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第九話 停滞

随分と間が空いてしまいました。申し訳ございません。

 教室に入ってきた男は身長二メートル程の大男で、肩まで伸びた金髪は軽いパーマがかかっている。その男の服は膨れ上がった筋肉のせいか今にもはち切れんばかりにぱっつぱっつだった。


「さて、喧嘩はいいものだが、これから私は君たちに授業をしなければならない。もしも君たちが互いに意見を言い合い、納得できているのなら授業に入ろうと思うのだが、どうかな?」


 涙が止まったジギスを見てこの教師は言う。僕とジギスは互いに目を合わせ、ジェルマンさんの方を見る。


「おお、二人の意見は一致したようだね、これぞ兄弟愛。いいものだ。……さて、これから授業を行っていくわけだが、先に自己紹介をしておこうか。私はジェルマン・ロティエ。君たちとは親戚関係になるね。君たちの祖父と私の父が兄弟だったのだよ。君たちの祖父がこのリーベルト家を継ぎ、当時女性しかいなかったロティエ伯爵家に私の父が入り婿として入ったのだ。つまり私から見た君たちは従甥になるね」


 父さんの従兄弟ってことかな? 伯爵家の中でもおそらく我が家と同格位の、もしくはより高い地位の家なのだろう。父さんがジギス――というよりアンネローゼが文句をつけられないようにと用意した人材だろうから。


「私が君たちに教えるのは貴族として知っておかなければならない知識だ。例えば、この町の名前、国の名前、それから街道の名前なんかもだね。将来的に君たちのどちらかがこの家の当主になる。周りからはこの頃からどちらが当主にふさわしいか見るようになるから頑張ってくれたまえ! 当主になれなかった方は当主を支え、家をよくするように補佐できるようにな!」


 別にうぬぼれるわけでも、ジギスを見下すわけでもないけど、この頃から当主の選定が始まるというのなら、ほぼ確実に僕に軍配が上がるだろう。幼児と青年。この差は何とも埋めがたい。これから先、僕らが成人する頃にはそれぞれの才覚が出始めて、僕とジギスの差は縮まる、もしくはなくなっているだろうけど、幼いころから比べられてたらね……。


「それでは、まずはこの国について学ぼうと思う。名はルンドグレン。かつてこの大陸に危機をもたらしたと言われる魔物を討伐した冒険者たちが後に自分たちを慕う人々と共に建国したと言われている。建国はおよそ千年前、現在では大陸有数の国として名を馳せている。そしてこの町は王都から西に歩いて十日程の距離に位置していて、名前をリトホルムという――」


 ジェルマン先生の授業は教室に入ってきた時のテンションの高さや、言葉遣い、ガタイからは想像もできない程、丁寧で、落ち着いた授業だった。


 


「それでは、今日の授業はここまで。次の授業は明後日になります。その時、今日やったことの確認をするのでちゃんと復習しておいてくださいね」



 ジェルマン先生は授業で使った道具を片付け、部屋を出て行く。


「はっはっはっは。それではアルノルト君にジギスムント君! さらばだ!」


 最初と同じテンションで帰っていった。どっちが素だよ。テンション高いときは凄い絡みづらいんだけど……。



 僕も勉強道具を片付けて部屋を出ようとしたとき、ジギスに声をかけられた。


「明後日、少し今日と同じくらいに部屋にこい。……その復習をしたい」



 おお、やる気があるじゃないか。

 でも、直前に復習しても意味ないんだよなぁ。付け焼刃にしかならない。


「明後日、授業の直前に復習しても遅いよ。やるなら今日の夜、明日のお昼にでもしておかなくちゃ。明後日の授業前は僕らで最後の確認でもしようか」

「……わかった」


 ジギスは自分の提案を否定されたことに不満を持ったのか少し不服そうな顔をしたが、僕のいう事に納得でもしたのか、それ以上なにも言わなかった。


 僕は勉強部屋を後にした。



 授業の時間は大変有意義であった。僕はこの世界の知識について乏しい部分がある。勿論同い年の子供たちと比べたら知識はある。しかし、僕の知識はこの世界で生まれてからの人生、つまりこの屋敷の中で見聞きしたことと父さんの書斎にある本を見た事で得た知識しかないのだ。


