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明日を迎えるための場所 ~炎上した銭湯と、居場所をなくした人たちの再生物語~  作者: 凪子
【結実理編】

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「中学が一番楽しかったってことは、その後よっぽど楽しくなかったんだよ。

人生のピークが今じゃなく過去にあるってのは、ちょっと寂しいな」


「でもさ、これからピークが更新されるかもしれないよね?」


「そうそう、その可能性は余裕である。人生これからだしな」


励まし合いながら、暗く濡れた坂を慎重に下り始めた。


雨に濡れたアスファルトは、想像以上に滑りやすい。


「これをチャリで上ったり下ったりしてた時代があるんだぜ?信じらんねえ」


「勢いつきすぎて溝に落ちたり、ここの森に突っ込んだ人いたよね」


そうでなくとも、非常に足腰にこたえる坂道だ。久しぶりだから余計に大変だった。


坂を下りきる頃には、二人とも汗でびしょびしょ、息も絶え絶えだった。


「つ、疲れた……」


「なあ、誰だよ、坂の上まで行こうって言い出したの」


「その言葉、そっくりそのまま返すわ」


傘を持っていない右手で、私はTシャツの襟元をつかんでパタパタあおぐ。


「とりあえずコンビニ寄ろ。喉乾いた」


麓にあるコンビニは、私たちが通っていたころから学生たちの御用達だった。


すっかり日の暮れた中、入口だけ煌々とオレンジ色の光が差している。


ほぼ空の駐車場から近づいたとき、雑誌コーナーにいた人影と目が合った。


「え!!」


悲鳴と言って差し支えない大声を上げて、私は相手の顔を指さした。


結実理だった。


マスクで顔は隠れているけど、美人だから分かる。


そしてマスクをしていても分かるぐらい、左の頬が腫れていた。


「何なに!」


近づいてきた篠っちも、結実理に気づいたのか「いた!!」と叫んだ。


結実理は凍りついていたが、一瞬後に入口に向かって走り出した。


私たちも入口に向かうが、彼女が飛び出してくるのが早かった。


「ちょっと待って、結実理!!」


「おい、麻生!俺だって、俺俺!」


私たちの呼びかけを無視し、結実理は一目散に逃げていく。


信号は赤だったので渡らず、そのまま道を左に曲がって走る。


当然、私たちは後を追った。


白いワンピースにミュール。肩からは小さなバッグがぶらさがり、傘も持たずに走る細い背中。


見るほどに切なくなる。まるで今にも壊れそうな後姿だった。


「結実理待って!待ってってば!」


「ちょ、何であんな速いんだよ!」


私や篠っちのほうが速いに決まっているのに、なぜか追いつけない。


結実理が傘を持っていないからか、死にものぐるいで走っているからなのか。


けれど、体力はそこまで続くはずもなく、しばらく行ったところでスピードが落ち始めた。


運よく赤信号もついて、足止めを食らう格好になる。


よし、これで追いつける。


そう思ってほっとしたとき、結実理はそのまま車道へ足を踏み出した。


左手から猛スピードでバイクが突っ込んでくる。テールランプの激しい光。


「危ない!!!」


叫んだつもりだったけど、言葉になったかどうかは分からない。


間一髪、本当にすんでのところで、篠っちが結実理の肩をつかんで力ずくで引き戻したのが見えた。


勢いがつきすぎて、結実理はそのまま地面に尻もちをつく。


「何やってんの!!!!!!」


自分でも信じられないほど大きな声が出た。


結実理はぽかんと私を見つめた。赤ん坊のように無垢な目で。


そして数秒後、「う……うわああああああああああああ!!!」と子どもみたいに声を張り上げて泣き出した。


キンキンした泣き声を聞きながらも、沸騰した怒りはおさまらなかった。


「あんた大人でしょう!?こんなとこで飛び出したら、どうなるかぐらい分かるでしょ!!馬鹿なことするんじゃないの!!」


激しい声、我ながら喉が割れて血が出そうだ。


「ちょ、落ちつけって」


「うるさいっ!!」


篠っちが肩に手を置いて宥めるも、思いっきり振り払う。


腹が立って仕方なかった。


「こっちがどんだけ心配したと思ってるの!!え!?何で一人で勝手にいなくなるの!!松の湯に来たらいいでしょうが!!」


雨が降りしきる中、アスファルトにへたり込み、ずぶ濡れで泣きじゃくる女性と、その女性にわめき散らしている女性。


そして、何とか事を収めようとして失敗する男性。


はたから見れば、三角関係の末の修羅場っぽく見えなくもなかった。


「お願いお願いお願い連れ戻さないでお願い、あの人のところに連れていかないでお願いお願いお願いお願い……!!」


びっくりするぐらい早口で、怯えきった瞳で、がくがく震えながら結実理は喋り続けた。


身も世もない嗚咽が響き渡る。


「分かった。分かったから、二人とも落ちつけ。このままだと警察に通報される」


篠っちが出した『警察』という単語に一定の鎮静作用があったらしく、私も結実理もそこでようやく言葉を止めた。

































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