第十九話 牧舞の衝動
『第十九話 ゲスいトラブル対応』の牧舞視点となります。
ナンパ男達の絡みに、牧舞の心中は……?
どうぞお楽しみください。
飲み物が空になった。
千重里君のアイスコーヒーも空だ。
写メは撮ったけど、千重里君が私の事を嫌ってはいないのがわかったし、もう少し一緒にいたいな。
「ねー、この後どーする?」
怪訝そうな顔をする千重里君。
やっぱりもうこれで帰る気だったみたい。
「写真も撮れたし、これで解散で良いかと思うのだが」
でも智也君に私との関係をアピールしたいという弱みがある限り、千重里君は私の手のひらの上なんだよね。
「えー? いーの? デートで撮ったって言ってあの写メ見せて、『その後どうした?』『帰った』なんて言ったらめっちゃ不自然じゃない?」
言葉に詰まる千重里君。
これに反論はできないだろう。
「カラオケとかボーリングとかでもう何枚か写メ撮っとこうよ」
「……そうだな」
やった!
これでまだ千重里君と一緒にいられる!
「じゃー行こっかー」
「わかった。その前に伝票は……っと」
ふふっ、慣れない状況でテンパってるのかな。
ファミレスとかだとそうだもんね。
「さっき払ってたじゃーん。ウケるー」
「ぐっ……」
でもきっと私の分も払おうとしてくれたんだよね。
たとえマウントを取ろうとしての事だとしても、嬉しい。
「そーだ。改めて、ごちそーさまー」
「……あぁ」
ちょっと照れて顔背けるのも可愛い。
でもやりすぎない方がいいよね。
早めに話題を変えちゃおう。
「どっちから行こっかー?」
「ん、任せる」
「じゃーカラオケにしよっかー。ボーリング開くの午後からだしー」
「一択じゃねーか。何で聞いた?」
こんなやり取りがしたいから。
なんて言ったら、気味悪がられちゃうよね。
「お、可愛い子はっけーん」
わ、何こいつら。
ナンパのつもり?
横に千重里君がいるの見えないの?
可愛く見られるために努力はしているけど、こんな連中に言われても嬉しくないどころか不愉快。
どっか行ってくれないかな。
「……行こうマッキー」
「え、あ、うん」
え、千重里君が、手を……。
「ちょいちょいちょーい。逃げるとかなくない?」
……千重里君から手を取ってくれるきっかけを作ってくれた事には感謝する。
だからどいて? 今なら穏便に済ませてあげるから。
「五人で遊び行こうぜ? 楽しくな?」
……駄目っぽいな。
ナンパ男の撃退には慣れてるから、ガツンと言ってあげてもいいんだけど、そうすると千重里君との距離がまた開いちゃいそう……。
ここは少し様子を見よう。
「あのー、僕達予定があって……」
「キャンセルだよキャンセル。空気読んでよ君ぃ」
空気を読むべきはあんた達でしょ。
男女が二人でいるんだから、気を利かせなさいよ。
それとも何? 私と千重里君じゃカップルに見えないの?
「じゃ、じゃあ予定の方にキャンセルの連絡を入れまぁす……」
「おう、物分かりのいい奴だ」
あ、千重里君悪い顔。
きっと警察に通報するんだな。
こういう判断の速さは頼もしい。
「あ、あの! 怖い男の人三人に絡まれてます! 黄百合ヶ丘駅南口の交差点です!」
「!?」
ナンパ男達がビビるビビる。
そりゃああんなに切迫した声を出して通報されたら、お巡りさんすっ飛んで来るもんね。
「同行している女性を無理矢理連れて行こうとしています! 早く来てください! 黄百合ヶ丘駅南口です!」
そして誤解を生む言い方をしてはいるけど、嘘はついてない。
さすがは千重里君。
「てめぇ……!」
「ふざけやがって……!」
「何してくれてんだこらぁ……!」
千重里君にすごむナンパ男達。
千重里君を脅して私をさらうつもり?
それとも通報を取り下げさせる?
どちらも無意味なのに。
「この野郎!」
! 千重里君の胸ぐらを掴むなんて……!
これも千重里君の策だろう。
殴れば警察に確実に捕まるから、手は出さないだろうと踏んでの策……。
……でも……!
「あ、あわわ……」
男達の溜飲を下げるための怯えた演技。
わかってる。全部わかってる。
……わかっているけど!
「あたしのカレシに何すんの」
千重里君の胸ぐらを掴んでいる手首を外側に捻り、つられて体重が外側に乗ったところで足を払う。
くるりと回転したナンパ男を、頭から地面に叩き付けても良かったけど、下手に恨みを買う事もない。
腕を引き上げて、軽く尻餅をつかせるに留めた。
「へぐっ!?」
何よ。無様な声をあげちゃって。
大して痛くはしなかったでしょ。
一、二発殴られてでも私を守ろうとした千重里君を見習いなさいよ。
「お、おい、し、マッキー……。何をしてんだ……?」
「あー。あたしさー、護身術ってヤツでー、柔道と合気やってるんだよねー。それちょっとやってみたー」
「へ、へぇ……」
……やばい、ドン引きしてる!
だ、だってしょうがないじゃん!
どうせこいつら、女に投げ飛ばされたなんて、恥ずかしくて言わないし!
それに、千重里君が私をかばって殴られたあの日がフラッシュバックしちゃったんだもん!
「お、おいマッキー! 行くぞ!」
「え? ちょ、ちょっとミッチー、なになに急にー?」
怒っているはずなのに。
困っているはずなのに。
千重里君が引いてくれる手の温かさで、私の顔は自然とにやけてしまう……。
必死になってる千重里君が気付く前に、元に戻さないと……!
読了ありがとうございます。
怒っていながらも、要所では計算高い牧舞。
単にキレるより、こういう『ちょっと理性が残ってる』って怒り方の方が好きなんですが、ニッチなのは理解しています。
でも「わかる!」って言う人は僕と握手!
次話もよろしくお願いいたします。