第16話
「うおおおおッ!!早くしろアダンんんんんんんッ!!」
「もうちょい、もうちょいだ!!背をあと頭一個分伸ばせマブト!!」
「無茶言うな!!」
ヘルガとの戦いの後、アダンはマブトと共に鉱山都市を脱出。
交易道を通って次の目的地である街まで行こうとしていた。
だが道中どうしても野宿の必要がある。
食料も水も何も準備せずに出てきてしまった弊害がここで初めて出てきたのだ。
二人は食料確保のために道を外れ森に入り、小一時間ほど歩いてようやく葡萄のなる木を見つけたのだが……
「あっ……」
「うおっ!?馬鹿!おわぁッ!」
葡萄はかなり高い位置にあった。
どうしたものかと悩んだ末に肩車をしてとることに決めたのだが結局取れず、倒れて地面と熱い抱擁をする羽目になった。
「きっとあの葡萄は酸っぱいんだ」
「それどっかで聞いたことあるぞ」
「奇遇だな。俺も言っててそう思った」
落ち葉の上であおむけになりながらアダンは皮肉を言った。
「おじちゃん達、何してるの?」
「うん?」
大の字で寝転がっていると背中に大きな籠を背負った幼女が二人の顔を覗き込みながら話しかけてきた。
「ああうん。ちょっと地面とお話してるの」
「そうなのよ」
不思議そうに首を傾げながら、アダンたちが見ている方向を見る幼女。
「……もしかして葡萄取りたいの?」
「…………」
(ここで『はいそうです』って言うのは恥ずかしすぎる)
「そうなのよ。このアダンおじさんがね。どうしても欲しいって言うもんだから」
(マブトォォォォォッ!!)
マブトの方へ視線を向けると、彼は寝っ転がったまま頭を明後日の方向に向け視線を逸らした。
「私がとったげるよ。ちょっと待っててね」
「おいお嬢ちゃん。危ないからやめときな。怪我しちゃいけない」
「大丈夫大丈夫」
そう言うと幼女は葡萄の枝が絡む木を籠を背負ったまま器用に登っていく。
「すげぇ……」
「子供に負けた……」
「取れたよー。うわッ!!」
「危ないッ!!」
あっという間に葡萄を取って下にいる二人に見せようと片手を離した瞬間、彼女は枝から落ちた。
「あ、危ねぇ……」
「その子は無事かアダン?全く寿命が縮むぜ」
「こ、怖かったよ」
幼女をすんでの所で受け止めたアダン。
下ろしてやると彼女は震える手で葡萄を渡してくれた。
「ありがとうな。お嬢ちゃん」
「一緒に食おうぜ。せっかく身をはって取ってきてくれたんだからよ」
「う、うんっ!」
はじけるような笑顔に、思わず癒された二人だった。
「じゃ行くね。さよならおじさん」
「ああ、気をつけてね」
「ありがとうねー」
葡萄を食べ終わった幼女は籠を背負い直し、手を振りながら去って行った。
「いい子だったな」
「ああ、俺の子供の頃思い出したわ」
驚愕しながらマブトを見る。
「親に身売りされてな。山で朝から晩まで宝石掘ってた」
「本当か?」
「本当さ。掘ってる最中に穴を材木で支えるんだけどな、支える材木が小指位の太さしかないんだ。何を支えるんだっての」
「……それで?」
「逃げたよ。命がいくつあっても足りないからな。さて行こうぜ。思い出したくない」
「ああ」
(人間色々あるんだな)
二人は馬を止めている場所を目指し歩いた。
「誰か!!助けて!!」
森を抜けたあたりで、悲鳴と助けを求める声が聞こえた。
それは先ほどの幼女のもので、二人の足は自然と声がした方へと向かって行く。
「あのお嬢ちゃんの声だ!!」
「アダン行くぞ!!」
無我夢中で走っていくと段々と幼女の姿が見えてきた。
同時に見たくないものも……
「熊ッ!?」
「クソッ!!間に合え」
幼女を追い回す巨大な熊の姿。
茶色い体毛と巨大な筋肉を躍動させながら今にも目の前の獲物をかみ砕こうと迫る。
(弩を……)
荷袋に入っている弩を取り出し、熊に向かって狙いをつける。
(駄目だ、間に合わん)
悔しさで下唇をかみしめた瞬間。
「どいて」
黄金色と蒼の残像を残しながら何かが熊に突進、熊は吹き飛ばされすんでの所で幼女が救出された。
「貴方に罪は無く、私は貴方を殺さない。森にお帰り」
「お、お前は……」
二人の視点は抱きかかえられたまま泣きじゃくる幼女や熊ではなく、ある一点に視線が釘付けになった。
「ヘルガ……」
切っ先の無い剣を背中に背負い、黄金色の髪をなびかせる女。
ヘルガの姿がそこにはあった。
「逃げろ!お嬢ちゃん!」
「待てマブト」
言葉通りに熊が森に帰っていくのを見届けながら、幼女を降ろした。
「ヘルガ、その子は」
「別にどうもしない。お行きなさい、家族が心配してるわ」
にこりと笑いながら幼女にそう言った。
アダンたちに剣を向けてきた人物と同一人物とはとても思えないが……
幼女が完全に見えなくなるまで見守った後、彼女は二人に向き直る。
思わず身構える二人。
「…………」
「…………」
真剣な表情で向き合い……そして。
「……ふわぁ」
「え?」
口に手を当てながら大きくあくびをすると、二人には何もせずに明後日の方向に歩いて行ってしまった。
「見逃してくれたのか?」
「さてどうかな」
困惑するマブトを見てアダンは引きつった笑みを浮かべた。
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