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33話 意外な共通点

 エンデヴァルドとリュウが旧魔王城へ行っている間、セレスとマリアはユグリアの隣町のフォーレイアに向けて足を運んでいた。


 フォーレイアはルーツ山脈の麓村イグニスとユグリアの中間に位置し、この地方の生活基盤を支える大きな村。 唯一の平野部に広がる町には約1000人が暮らし、食料の供給や備蓄、生活に必要な道具の生産等、役所的な役割を持っていた。


「この町も随分寂しくなってしまいましたね…… 」


 マリアはフォーレイアが見渡せる丘から町並みを見下ろして呟く。 飴玉事件以前はフォーレイアにも人間族の姿があったのだが、事件以降はそのほとんどがフォーレイアを離れていってしまったのだった。


「まるで、以前住んでいたみたいな事を言うのね 」


「住んでいましたよ。 10年位でしたけど 」


 後ろ手で懐かしむように目を細めるマリアを、セレスは『そう』と軽く流す。


「町に下りなくていいの? せっかくここまで来たのに 」


「ええ、こうしてフォーレイアをまた見れただけで満足です。 それに私達の容姿は人間族とほとんど変わりません…… 町を騒がせるのも気が引けます 」


 セレスは横目でマリアを見据え、ため息をついて近場の草むらに腰を下ろした。 懐からパイプを取り出し、口に咥えてマッチを擦ろうとしたが、おもむろにマッチを懐にしまい込んだ。


「あら…… マリア、火をつけてくれないかしら? 」


「忘れたんですか? 仕方ないですね 」


 マリアは指先に小さな火の玉を出し、屈んでセレスのパイプに火を灯す。 ゆっくりと吸ってタバコの葉が赤くなったのを確認すると、セレスはマリアの腕を引いて強引に横に座らせた。


「いい加減その秘密主義は止めなさいよ 」


「…… 別に何も隠してはいませんが。 あなただって人間族と偽って生きてきたのでしょう? リゲル様と面識があるようですし 」


 二人は目を合わせず、フォーレイアを見下ろしたままお互い独り言のように呟く。 しばらく無言で町を眺めていたが、先に口を開いたのはマリアだった。


「恐らくあなたもでしょうけど、私はあちこちの町や村を転々と移り住んで生きていました 」


「そうね、一か所に留まると成長の遅いダークエルフは目立ってしまうもの 」


 頷いたマリアは、町を眺めたまま膝を抱えて顎を乗せる。


「もう50年も前の事です。 カーラーンに住んでいた時、近所の子供にいたずらされて帽子を取られたんです。 迂闊でした…… 耳が変だと言われ、それが大人の耳に入ってダークエルフであることがバレました。 私は捕らえられ、カーラーン王城の地下牢に閉じ込められました 」


「あなただったの? 当時詳細は分からなかったけど、珍しく子供が処刑されると貴族の間で話題になっていたのを覚えているわ。 結局処刑する前に逃げられて、軍が必死になって探したのよね? 」


 ゆっくりとパイプを吹かすセレスに、マリアは苦笑いで返す。


「追いまわされて私はルーツ山脈に逃げ込みました。 一か月近く山中を逃げ回り、行き倒れたところをリゲル様に拾って頂いたんです 」


「よく逃げ切れたわね? 軍からも蟲からも 」


「危ない事もありましたが、運よく蟲が軍の目を(くら)ましてくれたようです。 蟲は焼けば美味しかったですよ? 」


 呆気に取られていたセレスは、端を切ったように笑い出す。 『でも分かるわ』とセレスは笑いながら頷いていた。


「あなたも追われたクチですか? 」


「追われる前に逃げてたのよ。 山中に身を隠したこともあった…… 空腹に耐えきれず焼いて食べたのだけれど、バッタの足が香ばしいのよね 」


「そうなんです! 手のひらサイズが身も柔らかくておすすめですよ 」


 思わぬ共通点にマリアとセレスは顔を見合わせて笑った。


「意外ですね…… あなたがダークエルフだとは思いもしませんでしたが、華やかな見かけによらず苦労もしてたんですね 」


「あなたと同じ悩みよ。 一か所に留まると、どうしても成長度合いでバレてしまうもの。 短期間だけど、ここやイグニスにお世話になったこともあるわ 」


 遠くを見るような目をするセレスに、マリアもセレスの目線を追いかけた。


「…… どうしてダークエルフというだけで虐げられなければならないんでしょう…… 」


「決して交われないとされた混血の種族…… ダークエルフは禁忌だとされた時代があったからでしょ 」


「それがそもそもおかしいんです。 私達が何をしたって言うんですか…… 」


 セレスは組んだ足に頬杖をついてパイプを吹かす。


「ダークエルフの存在が大飢饉を呼び寄せた、と唱えたバカ者がいたのよ。 私が生まれる少し前にね 」


「大飢饉と魔物化したダークエルフのことですか? 」


 セレスは頷き、煙が出なくなったパイプを手のひらに打ち付け、灰を落として立ち上がった。


「満足したなら戻りましょう。 こんな往来で話す内容でもないわ 」


 セレスは後ろを通っていったコボルトとゴブリンに視線を移す。 怪訝な表情を向ける魔族達を尻目に、マリアはとんがり帽子を深く被り、セレスは黒髪をなびかせてユグリアへと引き返していった。


 ふとマリアが冷ややかな目でセレスに愚痴を言う。


「セレスはいいですね。 人間族とほぼ変わらない容姿ですから 」


 マリアが指摘したのは、黒髪から見え隠れする耳の形だった。 ダークエルフの特徴は、横に真っ直ぐ伸びた尖がった耳だ。 マリアの耳はダークエルフのそれに対し、セレスの耳は少し横長ではあったが人間族のものに似ていた。


「切ってるのよ、これ。 あなたも試してみたら? 結構痛いけど 」


 髪を掻き上げて耳を見せるセレスに、マリアは驚きを隠せない。


「き…… 切るって、爪を切るように簡単に言わないで下さい! 」


 帽子越しに耳を押さえるマリアに、セレスはジト目を向けた。


「どうせまた元の形に戻っちゃうんだから一時凌ぎにしかならないんだけど。 帽子で隠すくらいなら切ってしまった方が気が楽よ? 」


 セレスは艶やかな黒髪を自慢するように、首を左右に振って耳を見せつけマリアを煽る。


「なんなら私が切ってあげましょうか? 慣れたものよ? 」


「…… また伸びてくるなんて信用できません! そもそもどうやってそんな綺麗に切るんですか!? 」


 珍しく涙目になるマリアに、セレスはニタァと不敵な笑みを浮かべた。


「感覚がなくなるくらいまで冷やして、ナイフでサクサクとよ。 ピアスの穴を開けるような感覚かしら? 」


「い…… いやあぁぁ! 」


 真っ青な顔で逃げ出したマリアを、セレスはクスクスと意地悪く笑う。


「それだけあなたはまだ甘いのよ…… 」


 目を閉じて軽くため息を吐いたセレスは、決して心では笑っていなかった。




 


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