第二十話 決闘・1
僕は今セレスと共に王城へ向かっている。王からの呼び出しに応じるためだ。突然の王からの呼び出し、それを父さんに伝える為にミランダさんには伝令を頼んである。
今馬車に乗っているのは僕とセレス、それにロシェルさんだ。王族の馬車は流石の作りで、伯爵家の馬車である日ごろ僕の乗っている馬車とは外装も内装も全ての質が違う。更に構造も違うのだろう。王都の市内の道が綺麗に舗装されているとはいえ、明らかに揺れ方が穏やかだった。
「ロシェル、お爺様はどのような話を私たちから聞くのでしょうか。あの場で起きた事は全てあなたが説明してくれたのですよね?」
「はい、事実をありのままに報告いたしました」
「そうですか」
沈黙。これから先何が起こるのかを考えているだろうセレス。何か問われるまではあまり、自分から話さない寡黙なロシェルさん。黙り込んでいる二人に話しかける事の出来ない僕。
先ほどはセレスと打ち解けていた僕だが、あれは日本語で話していたからだ。セレスはこちらの言葉で話すときはお姫様モードなので、なんというか少し距離を感じて上手く喋れなくなる。
そんな調子で王城へ向かう馬車内は沈黙が保たれたままゆっくりとその歩みを進めていく。
馬車が動きを止めた。どうやら城門へ着いたらしい。すぐに、外の御者が門番と話す声が聞こえた。話し声が止むと、門が開く音が聞こえ、馬車が再び動き出す。
それから少し後、再び馬車が止まり、御者が扉を開ける。まず最初にロシェルさん、次に僕、最後にセレスが降りる。
馬車を降りた先には一人の老人が立っていた。その男は綺麗な白髪をしていて、顔には皺が刻まれている。
僕の後に降りてきたセレスを見るとその老人はこちらに猛烈にダッシュしてきた。
「姫様! お怪我はありませんか!? 我が馬鹿息子が大変失礼をしてしまったと聞きました。このお詫びどの様に償えばよいのか……」
その老人はセレスにひざまずき、全身に怪我がないのかをチェックし始める。
「大丈夫ですよ、ドナテロさん。ロシェルに守っていただいたので怪我一つしていません」
「ああぁ、ロシェル殿。我が馬鹿息子より姫様をお守りいただいたこと誠に感謝いたします」
老人はセレスの言葉を聞き、セレスの横に立つロシェルさんに礼をする。涙を流しているその姿は貴族らしさを感じさせない。
でもこの人って……。
涙をハンカチで拭くと老人は立ち上がり、僕の前に立った。
「君がアルノルト・リーベルト君だね。私はドナテロ・ヘルツォーゲンベルク。本日は愚息が君や護衛の者に迷惑をかけたと聞いている。危ない目にもあっただろう、本当にすまないと思っている」
その老人――ドナテロさんは先ほどの態度とは打って変わって気品ある振る舞いをしていて、言葉の一つ一つからも気品が溢れてくる。
「大丈夫……です。僕もロシェルさんやセレス……ティーナ殿下に守っていただいたので」
一瞬セレスと呼び捨てにしそうになったが、何とか踏みとどまった。
「そうか、それでは王がお待ちだ。向かうとしよう」
ドナテロさんを先頭に僕らは王の元へ向かった。
王の間に着くと、玉座に座る王と拘束具で体を捕らえられたベネディクトゥスがいた。僕らにここで待つように指示を出したドナテロさんは一人王の前に立ち、ひざまずいた。
「お連れしました」
「うむ、ベネディクトゥスの口枷を外しなさい」
ベネディクトゥスを取り押さえていた二人の兵士のうち一人が口枷を外した。その瞬間奴は大声を上げた。
「父上! 助けてください! 奴らは嘘をついています! 王も騙されてはいけません! 奴らは私を失脚させようとする者の手の者です! 早急に処罰を――
「黙れぇぇ!!!!」
喚くベネディクトゥスをドナテロさんが一喝する。その声は空気をビリビリと振動させるかの様に響き、ベネディクトゥスは完全に委縮してしまった。
「この期に及んでまだそのような事を言うか! 貴様のしでかした罪は我が一族全員が首をくくっても許されるようなことではない! 恥を知れ! それなに王は、王は!」
「ドナテロ、よい」
王がそれだけ言うとドナテロさんは言葉を飲み込み、怒りを鎮めたかのように、平然とした表情に戻り、王に向き直る。
「今回二人を呼んだのはほかでもない、彼に挽回の機会を与えてやろうと思っての。君たちと彼とで決闘をしてもらう。彼が勝てば今回の事は不問、君たちが勝てば……儂に貸しを作るというのでどうじゃ」
王の突然の提案に僕は呆けるのみだった。
「『お爺様の考えている意図が読めない! なんで私たちが決闘することになったの!?』」
僕はセレスと共にセレスの自室にいる。二人きりで。決闘をするにも準備が必要だろうとの事で、僕らの体に合った装備を王様が用意してくれるらしい。その待機時間として、僕はセレスの部屋で待つことになった。
部屋へ入る前、護衛のロシェルさんを締め出し、僕と二人きりになりたいとセレスはロシェルさんに言った。ロシェルさんはその命令を聞き、部屋の前で護衛を続けている。
そして部屋へ着くなりセレスは日本語で叫んだのだ。
「『アル君もおかしいと思わない? だってアル君は完全に被害者じゃない。それに、私だって不貞の子なんて言われたし、ロシェルが守ってくれたからいいけど、ベネディクトゥスは私の事本当に殺そうとしてたじゃない』」
プリプリと怒るセレス。まぁ僕も城に呼ばれていきなり決闘だなんて冗談じゃない。相手は僕の護衛のミランダさんを一方的に押さえつけた実力者なんだし、子供の僕らではまず勝てない相手だと思うのだ。
「『正直、決闘って言われても勝てる気がしないよ。そりゃ、ロシェルさんも戦ってくれるならいいんだけどさ。僕ら二人だけでしょ?』」
「『それもおかしいと思うの! だって私たち魔法がつかえるけど、それって転生者だからでしょ? 本来なら私たちの歳だと剣術だって習ってないよ。魔術だってよほど才能がある人でも魔力の生成ができるようになっているくらいなのに』」
ちなみにセレスが僕と二人きりになりたいと言ったのは恋愛的感情などではなく単に日本語でしゃべりたかっただけだと思われる。
別に気になんてしてない。
「『結局僕らがベネディクトゥスと戦わなくちゃいけないのはもう決まったんだし、この国の決闘の方式とか調べようよ。何か知ってる?』」
「『それなら、お爺様から規則の書かれた紙を貰ってるから読みましょ』」
僕はセレスの隣に座り、紙をのぞき込む。
「『えっと、勝敗は……互いの体に身に着けた証を壊す事。ただし、相手を死亡または大きな怪我をさせる事は禁止、その時点で反則とする、か』」
これは僕らを守るためのルールかな?
「『これなら……私たちにも勝ちの目があるかもしれないね。証っていうのがどんなものなのかわからないけど、きっと魔法を一撃当てれば壊れる物だと思うし。それにベネディクトゥスが本気で剣をふるったり、魔法を使ったら私たちは死ぬか大怪我しちゃうからある程度手加減されると思う』」
セレスはルールを見て見解を述べる。
「『そしたらどうやってベネディクトゥスに攻撃を当てるか考えようか』」
僕はセレスと共に作戦を考え始めた。
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