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最強魔導師は不毛の大地でスローライフを送る ~凶悪な魔物が跋扈し瘴気漂う腐界でも、魔法があれば快適です~  作者: えぞぎんぎつね


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52 拠点に戻ろう

 次の日の朝、ノエルが焼いてくれたお肉を食べてから出発することになった。


「ノエル。準備を手伝おうか? 持って行きたいものはないのか」


 朝食後俺が声をかけると、ノエルは首をかしげて考える。

 その横ではガルガルも一緒に首をかしげて考えていた。


「うーん。あ、いるみんのむすめ、つれていく! まだノエルがそだてないとだしな?」


 聖樹の若木のうち、まだノエルが育てる必要がある幼い木が三本あるらしい。

 それをモラクス、ペロ、シルヴァが口に咥えて運ぶことになった。


「他の聖樹は持って行かなくてもいいの?」


 そう聞くと、ノエルは誇らしげに言う。


「いるみんのむすめたちはだいぶ強いからな?」

「強いってどういう?」

「えっとだな。魔物がちかづいてきたら、つかまえてチューチューすうのな?」

「食虫植物みたいな?」

「そうそう!」


 どうやら成長した聖樹は自分で動くことができ、魔物を捕まえて倒すこともできるらしい。


「それはすごいな」

「ああ、よほど強力な魔物でない限りは大丈夫であろう。魔王種も倒れたばかりであるし」


 魔王種が討伐された今、魔物の強さも落ちている。だから大丈夫だとシルヴァが教えてくれた。


「魔王種が倒されて良かったな」

「ああ、ありがとう。礼が遅くなった。ジルカから聞いた。ティルが倒したのだろう?」

「俺は手伝っただけだよ」

「ジルカは、ティルがいなければやられていたと言っていたがな」


 そういって、シルヴァは深く頭を下げる。


「改めて、全ての聖獣を代表し、影歩きのシルヴァが礼を言う」


 きっと、お礼を言うタイミングを窺っていたのだろう。

 初めて会ったときはノエルと父母の再会を優先して、お礼を言わなかったに違いない。


「お役に立てたならよかったよ」


 俺とシルヴァがそんな会話をしている間、ノエルは残された聖樹の若木を優しく撫でていた。


「いるみんのむすめたち。元気でな? もうノエルがいなくてもだいじょうぶだな?」


 ノエルが優しく語りかけると、聖樹はゆったりと動いてノエルの頭を撫でた。


「ママをおねがいな? うん。心配しなくてもノエルはだいじょうぶだ」


「……ほんとに聖樹は動くんだな」

「だから言ったであろう?」


 俺とシルヴァは小声で話す。ノエルと聖樹の別れを邪魔しないようにだ。


「ノエルの方こそありがとうな? うん。いるみんの娘たちは、ノエルの娘でもあるからな?」

「…………」

「ノエルはわすれない。いるみんのむすめたちもノエルをわすれないでな?」


 しばらくノエルは聖樹の若木との別れを惜しんでいた。


 別れを済ませて、聖樹の若木から離れたノエルに、シルヴァが優しく声をかける。


「ノエル。準備はよいのか?」

「うん、ママ。だいじょうぶ。ガルガルは?」

「がうがう!」

「え? それもってくのか?」

「わふ~」


 ガルガルはどうやら、お気に入りの木の棒を持って行くつもりらしい。


 準備が終わると、ついに出発だ。

 足の遅いカトリーヌと子猫たちはそれぞれシルヴァとガルガルの背に乗った。


「ノエルもシルヴァの背に乗せてもらった方が……」


 心配してフィロがそういうが、ノエルは元気に胸を張る。


「だいじょうぶ! ノエル、はやいからね!」

「だが……」


 我が子を心配するフィロの気持ちはわかる。

 だが、魔導師である俺としてはノエルの心配をする必要はないと思う。


