第8話
「いやーすいませんね初対面でごちそうになっちゃってあははー」
「いや……お前が勝手に付いて来ただけだからな?」
遠慮なく料理にがっつく黒褐色の肌の青年。
ここは港から近くにある安料理屋、外は既に暗く他の店も繁盛している。
傷だらけの机に並ぶのは乱雑に切られたチーズ、葡萄酒、魚の塩焼きなど…
彼はそれらを全部食べ尽くす勢いだ。
(早く食わないと俺の分が無くなるな)
「そういや名前言ってなかったな、マブトだ。よろしく」
「よろしく。俺はアダンだ……おいそれは俺の魚だ」
簡単すぎる自己紹介をしながら彼はアダンの分の魚にまで手をつけはじめた。
「うんんんんんんんんんんんんんん!!」
「は、な、し、やがれえええええええええ!!」
全力で魚の乗った皿を掴み合う二人。
このあと盛大に皿をひっくり返し、店長に起こられた。
「ふぅ……満腹だ」
「そいつは良かったな」
憎々しそうに軽口をいいつつ、店の明りで明るい夜道を歩く。
宿代以外ほぼ飛んでいき、軽くなった財布を見ながら彼らは宿に向かっていた。
アダンの後ろにはなぜかマブトがしっかりついてきている。
「なあアダン。お前の宿に泊まっていいか?宿取ってなくてな」
「断る。しかもお前文無しだろ。俺も二人分の金払うだけの余裕は無いぞ」
「野宿かよ……死んじまうぜ」
「俺は知らない。飯おごってやっただけで感謝してくれ」
「残念だなぁ……うん?」
「どうした?」
立ち止まったマブト彼の視線の先にはボロボロの掲示板があり、彼はそれを凝視している。
「…………」
「どうした?」
「……ああいや、何でもない。さーてアダンちゃんの宿に行っちゃうぞー!」
「さっきも言っただろ。泊めないっての」
マブトがみていたボロボロの掲示板。
そこには何枚かの似顔絵が乱雑に貼られ、そのうちの一枚にこう書かれていた。
『薬の番人 アダン・ルー 生死を問わず』
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