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花咲くまでの物語  作者: 国城 花
第一章 はじまり
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14 一歩②


「教員のパソコンがウイルスに感染し、試験の情報が流出しました。問題解決をよろしくー。理事長より」


「……だそうだ」


理事長の指令を読み上げた翔平は、思わず頭を抱えた。

思っていたより重い事態と、思っていたより軽い理事長の文面に頭が痛くなりそうである。


「試験って、来週の学力試験のことだよね?」

「情報が流出って、何の情報なんだろう。問題か答案かな」


双子のもっともな疑問に、翔平は小さくため息をつく。


「それも含めて、自分たちで調べろということだろうな」


静華学園の理事長は、指令の内容を一から十まで教えてくれるような優しい人物ではない。どちらかというと、人を試して楽しむところがあるのだ。

重い事態のわりには全く緊張感のない指令の内容がそれを表している。



「とりあえず、職員室に話を聞きに行った方がいいのかな?」


晴の提案に、純を除いた他4人は少し渋い顔をする。


「私たちが行って、教えてくださると良いのだけれど…」

「つぼみを嫌っている教師も少なからずいるからな。簡単には教えてくれないだろう」

「え、そうなの?」


初めて聞く話に、晴は驚く。


「部活連とつぼみの関係に似てるんだけどさ、つぼみって学園で強い権限を持ってるじゃん?生徒に罰則を与えられたりさ」

「それを面白く思わない先生って多いんだよね。大人で教師の自分たちより、生徒はつぼみを頼るからさ。自分たちの立場がないんだろうね」

「そういえば、いじめの告発をした子も大人は頼りにならないって言ってたね…」


そのいじめの告発自体は嘘だったのだが、その言葉は本当だったのだろう。


「特に高等部だと、何か問題があればつぼみが解決するからな。それを学園の体制だと納得して割り切っている教師もいれば、自分たちの立場の弱さに不満を持ってつぼみに反感を持つ教師もいる。どちらかというと後者の方が多いな」

「そうなんだ…。おれ、なんだか情けないな。みんなと違って、知らないことばかりなんだね」

「晴は高等部からの入学なんだから、僕たちより知らないことがあって当たり前だよ。僕たちは初等部からいるから、自然とこういうことを知ってるだけだよ」

「そうそう。これから覚えていけばいいじゃん」

「…ありがとう。そうだね」


双子に励まされ、少し落ち込んでいた晴は微笑みを返した。


「晴が言った通り、教師たちに事情を聞きに行くのは必要だ。ただ、こういう事情があるから何も策なしに行くのはやめた方がいいだろうな。教師たちと無駄に問題を起こすつもりはない」

「穏便に済む方法があるなら、そちらをとるべきね」


「穏便に済む方法かぁ…」

「僕ら、あんまり先生方からの印象良くないと思うんだよねぇ…」

「あら、そうなの?」


少し気まずそうな双子は、心当たりがあるようだった。


「こう…ちょっと嫌いな先生にさ、いたずらしたり…」

「怒られそうになったらさ、皐月のふりしたり…」

「僕は凪月のふりしたり…」


過去形ではないところを見ると、現在も似たようなことをやっているらしい。


周囲のその気配に気付いたのか、2人は慌てて手を横に振る。


「つぼみになってからはやってないよ」

「そうそう。さすがにね」


つぼみは全生徒の模範となる存在でなければならないので、さすがにそういったいたずらは控えたらしい。


「まぁ、教師からの印象で言えばここに印象最悪の人間がいるからな」


翔平の視線は、隣の百合の席に向けられている。


「授業サボってるんだもんね」

「それはさすがに僕らもやらないよ」

「それだけじゃない」


翔平は眉間にシワを寄せてため息をつく。


「授業に出ても教科書を開いてるだけ、ノートもとらずにずっと窓の外を見てるからな」

「えぇ…それ、先生は何も言わないの?」

「どんな高レベルな問題を出しても教科書も見ずに即答されるから諦めたみたいだな」

「それは…」

「すごいね…」


双子は、改めて純の天才性を垣間見た気がした。

以前、翔平が純のことを「天才」と称していたのが思い出される。


「これでもマシになった方だ。初等部に入学した頃は授業にすら出ないし、教科書も持ってきていなかった」


さっきから話題にされている本人は、興味なさげに翔平を見る。


「何ですでに分かってることを教えられないといけないの」

「わぁお」

「教師全員を敵に回しそうな発言だね」


そう言いつつも、双子は面白そうにしている。


「これだと、事情を聞きに行く人員を決めるだけでも大変そうだな…」

「あら、翔平くんも人のことは言えないのではないの?」

「「え?翔平にも何かあるの?」」


ワクワク顔の双子に、翔平は不満げに眉間にシワを寄せる。


「俺は授業は真面目に受けてる」

「えぇ。そうね。だけれど、去年新任の先生に理論詰めで質問して泣かせたことを忘れたの?」

「「えぇ!先生泣かせたの?いーけないんだー」」


さっきから何故か双子は楽しそうである。


「あれは…授業の説明が定説と違ったから、その理由を聞いていただけだ」

「翔平くんのその顔で遠回しに「あなたの授業は間違っていましたよ」と詰め寄られれば、怖いのよ」

「…顔は関係ないだろ」


『『ないとは言えないなぁ…』』


賢明にも、その言葉は心の中で呟いた双子だった。


今現在雫石に向けられている表情は、雫石でなければ女子は涙目になりそうなほどなかなかに怖い顔をしている。

もともと石像のように整った顔にクールな雰囲気なので、そこに目つきの悪さが加わると、かなり威圧感が増すのだ。



「優希も人のことは言えないだろ」

「え、でも雫石は常に成績1位で授業態度もいいじゃん」

「試験前じゃなくても図書館で勉強してるしさ」

「そこだよ」

「「どこ?」」


双子は翔平の言うところが分からなくて首を傾げる。

雫石はどこからどう見ても非の打ちどころのない優等生のはずである。


「常に成績1位にも関わらず予習復習を欠かさず、授業態度も優秀で教師への質問も積極的。試験問題に間違いがあっても答案上では指摘せず、教師の恥にならないように後でこっそり伝える。成績も振る舞いも完璧すぎて、存在意義を見失った教師が辞めそうになったことが何回かあっただろ」

「あららー…」

「完璧すぎると、教える側は自信をなくすんだねぇ…」


翔平に指摘された雫石は、微笑みのままノーコメントを貫いている。どう答えても自分の優秀さに触れることになるので、自分からは何も触れないようにしているのだろう。

その対応さえ優等生である。



「「ということは…」」


みんなの視線を集めたのは、今まで静かにみんなの話を聞いていた最後の1人だった。


「え……おれ?」


晴は自分を指差すと、碧い瞳に困惑の色を浮かべた。


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