第十話 到着
「それじゃあアル、行こうか」
僕は父さんに呼ばれて馬車に乗る。馬車の中にはジギスとアンネローゼがいる。僕はジギスの対面に座り、その横に父さんが座る。
「この町からだと今日の夕方には王都に着く。そしたら、王都にある別宅に泊まる」
僕は今王都に向かっている。馬車の中ではジギスがひたすら父さんとおしゃべりをしている。父さんはそれを微笑みを浮かべながら聞いている。僕も退屈なので外の景色を見ながらこれまでのことを思い出す。
僕は今七歳になっている。魔力の放出についてはまるで進歩なし。
ただ、この三年間僕も何もしていなかったわけじゃない。成果の一つとして「身体強化」を覚えたことだ。いつものように魔力を体内に循環させているときにふと、「これ身体強化ならいけるんじゃね?」と思ったのだ。
身体強化の魔術は体内を活性化した魔力で満たすことが第一の条件になる。この点に関しては僕は早々にクリアしていたのである。なぜ、それをすぐにやらなかったのかといえば、やっぱり最初は炎とか見た目が派手なものを使いたかったからである。
二つ目に……本当に大変不本意なのであるが、魔法を覚えたことだ。口からならば、魔力の放出はできるので、背に腹は代えられないと一度だけ使ってみたのだ。初心者用の魔法として水を発生させるクリエイトウォーターや炎を出すファイア、クリス先生いわくクリエイト系といわれる魔法は一通り発動することができた。
ただ、これらの魔法はあくまでも、水や炎を発生させるだけなので口からマーライオンのように水を吐き出し続け、大道芸よろしく炎を吹き出すだけだった。勢いよく放出させるにはまた別の魔法、魔術が必要なのだ。
まぁ魔術方面はもういいだろう。
現在僕がこうして王都に向かっている理由だが、なんでもこの国の貴族の子供は七歳になると国王の前に集められて、子供だけのパーティーを行うそうなのだ。いわゆる社交界というものなのかな?
僕らが四歳の頃からこの国や貴族について勉強をしたのもこの日の為ともいえる。貴族たちはここで自分の子供が国王の目に留まるよう望んでいる。国王の前で新しい世代の子供が一堂に会す。となると国王による見どころのある子供の取り込みも兼ねているとも思える。ならば貴族たちが必死になるのも当然だろう。
僕らはどうかというと、大人の精神を持つ僕は授業についていけないなどということはなく、先生からよい評価をもらえた。ジギスは流石に僕よりもはるかに覚えが遅かった。しかし、僕に負けたくないという思いからか読み書きの練習をしていたころに比べて必死になっている。
少なくとも社交界で恥をかくようなことはないだろう。
「アル。起きたか?」
目を開けると父さんの顔が正面に見える。父さんにもたれかかるようにして寝ていた僕は慌てて体勢を元に戻す。どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。
「すみません、寝てしまっていました」
「はは、別に構わないよ。私も子供の頃はよく馬車で眠ってしまったものだよ。そろそろ王都に着くが……もう少し寝ているかい?」
「いえ、それなら起きていますよ」
父さんはふと思いついたように僕の頭を撫で、自分の体に寄せる。
「父さん?」
「……アルは私の知らない間に大人の様になってしまったからな。少し……父親らしいことをさせてくれ」
そういって父さんはアンネローゼの方に目をやる。アンネローゼもジギスも二人とも深く眠っていた。
「普段はアンの目もあってあんまりアルと触れ合えないからな。それにもうすぐ王都に着く。外から見る王都ってものを見せてあげたくてな――そうだ」
父さんは馬車の窓を開け、御者に声をかける。
「ヘーデル。今私がそちらに行っても大丈夫かな?」
「ええ、旦那様。アルノルト様やジギスムント様もご一緒で?」
「いや、アルだけだ。ジギスはアンに抱かれて寝ているよ。起こすのも悪いし、そのままにしておくとすよ」
「わかりました。それでは一度馬車を止めます」
その声のすぐあと馬車が停止した。
「それじゃあアル、行こうか」
僕と父さんは馬車を降りて御者の下に向かう。御者のヘーデルさんは僕らが来ると御者用のスペースを離れ父さんにお辞儀をする。
「それでは旦那様、私は使用人用の方へ向かいます。このまま王都での手続きもなさいますか?」
「ああ、そうするよ」
「それでは、旦那様、アルノルト様、失礼いたします」
そういってヘーデルさんは前方の方にある使用人用の馬車へ向かっていった。
「アル、足元に気を付けて」
父さんが僕の手を取り、御者の席に座らせる。元々二人分の席があったため、窮屈になることなく座れた。
「うわぁ……すごい」
僕が御者の席に座ってから十五分程たち、ついに王都が見えてきた。王都は高さ十五メートルはあるだろう大きな壁に囲まれ、壁の向こうには真っ白な城の先端が見える。この国の旗……双頭の獅子の紋章が揺れている。
「私たちの住む町より、大きいだろう。ここが王都、我が国の中心だ」
王都に近づくにつれ、周りに多くの馬車や人が増えてくる。傭兵のような恰好をしたものから商人、それに僕ら以外の貴族もいるみたいだ。
きらびやかな装飾の施された馬車が近づくと周りの馬車が道を開ける。
それからまた少し王都に近づくと、貴族の馬車と商人、傭兵達はそれぞれ別の門の方に向かい始めた。
「父さん、我々は彼らとは違うもんなのですか?」
「そうだよ。この街道を真っすぐ進むと貴族用の門。右の方に行くと冒険者や傭兵達。左が商人だね」
「なぜ分かれているのですか?」
僕は疑問を父さんに聞いた。
「まぁ私たち貴族が平民と違う門を使うのは……説明するまでもないね? 商人は荷物が多いから別に避けておかないと貴族はおろか、冒険者、それに一般の市民まで出入りが不自由になるだろう? 冒険者たちのいる門は基本的に誰でも使える門って感じだね」
「ありがとうございます」
それからしばらく僕と父さんは貴族の馬車の並ぶ道を進んだ。
「リーベルト伯爵のお通りである」
門番の兵士が大声で叫ぶ。その声を合図に門が開き、馬車が奥へと進む。父さんが来ることは事前に伝えられているし、ヘーデルさんが前の方で簡単な手続きを済ませておいたのだろう。
僕らは王都へたどり着いた。
我がリーベルト家の別宅に着くと父さんはヘーデルさんを呼び、馬車の管理を任せ、数人の使用人と共に屋敷に入る。眠たげに目をこするジギスと、いつの間にやら起きていたアンネローゼはそれに続く。
屋敷の作りは実家と似たような作りをしていた。間取りはこちらの方が狭い分いくつかの部屋が足りなかったが、それでも元一般市民の僕からしたら十分な広さだ。
さて、これから一週間後に行われる社交界までの間王都で過ごすわけだが、せっかくなら王都の観光をしてみたいな。
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