 魔力が豊富なうえ、身体強化の魔法が抜群にうまいからだ。

 なにせ、ペロとガルガルと本気でじゃれつけるほどだ。五歳児と考えない方がいい。


「大丈夫だよ。ノエルは速いよ。体力も充分だろう。シルヴァもそう思うだろう?」


 俺がそういうと、シルヴァは頷いた。


「ああ、むしろフィロがバテないか、心配なくらいである」

「そうか。シルヴァがそういうならば……」


 一晩経って、フィロも敬語を使わなくなった。

 昨夜、シルヴァが何度か、敬語は不要だといったためだろう。


「それじゃあ、付いてきてくれ」


 そういって、先頭をフィロが走り出す。

 その後ろをガルガルとノエル、更に後ろにシルヴァと俺が続く。

 ペロとモラクスは周囲を自由に走り回っていた。


 フィロとカトリーヌ、そして俺は瘴気除けの仮面をかぶる。

 俺の仮面をノエルに勧めたのだが、いらないと断られてしまった。


「みえにくいからな? あついし?」

「まあ、そうだな。だが瘴気は体に悪いよ?」

「ノエルはママのお乳を飲んでそだったから、聖獣みたいなものだし? 余裕なの」

「そっか、すごいな」


 走り始めて、三十分後、


「まものだよ! まかせてな?」

 ノエルがそう言った次の瞬間、体高二メートル近い巨大な魔猪が突進してきた。

 拠点近くに出没する魔猪に比べて、大きいだけでなく、魔力量も多かった。


 かなりの強敵だと思ったのだが、

「にゃっ!」

 ノエルが一声叫んだ次の瞬間、魔猪は氷の槍で貫かれて息絶えた。


「にゃ?」


 倒した後、ノエルはどや顔でフィロとカトリーヌを見る。褒めてほしいようだ。


「ノエルすごい!」

「立派になったわね!」

「えへへ、がんばったー」


 望み通り父母に褒められたノエルはとても嬉しそうに笑う。


「ティルもノエルの魔法みた?」

「見たよ。ノエルの魔法は本当にすごいな」

「えへへー」

「ニャって言うのもいいね。 おっと、お肉を運ぶのは、俺に任せてくれ」


 ノエルが魔猪の肉を担ごうとしたので、魔法の鞄に収納していく。


「おお? おおお? なにそれ? それなんだ?」

「これか? これは魔法の鞄と言って――」


 魔法の鞄に興味津々のノエルに、丁寧に説明する。


 収納を終えて走りはじめても、ノエルは俺の横に来て話を聞きたがった。


「ほえー、ティルはすごいな?」


 走りながらノエルが尊敬の目で見つめてくる。


「期待させて悪いが、俺が作ったんじゃないよ?」

「え? じゃあ、だれがつくった?」

「俺の師匠だな。カトリーヌの師匠でもある」

「ほえー、ティルとかあさまのししょうは、すごい魔導師なのだな?」


 すると、シルヴァの背に乗ったカトリーヌがこちらを振り返って言う。

 シルヴァはかなり速く走っているのに、ほとんど揺れていないようだ。

「影歩き」の二つ名は伊達ではないのだろう。


「師匠は本当に凄い魔導師よ。人族史上最強と言っても過言ではないわ」

「ほえー。ティルとかあさま、そんなすごいひとの弟子なのかー」


 ノエルの目がキラキラしている。

 凄い魔導師なのは間違いないが、人族史上最強はさすがに褒めすぎな気がする。


「私は魔導具づくりを教わっただけなのだけど、兄弟子はもっと色々教わっているの」


 だから、俺の方が凄いとカトリーヌは言う。


「すごいな? ティルは魔法の鞄、作れる?」

「…………相当頑張れば」

「おおーすごいな。それにティルは、まおうしゅ? とかいうすごい魔物もたおしたのな?」


 ノエルが期待にこもった目で見つめてくる。


「俺一人の力じゃないよ。モラクスの母とペロの両親とジルカっていう――」


 俺は魔王種を倒した時の状況を軽く説明した。


「ほえー。すごいんだなー」

「ああ、ジルカたちは三週間も飲まず食わずで戦い続けていたからな」

「さんしゅうかんも? おなかへっちゃう」

