第65話
「くそっ……やりやがるな」
「大丈夫か!?」
霧がうっすらと出ている朝のこと。
アダンは苦しそうに呻きながら右の二の腕に突き刺さった矢を引き抜きつつ、マブトと共に道端にある岩に身を隠していた。
「デカイ声を出すな」
南に向かっていたアダン達、数日たったある日のことだった。
ロレッタがどこかに消えた。
そして彼女を二人で探している最中、アダンは射られたのである。
(やったのはロレッタだろうな……だがなんでだ)
アダンは自分に突き刺さっていた矢を見る。
鎧を撃ち抜く為に返しのない矢尻に烏の羽を使った矢羽……
ロレッタが使っていたもので間違いない。
「逃げようぜ!馬を使えばどうにか」
「言われなくてもそうするさ、走るぞ」
アダン達が連れていた馬まではある程度の距離がある。
普通に走るだけでは矢で射られて終わり……
少し思案したのち、彼は懐から煙を発生させる小袋をいくつか取り出した。
「高いんだぞこれ、おまけに作るのも大変なのによ!!」
「んなこと言ってる場合かよ」
悪態をつきながら彼は勢いよく投げつけた。
「いくぞ!走れ走れ走れ!!」
「ああクソ!!なんでこうなった!?」
全速力で馬に向かって駆ける二人、だが……
「ギャッ」
「マブト!!」
隣で追走していたはずのマブトの右足に飛来した矢が突き刺さった。
「行け!アダン!撃ってきてる奴を倒してこい!!」
「……待ってろ」
後ろを振り返ることなく走り抜けるアダンと矢が突き刺さったまま元の岩陰に戻るマブト。
「痛ッ……」
マブトが戻る間でも、矢は容赦なく射られた。
煙の切れ目を、動く陰を狙って射られた。
そして放たれた矢の一つがアダンの背中を掠める。
(あのアマ……きっちりお仕置きしてやるから覚悟しやがれ)
アダンは馬に跨がると全速力で走らせた。
「……そう、それでいいんですよ師匠」
アダン達が居た岩の正面にある林、そこにロレッタは居た。
弓を構え、じっと木の上で佇む彼女の視線はアダンに釘付けだ。
「もっともっと足掻いて下さいね。そしてボロボロになって、これ以上無様にはならないってなったら……その時は」
きっちり殺してあげますから……
にやりと底冷えするような笑みを浮かべた彼女はそう言った。




