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34話 ダークエルフ 

 今から役250年前、シルヴェスタ全土は大飢饉に見舞われた。


 その年は日照不足で作物が思うように育たず、それでもやっと実りがついてきたところを、大雨と竜巻が襲ったのだ。


 当時の国王ベルフットは王城の備蓄のほとんどを国民に排出し、人間族も魔族も少ない食料を分け合って協力しあう。 決壊した河川を修復し、壊れた住居を立て直す…… ベルフットを主導に、一丸となってこの前例のない危機を乗り越えようとしていた。 これまで以上に人間族と魔族の絆が深まっていたそんな矢先、メゾットの町の遊郭で、正気を失った若者達が暴れ狂ったのだった。


 その若者達は人間族魔族の種別には関係なく、一つの遊廓の近くにいたものばかり。 若者達は無差別に人々を殺し、メゾットの町の半分はあっという間に血の海へと変わり果てた。


 なぜ若者達が暴走してしまったのかは誰にも分からず、ベルフットはやむなく暴走した若者達を軍を派遣して鎮圧に乗り出す。 狂った若者達は本能のままに暴れ狂い、武装した兵士にも犠牲者が出るほど抵抗を見せた。 若者達は正気に戻る様子がなく、捕縛しても殺すしかない。 この時、犠牲者を含めてその数は200人を超えたのだった。


 鎮圧後、軍が調査を進めていくうちに一つの惨状を目の当たりにする。 腹を裂かれて絶命した人間族の女性と、その横には血の海の中に赤子の死体があったのだ。 赤子は人間族の容姿ではあるが、耳が異様に横に伸び、腹にはまだヘソの緒が残っていた。 人間族と魔族の混血…… その赤子は、交わることがないとされていた種族間の子どもだったのだ。


 遠吠えのような鳴き声が聞こえたかと思うと、急に若者達が暴れ出した。 そう現場近くにいた老夫婦の証言があった為、赤子の発する鳴き声に若者達は惑わされたのだと断定されたのだ。


 数日後、この悲惨な事件と大飢饉の原因は、全て人間族と魔族の混血によるものと噂が広まった。 以来、両族の間に生まれる子は『禁忌の子』とされ、神の申し子と言われる架空の種族『エルフ』の容姿に似ている事から、皮肉を込めて『ダークエルフ』と呼ばれるようになったのだ。




  ごめんなさい…… 


 生まれたばかりのマリアは、両親にそう告げられてルーツ山脈の中腹に捨てられた。


 マリアの両親は翼を持つガーゴイルと人間族。 禁忌と知りながら交り、運悪く(・・・)身籠ってしまったのだ。 国にバレれば極刑に処されるのは必至…… 両親は我が身可愛さに、マリアを野生動物や蟲に始末させようとしたのだ。


 だがマリアは、子供を諦めていた旅商人の人間族夫婦に偶然拾われ、愛情を込めて育てられるのだった。


 やがてマリアが15歳を歳を迎えた頃、一向に幼女から成長しない体とダークエルフの特徴とも言える尖った耳をマリアに認めた夫婦は、マリアを家に残したまま行方をくらました。 マリアは帰ってくる筈のない両親を待ち続け、捨てられたと気付いたマリアは、食料が尽きた事をきっかけに家を出たのだった。


 少しばかり魔法を習っていた事を活かし、マリアは軍の魔導士養成所に飛び込んだ。 魔力が豊富なマリアはめきめきと上達し、あっという間に養成所のトップにまで上がった。


 トレードマークは頭をすっぽり覆う大きな黒いとんがり帽子。 マリアにしてみれば、他の者とは違う尖った耳が恥ずかしくて隠していただけなのだが、それがダークエルフであることをうまく隠していた。 



 魔導士としてエリートの道を進んでいたそんなある日、マリアに暗雲が立ち込める。


「変な耳ー! なんで尖ってるのー? 」


 近所の子供達の遊び相手をしていた時に、帽子を取られて耳が露呈したことから、マリアの生活は一変した。 伝記に出てくる『エルフのような耳』と騒ぐ子供達の声は親の耳に入り、すぐに王国軍によって拘束されて地下牢に放り込まれてしまう。


 当時ダークエルフの存在を知らなかったマリアは、突然の転落人生と恐怖に飲まれ、気が付けばいつの間にかルーツ山脈の奥深くまで逃げていたのだった。


 執拗に追ってくる軍の目を掻い潜り、湧いてくる蟲を払いながら送る日々は、着実にマリアの体力を奪っていった。 温存しながら使っていた魔力も底をつき、朦朧とする意識で山中を彷徨っていたマリアを救ったのが魔王リゲルだった。



  命あるものを助けるのに種族など関係ない 

 


 リゲルは一目でマリアをダークエルフだと見抜いたが、従者には任せず自らの手でマリアを抱えて魔王城へと連れ帰った。 当然、ルーツ山脈を越えてユグリアにも捜索の手は入っていたが、リゲルは魔王城への立ち入りを禁じてまでマリアを匿ったのだった。


 リゲルの献身的な介護もあってマリアは順調に回復し、やがてリゲルに恋心を抱く。 リゲルもまたマリアを愛したが、魔王とダークエルフの恋愛などあってはならない事。 マリアの今後を憂い、距離を取る為にマリアの身をフォーレイアに送るのだった。


 マリアはフォーレイアでも、人の目につきにくい郊外でひっそりと暮らしていた。 生活に必要な物や食料は全てリゲルが用意し、マリアは滅多に外出することはなかった。 だが如何に人目に付きにくい郊外と言えど、定期的に魔王の使者が出入りすれば不審に思う者が出てくる。 マリアは定期的に場所を変えて住み、時にはイグニスに移り住んで10年を過ごす。


 ただただ閉じ籠る毎日に、マリアは歴史書などの本を欲しがった。 魔力はすっかり回復し、成長するにつれて体から溢れてしまうほど魔力は大きくなっていく。 暴走する危険を感じたマリアは、書物で見た『レンゼクリスタル』が欲しいと使者に頼み、その溢れ出る魔力をレンゼクリスタルに食わせた。


 マリアがリゲルに拾われて10数年…… 使者が一通の手紙をマリアに差し出した。 それは魔王リゲルからのもので、このユグリア地方を出なさいという内容だった。 理由は知らされず、マリアも追及することなくリゲルの元を去る。




 マリアがユグリア地方から去った数週間後、『魔王討伐』を掲げた王国軍がルーツ山脈を越えてきたのだった。 




 

 

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