↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/22

第二十話 牧舞の昔話

『第二十話 ゲスい事後処理』の牧舞(まきま)視点になります。

道貞(みちさだ)にはピンときていなかった過去話ですが、それを語った牧舞の心境は……。


どうぞお楽しみください。

 千重里(ちえさと)君は、私の手を引いて駅からちょっと離れた公園に駆け込むと、ベンチに腰を下ろした。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 ものすごく息が上がってる。

 きっと全速力だったんだろう。

 

「もー、ドーテー、なんで、急に、走るのー?」


 私にとっては六割くらいの速度だったから、そんなに息は上がっていないけど。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 ゴール直後のマラソンランナーみたい。

 あの距離をあのスピードでこの息の上がりようは、ちょっと心配になる。


「ウケるー。もっと身体鍛えた方がいいよドーテー」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 反論もできないほどに息が上がっちゃってる。

 ……そうだ。

 今なら質問も反論もできないだろうから……。


「あたしさー、小学校の時に公園で苗字の事でイジられてさー。相手は男子で四人だったかなー? 言い返せなくて超泣いてたんだよねー」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 最後の布石を打っておこう。

 千重里君が私を友達として受け入れてくれた時に、きちんとお礼が言えるように。


「そん時にカッコよく助けてくれた男子がいてさー。それから苗字イジりもなくなったし、超ヒーローって感じだったんだよねー。だからあたしも身体鍛えたんだー」

「はぁっ……、はぁっ……」


 怪訝そうな顔。

 そりゃこんな事言われたって何が何だかわからないよね。

 千重里君はあの時の自分を、ヒーローだなんて思っていないから。


「ドーテーさー、さっきあたしを守るためにわざと殴られようとしたよねー?」

「……、はぁっ……。はぁっ……」


 あの時、私を盾にしてこっそり電話をすれば、千重里君はあんな危険な目に遭う事はなかった。

 千重里君の中で私は、かばう必要があるような可愛い女じゃない。

 ゲスい感じに乗り切る姿だって想定していたはず。

 それでも私が嫌な思いをする事より、自分が殴られる事を選んでくれた。


「それってあたしのコト、身をてーしてかばおうとしたってヤツー?」

「……ち、がう……。ふぅーっ……。違う……。あれが場を収めるには、ふぅ、最善と判断したまでだ……」


 自分が不利益を被(こうむ)る選択肢を「最善」と言う千重里君。

 君はあの時から、きっとそういう選択を当たり前にしてしまったんだね。


「なんにしても守ろうとしてくれてありがとー」

「……契約の内だ。身体目当ての男から守るって話だったからな」

「それでもいーの。ありがとー」

「……どういたしまして」


 ここで申し訳ない顔を見せちゃいけない。

 機嫌良さそうに笑っておこう。


「おっと」


 千重里君の携帯が鳴る。


「もしもし」


 電話に出た千重里君の硬い反応から、多分警察からだろう。


「あ、はい。すみません。通報した事に気付かれて、激昂されたので逃げてしまいました」


 やっぱりそうだ。

 本当は目の前で通報したからキレられた事を言わないあたり、とても千重里君っぽい。


「はい、僕と同行者は……。ただ無我夢中で振り払ってしまった時に、僕の胸ぐらを掴んでいた人が転んだかも知れないのですが、その人は無事でしょうか?」


 私が転ばせた事もうまく誤魔化してくれている。

 あ、表情が少し緩んだ。穏便に済んだみたい。

 あっちも逃げたか、誤魔化したかだろうな。


「あ、すみません。同行者の女性が今回の事で大きなショックを受けているので、側を離れられないのです。状況についてはこのまま電話でお伝えしてよろしいですか?」


 事情聴取のために警察署に行くのを断ろうとしてる。

 警察の聴取って面倒だもんね。

 それに一緒にいられる時間がなくなっちゃう。


「被害届などを出すつもりはありませんので、どうかお願いします」


 ここでちょっとだけ手助けしとこう。

 千重里君の隣に座って、と。


「みっちぃ……。でんわだれとぉ……? はやくかえろぉよぉ……」


 千重里君なら手助けがなくても乗り切れるだろうけど、ここは一つ恩を売っておこう。

 泣き声を出しながらにやっと笑った私に、千重里君は引きつった笑みを返してきた。


「わかりました。ありがとうございます」


 うまくいったみたいだね。

 どうせ大した話じゃないんだし、早く切れるよう、電話口で泣き声を漏らしておこう。

 ……あ、横向いちゃった。

 まぁもう大丈夫だよね。

 私は私を守ってくれたその背中を、電話が終わるまで眺めている事にした。

読了ありがとうございます。


さて、まもなく最終話というところですが、タイトルを

『下種さんの種明かし』

から

『下種牧舞の種明かし』

に変更させていただきます。

さ、最終話の仕込みに関係なんかないんだからなっ!

勘違いするなよなっ!


次話もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。