第19話
「う……ん」
「おいアダン!起きろ!」
心地よい眠りから目覚め、目を開いたアダン。
彼が最初に見たのは眉をひそめたマブトの顔と青空だった。
(青空?)
違和感を感じて体を起こす。
(夢……だったのか?)
二人は昨日の夜、エリザの家『黒猫亭』で泊めてもらっていたはずだったが……
確認すると今居る場所は彼女と出会った場所。
そこで二人は眠っていた。
「なあアダン、エリザちゃん覚えてるか?」
「ああ……お前もか」
聞こうと思っていた事はマブトから言ってくれた。
「夢じゃないよな?」
「俺達はエリザの家で厄介になってた筈だ。お茶のんで粥食って話をして、それからあの家で寝た」
「ちょっと……行ってみるか?」
「ああ」
「どうなってやがる?」
「分からん」
二人は昨日黒猫亭があったところに来て、唖然とした。
そこにあったのはただの瓦礫と雑草の山、他の建物と変わらない。
昨日見たような建物は影も形も無かった。
「これも古いな。だいぶん前に崩壊してる」
「エリザちゃんは何処に行ったんだ?」
どこを見回しても瓦礫と雑草まみれの道ばかり、彼女の姿などどこにも……
「ん?」
周囲を観察していたアダンの視線が、ある一点に釘付けになる。
「おいあれ」
「おお!なんだいるじゃないか」
こちらに向かって歩いてくる女性の姿が遠目に見えた。
とても彼女に似ていて、二人は思わず駆け寄った。
「ええと、あなた方は?」
「何言ってんだよエリザちゃん。昨日会っただろう?」
声の届く場所まで彼女に駆け寄ると、怪訝そうな顔をする彼女にそう言った。
彼女はカモミールで作られた花束を持っている以外、顔つきも昨日見た彼女と変わらない。
「エリザ……?」
「どうしたんだい?」
「……なるほどな。確かに顔は似てるが声が違う」
「じゃあエリザちゃんは何処に行ったんだ?君ここに居た人知らないかい?『黒猫亭』って宿の女将さんなんだけど」
マブトの言葉に、なぜかその女性は呆然としながらうっすら涙を浮かべ始めた。
「え?ちょっと、なんで泣くの?」
「……エリザは私の母の名前です。もう10年以上前に亡くなってます。『黒猫亭』もその時に潰れました」
「そんな馬鹿な。じゃあ俺たちが会ったエリザちゃんは一体」
「よくわかりませんが。ひょっとしたら助けてくれたのかもしれません。貴方達を」
「助ける?」
彼女は目尻についた涙を拭いながら続けた。
「この村は昔、流行り病で壊滅状態になりました。けど病気のせいか近くの村は村人を受け入れてくれなくて。母は残った人が全員居場所が見つかるまでこの村に留まり続け村人や病人の世話をし続けたんです」
「……」
「そんな母だから。貴方達の事も放っておけなかったんじゃないでしょうか」
「そうか……そんなことが」
「いい母親だったんだな。俺達もあんたの母親のお陰で助かった」
よくよく考えてみれば、あんな場所で寝ていたらどんな目にあっていたかもわからない。
そんなところを助けてくれたエリザには感謝しかない。
「そうか、まだ母さんはここにいるんだね。私もいつか……母さんみたいになるよ。誰かを全力で助けてあげられるような、そんな人間に」
二人に見守られながら彼女が花束を瓦礫の山に置くとそよ風が彼らの頬を優しく撫でた。
「……さて行くか。お嬢ちゃん家何処だい?送るよ」
「ありがとうございます」
「行こうぜ、アダン」
「ああ」
『またのお越しを』
不意に声が聞こえた気がして振り返ったが、そこには誰も居なかった。
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