第67話
泥で金属部分を汚した弩を手に林の中を進むアダン。
彼は枝の上に居るそれを見て怪訝そうな表情を浮かべた。
(案山子……か?」
アダンの目の前に見えてきたのは木の枝の上にたたずむ人ほどの大きさの布がかぶせられた物体。
(あんなわかりやすい場所にいるわけがない。となるとあれが確認できる場所にいるはずだ)
アダンが周囲を確認すると……居た。
(あいつだな)
茂みの中に紛れて腹ばいになっている人物がいて、確かに周囲を警戒している。
(貰った!!)
引き絞られた弩から矢が放たれる。
そして……
「ぎゃあッ!?」
(なに?)
聞こえてきたのは男の声、それも子供のものだった。
(どういう……)
一瞬、ほんの一瞬茫然とした。
その刹那。
「ぐがッ!?」
左手方向から飛来した矢がアダンの左腕を貫いた。
「向こうか!くそったれ!!」
もう位置は完全にばれた。
アダンは立ち上がり矢が飛来してきた方向から大きく回り込むように走り出した。
(走りにくいな糞が……!!)
片足だけはまる様な落とし穴が乱造されている。
それらをよけながらロレッタの場所を確認しなければならないのが今のアダンにとっては辛かった。
「おおっと!?」
歯噛みしていると目の前の地面に矢が突き刺さった。
「くそったれ!くそったれが!!」
そう叫びながら今度は後ろへと後退していく。
完全に逃げる態勢になっていた。
(逃げろ逃げろ、怯えろ)
口角を吊り上げ笑うロレッタ、彼女は林の中を逃げまどうアダンを後ろから一定の距離を保ちつつ追っていく。
(銀貨2枚で身代わりを作れたのは良かったですね)
アダンが射った身代わりの少年、彼はロレッタが近くの村で雇った子供。
茂みに寝そべって待つだけで銀貨2枚と伝えれば喜んで少年は付いてきた。
(けど少し気の毒なことをしましたね。貧乏で食事もあまり取れてないと言ってました)
射ぬかれて悲鳴をあげているのだろう、彼の声が林のなかで木霊している。
(おっと、余計なこと考えすぎました。師匠は……と)
負傷した腕をかばいながら移動しているアダン、彼の通った後には点々と血が付着している。
ロレッタからしてみればとても追いかけやすい。
(乾いてもいない。すぐそばにいますね)
血痕は右へと続いているが……
(左か……)
左に顔を向けた瞬間、木の後ろから全力で鞘に収まったままの剣を振りかざしてくる人影があった。
アダンだ。
「片手じゃ辛いでしょう?師匠」
「やかましい!!ロレッタ!お前はなぜ俺たちを攻撃した!?」
とはいえアダンは片手、ロレッタの持つ鎌のような短剣に受け止められてしまった。
「何故……?」
「お前に俺たちを殺す理由は無いだろうが!!」
「……本当に、あなたって人は……どこまで僕を失望させるんですか」
「何?」
剣を受けつつ、彼女は少しうつむいた。
「死んでください。無様に、醜く、誰に看取られることもなく」
至近距離で、アダンとロレッタは切り合いを始めた。
どす黒い殺意を刃にのせて。
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