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第十四話 フィーリネ

 ゼルマの娘だって!? 確かにゼルマには僕と同じ年の子供がいるって聞いていたけれど……。まさかここで出会うなんて。


 ゼルマは僕の母親のリアや、伯母のリラと同じ一族の者だったはずだ。だからエルネスト姓を名乗っている事にも不思議はないけれど。


 それよりも、さっきの言葉。私のご主人様ってどういう事だよ。



「えっと、フィーリネ……さん? 僕の事をご主人様って読んでいたけれど、それってどういうことなの?」

「どういうことも無いわよ。私はエルネスト男爵家の者。エルネスト家は代々リーベルト伯爵家と仲がいいでしょ? 元々あなたとジギスムントのどちらかに付き人としてつくことになっていたの。で、あなたの家の第一夫人様はあれでしょ? うちのこと毛嫌いしてて『あの女の一族をジギスちゃんに近づけるなんてありえません!』だってさ」


 アンネローゼは僕の母の事本当に嫌いだもんな。


「そうなると私は誰に仕えるのかって言ったらアルノルト君しか残らないじゃない」



 要するに僕はあまりものなのかな? まぁ僕は幼少期から勉強や魔術の訓練に明け暮れていて、使用人達との交流なんてほとんどなかったし、いい情報なんて出回らないよね。良くて、勉強好きの引きこもり位かな?


「で、そのアルノルト君に仕えようと思ったら何でも大変優秀だそうじゃない。なら私も頑張らなくちゃいけないから今日この日まで会うのを先延ばしにしてもらったの。やっぱり将来の主にはみっともない姿を見せたくないしね」

「僕の事をしきりに主っていうけど、その割には喋り方というか、口調がフランクだよね。君的にはそれってセーフなの?」


 僕の言葉にフィーリネはやってしまったという顔をした。


「え、もしかして気に障った!? 嘘、やだ。リラさんから聞いた時はこういうフランクな喋り方の方が好まれるって聞いたから素の口調出してたけど……お気に障りましたかアルノルト様」


「…………いや、別に気にしてるわけじゃないよ。あと、様付けはやめて。同年代の子にそういわれるとなんか変な感じがするから」

「わかったわ。それじゃあこの喋り方で問題はないかしら?」

「うん。それでいいよ」

「それじゃあ、ちょっとあっちでお話しましょ」


 フィーリネは僕の手を引き、会場のバルコニーに向かった。







「ここならゆっくり話せるわね」


 バルコニーの手すりに寄りかかり、フィーリネは腕を組んで、僕と向き合う。


「さて、何から話したもんかしらね」

「あ、僕から聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「どうぞ」

「あんなに人が入り乱れた中で僕を見つけられたけど、あれは何で? 僕ら会った事ないよね?」

「そうね、会ったことはないわね。でも、私はあなたの事よく聞いていたわ」


「そういえば、さっきもそんなこと言っていたよね。リラさんに聞いたとかなんとか」

「まぁ、そうね。リラさんの他にもアニやあなたのお父様から母さんに届いた手紙で聞いていたわ。だからあなたが部屋で本を読んでばかりいたのも知っているわ」


 うぐっ! やっぱり僕の生活まで知ってたか。


「でもそれじゃあ僕の見た目についてはまるで分らないじゃないか」


 この世界には写真の技術はない。僕に似顔絵を描くにしたってそんな技量を持つものは僕の家にはいない。


「見た目ならよくわかるわ。だって――」


 フィーリネは僕の頭に手を当て、前髪を撫でた。


「おばあ様によく似ているもの。あなたのその真っ赤な髪が」


 フィーリネは僕の髪から手を離し、今度は自分の紫色の長髪の毛先をクルクル指で弄る。


「ほら、私の髪色って薄い紫色でしょ? これって父さんの家の髪色なのよね。それで、あんたは真っ赤な髪。赤髪の家系ってそれなりにいるけど、あなたみたいに鮮やかな赤色になるのは王国ではうちだけなの。他の家だと、少し暗い色になるのよ」


 僕は改めて、自分の前髪を見上げる。確かにやけに明るい色だとは思ってたけど、特に気にしていなかった。今日この会場にいる他の貴族の中に赤髪はいたけれど、僕みたいな色はしていなかったし。



「おばあ様、リラさんにあなたのお母様。みんなあなたと同じ髪色なの。だから会場に入った瞬間からわかってたわよ? ただ、私は挨拶の順番が遅いからゆっくり喋る時間がなくて声はかけなかったけど」



 この国の人達髪色が豊かだもんなぁ。日本だったら髪色で人を判別なんてできない。そこらへんやっぱり別世界だよなぁ……。


「ありがとう。フィーリネが僕の事をわかった理由はわかったよ」

「それじゃあ今度はこっちの番ね」

「いいよ、何が聞きたいの?」



「アルノルトは何が好きなの?」

「へ?」



 僕は彼女の質問に驚き、間抜けな声を上げてしまった。


「えっと、そんなことでいいの? もっと何か大事なこととか」

「別にいいわよ。そんなの。私はアルノルトの事が知りたいんだし」


 僕の事を知りたいという彼女の言葉に心がドキッとした。女の子からのあなたの事を知りたいという言葉にドキドキするなんて思春期すぎるだろ僕。相手は七歳の幼女だし。……ロリコンじゃないよ。




「僕の好きな事は魔術かな? 今必死に練習しているんだ」

「え、すっごい。魔術なんて学園に入ってから習うものじゃないの!? 七歳で魔術の練習なんてすごいじゃない」



 まぁ自分では凄い行き詰ってるんですけどね。


「そんなこと手紙には書いてなかったわ! ねぇ、ちょっと魔術を使うところ見せてよ」

「えぇ……」



 正直人前で見せられる程習熟していないんだよなぁ。


「えっとね魔術の練習っていっても――」


 フィーリネの瞳は輝いている。


「えっと」


 フィーリネの瞳は輝きを放っている。



「……」


 

 はぁ。プレゼントを待ち望んでいる子供みたいな目をされたら断るに断れないじゃないか。


「クリエイトウォーター」


 僕は口から魔力を放出しそれを大気中で水に変えた。そしてその水を真上に突き立てた人さ指の先端に球状になるように集めた。


「このくらいでいい? 今の僕にはこのくらいが限界なんだけど」


 僕にフィーリネが抱き着いてきた。


「ちょっと!」

「あはは。すごい。すごいよアルノルト! 本当に魔術がつかえるんだね!」


 こんな初歩――僕は修得までに長い年月がかかったもの――の魔法でこんなに喜んでくれるなんて。

 今まで全然進歩しない事に不安や恥ずかしさがあったけれど、フィーリネの称賛は僕にほんの少しの自信をつけた。





 それから僕たちは交互に質問を繰り返し、お互いの好き嫌い、家族の事等色んな事を話した。気が付けばバルコニーに出た時には沈みかけだった太陽が完全に沈み、空には真ん丸な月が昇っていた。



「そろそろ中に戻ろうか。騒ぎもとっくに収まっているだろうしね」

「そうね。そうしましょうか」


 僕らはバルコニーの扉を開け、会場の中へ戻った。


お読みいただきありがとうございました。

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