「本当にな。人族なら死んでるよ。俺は最後にとどめをさしただけだ」

「すごいなー。あ、ノエルは聖獣だから三週間ぐらいいけるな? ためし――」


 そんなことを言い始めて、

「やめなさい」「馬鹿なことを言うでない」

 カトリーヌとシルヴァに怒られていた。


「ノエル、た、たべるよ? ごはんすきだしな?」

「そうよ。まだ子供なんだから。お腹いっぱい食べなさい」

「カトリーヌのいうとおりである」


 俺もカトリーヌとシルヴァの言うとおりだと思う。

 ノエルが聖獣の特性をどの程度持っているかはわからない。

 それはそれとして、子供の間は断食などすべきではない。


「でも、聖獣ってすごいんだなぁ。三週間もたたかいつづけるなんて」

「俺からしたら『にゃ』で魔法を発動させたノエルの方が凄いけどね」

「そうか?」

「ああ、普通は詠唱が必要だからな」

「ほえー。ふつうがよくわからんな?」


 そんなことを話していると、また魔物の気配を感じ取った。

 今度は上空を飛ぶ魔鳥だ。翼開長は二メートル程度だが、魔力が大きく、かなり強力だ。


「あ、魔物! こんどはティルおねがいな?」

「俺の魔法がみたいの? いいよ」

「やったー」


 次の瞬間、魔鳥が急降下を開始したので、


魔槍(ハスタ)魔壁(ムールス)


 魔槍で仕留めた後、魔壁で落下を受け止める。


「おー! ティル! すごい!」

「ありがと」


 目をキラキラさせて褒めてくれるノエルの頭を撫でると、魔法の鞄に魔鳥の死体をしまう。


 走り出すと、ノエルが元気に言う。


「はすた! むーるす! これがえいしょうかー。ほむ~」

「そうだよ。だいぶ短縮はしているけどね」

「すごくなんか、魔力の流れがあれだな?」

「あれとは?」

「うーん。言葉はちがうけど、僕の『にゃっ』と同じ?」


 一目で詠唱の本質を理解するとは。さすがの才能だ。


「正解。そもそも、詠唱というのは――」


 普通の魔法の詠唱も、勅許魔法の詠唱と基本的には同じなのだ。


 ただ、勅許魔法の詠唱は神に使用許可を申請するもの。だから言葉が厳密になる。

 それ以外の魔法も、使用のお伺いをたてることに変わりはないが、相手は世界だ。


「ノエルの『にゃ』は聖獣の言葉だろう?」

「うん。そだな?」

「聖獣は音ではなく魔力に意味を持たせるから、音自体は重要ではないんだよな?」

「……そだな?」


 ノエルとしては聖獣語はあまりにも日常的なもので、意識して使っていないのだろう。

 人が歩き方を意識して歩かないようにだ。


「でも、ティルのハスタって、どのへんが、おうかがいなの?」

「実は、俺も魔力に意味を乗せているんだよ」


 それはものすごく難しいことだ。

 師匠に厳しく指導されても、身に付けるまでに一年もかかった。


「ノエル。普通の詠唱はもっと長いの。兄弟子はものすごい魔導師だから異常に短いのよ?」

「そうなの? かあさまのえいしょうは?」

「魔法は発動せずに詠唱だけやってみるわね?」


 カトリーヌは「失礼」といって、シルヴァの背の毛をがしっと掴んでこちらを向く。


「いくわね。世界に偏在する雷の精霊よ。古に結ばれし盟約に従い我の願いを叶えたまえ。我の魔力を糧とし、この世界に奇跡の力を顕現せん。天神の轟雷」

「おお~」

「これは雷を落とす魔法の詠唱。ね、ノエル長いでしょ?」

「ながいな? まものにやられちゃうな?」

「そうね。だから前衛がいるのよ」


 詠唱している魔導師を、体を張って守ることは前衛の大切な仕事だ。


「やっぱり、みじかいほうがいいな?」

「当然そのとおりだよ。その点は聖獣語の方が、便利だな」

「そっかー」


 俺とノエル、そしてカトリーヌは魔法談義をしながら、拠点に向かって走り続けた。

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