 本からの知識だって、しばらく魔術関係の本しか読んでないし、最近は本を読むよりも魔術の訓練に時間を割くようになっている。

 だからこそこの授業はありがたかった。僕自身が今のところ積極的に集めるつもりのない情報を補ってくれる。

 


 部屋に戻った僕は再び魔術の訓練を始めた。










 それから十一か月程たった。先生からこの世界の知識についていろいろと教わった。

 この世界の地理や成り立ち。貴族としての振る舞いなどだ。


 まぁ何を習ったのかはその都度話すとして。



 今日、今、僕の手元には一冊の本がある。そして一通の手紙もだ。クリスティアン先生からだ。


 僕とクリスティアン先生が出会ってからもう一年たったのだ。

 


 アニが僕を起こしに来た時、一冊の本と手紙を持っていた。僕は内心来てしまったか、と思った。同時に、直接私に来なくて助かったとも思った。


 僕はあれから全くと言っていいほど魔術について成長しなかった。色々と試行錯誤はしたけれど、結果は芳しくなかった。


 体内での循環に関してはもう寝ながらにでもできるほどまでに進歩したのだが、体外に魔力を放出するのは口から出す事しかできなかった。


 原因は推測できる。僕が魔力の生み出し方として、呼吸による生み出し方だからだ。魔力の元――魔素――を扱う際、酸素と同じようなイメージを持ってしまったがためだと思う。

 

多分この世界に、原子や分子という概念はない。僕と同じように呼吸によって魔力を生み出しているものもいるかもしれないが、その人だって原子や分子を意識してたわけじゃないだろう。


 僕が寝ながらにも魔力の循環ができるようになったのは魔力の循環を血液の流れ、つまり酸素の動きと同じようにイメージを定着させたからだ。どうやらこの魔術という物、理論も大事だが想像による補完も大きいようだ。


 まぁその結果がこのありさまなわけだが。



 口から放出した魔力を操ることは出来るようになった。まずは口から息を吐きだす。その吐き出した息を球状に丸める。そしてその球を圧縮する。すると霧状だった頃に比べて魔力が消えるまでの時間が長くなった。


 その球を言われた通りに体の周りに浮かすことや回すこともできた。



 でも、これじゃあ僕が納得いかない。

 いやね、これが僕のわがままなのはわかっているんだよ? 魔力の循環も放出も操作もできて、後は魔法の発動に移行すればいいのはわかっているんだよ?

 でもさ、魔力の見える人からしたら戦闘中とか常に口から煙を吐き出しながら戦ってる事になるんだよ? どこの蒸気機関車だよ。


 現状の僕の魔力の放出方法に納得いかず、あれこれ試行錯誤しているうちに一年たちましたとさ。


 こんなのクリスティアン先生に知られたら恥ずかしいじゃないか。結構僕に期待してくれているような発言とかしてたのに、一年たって見に来たら蒸気機関だよ。滑稽だね。


 まぁだからクリスティアン先生が直接僕の成長を見に来なかったのは僕としては助かるわけだ。手紙には研究中に新たな事実が発見されて手が離せなくなったからそちらには行けないと書かれていた。

 先生頑張ってください。



 昼食が終わるまでは僕に自由時間はない。


 昼食を終え、部屋に戻った僕は机の上に置かれた本に目をやる。

 魔法の発動は一度もできていない。クリスティアン先生はこの本を送ってくれたが、おそらく当初の予定よりかなり遅れているだろう僕の進捗を見たらどう思うだろうか。

 


 そんな事を考えながら僕はいつも通りに魔術を口以外から出そうと試みるのであった。


ご指摘ご感想などいただけたら幸いです。

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