティルの拠点? 詳しく聞かせてな?」
ノエルが俺の方を見て首をかしげる。
「ええとだな、まず俺の拠点について説明しよう」
俺はノエルが不安にならないよう、なるべく細かく拠点について説明していく。
「遠くとも、我ならば一時間程度で行き来できるゆえな」
「ママは凄いなー」
「俺の拠点は、子猫の育成環境としてもいいし、人族の領域にも近いんだ。聖樹の育成もできる」
俺の説明を聞いたノエルの反応は悪くなかった。
「俺の拠点からなら人族の領域にも行きやすいしな」
「なるほどー。悪くなさそう」
「だろう?」
ノエルは少し考えると、ガルガルを見る。
「ガルガルはどうする?」
「がうがう!」
ガルガルはノエルと一緒に行くと力強く吠えている。
同じ犬科のペロと一緒に暮らしているからか、俺にもガルガルの言葉は何となくわかった。
「ありがとな?」
「がーうがうがう」
ガルガルはノエルの顔を舐め回し、ノエルはガルガルのことを抱きしめながら優しく撫でる。
「まあ、決めるのは俺の拠点を実際に見てからでいいよ」
「そだな! うん! そうする」
「がうがう!」
そして、ノエルたちが俺の拠点を訪れることに決まった。




