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花咲くまでの物語  作者: 国城 花
第一章 はじまり

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13/198

13 一歩①


「いやー、すごかったね。雫石」

「ねー。僕らは録音されたやつを聞いただけだけどさ、相手の絶望が手に取るように分かったもん」

「相手の逃げ道を塞いだうえで、言質をとるっていうね」

「上げたうえで落とすっていう、ジェットコースターみたいな会話だったよね」


皐月と凪月は、授業が休講になったので2人でつぼみの部屋にいた。


話題にしているのは、先日の雫石と女子生徒のやり取りである。

雫石がボイスレコーダーに録音してきたやり取りを聞いた皐月たちは、驚きと恐怖と感嘆に包まれた。

驚いていなかったのは、翔平と現場にいたらしい純くらいだった。


「そりゃあ、つぼみに選ばれるくらいだからただのおしとやかな女の子じゃないことくらい予想はついてたけどさ」

「想像を超えてきたよね」


うんうん、とお互いに頷く。


雫石に対する世間一般的な印象は、「成績も容姿も学年トップのおしとやかな美少女」である。家が日本舞踊の家元とあって、おっとり静かな大和撫子の印象が強い。

しかしそれは周囲が受けるただの印象に過ぎないということを改めて知った次第である。



「まずさ、あの佐久間さんって子、クラスメイトと通話してなかったことに気付いてないんじゃない?」

「あー、あれね。本当はただの録画を流してただけって気付いてないだろうね」

「クラスメイト全員に休憩時間を割いてもらうのは悪いからって、録画で済ますのすごいよね」


女子生徒の嘘を裏付けるためにクラスメイトの証言をとることにしたのだが、雫石はそれを録画することを提案したのだ。

女子生徒にいじめの被害者の名前を出させて、録画しておいたその生徒の証言をリアルタイムで話しているように流したのだ。そうすることで、クラスメイト39人を待たせる手間を省いた。


そしてあくまでリアルタイムで会話しているかのように見せることで、女子生徒が後付けで嘘をつく道を絶った。

録画であることを話してしまうと、本人に確認しないと分からないような嘘をその場でつかれる可能性があったのだ。


「クラスメイト全員の前で嘘を暴くこともできたのに、そうしなかったのは雫石の優しさかな」

「その方が分かりやすいけど、嘘をついた理由を聞きにくいからじゃない?」

「あー、確かにね。相手が雫石1人だからバレちゃってもしょうがないかみたいな話し方してたけど、さすがに大勢の前であんなことは言わないよね」

「そこで保身に走ってまた嘘つかれても困るしね」


1年B組のクラスメイトはあの女子生徒が嘘の告発をしたということは全員知っているが、証言を取る際に罰則はつぼみに任せるように言い含めてあるので表立った行動はしていない。

それに、実害のなかったほとんどの生徒は興味もないのか放っておくつもりのようだった。もしクラスメイト全員の前で断罪のようなことをしていれば、こうはならなかっただろう。


人は悪を前にすると正義を振りかざしたくなってしまうものである。

集団心理が働けば、なおさらだ。



「結局、罰則はあれでいいのかな」

「雫石が言ってた通りにするのが一番なんじゃない?」

「まぁそうだねー」


あの後つぼみで話し合って、女子生徒に対する処遇は決定済みである。


「ていうか、一番驚いたのは、いじめをしていた内部生って言われてた子が雫石の従妹(いとこ)だったことだよね」

「証拠を集めようってなってから改めて名前聞いた時、僕ら驚いたよね。雫石の従妹じゃんって思って」

「雫石の話し方からして知り合い程度かと思ったら、身内っていうね」

「雫石なりに私情を挟まないようにしてたんだろうね」

「僕らに先入観を持たせないようにしてたのかも」

「確かに。それ聞いて晴が一番驚いてたからね」

「晴は高等部からの入学だし、長い間海外にいたからね。晴はともかく、嘘をついた子も知らなかったんだろうね。その子、雫石とは名字が違うから」

「いじめられてる生徒の名前も結構適当に言ってたっぽいし、人間関係の情報に疎かったんだろうね」

「その状態でつぼみに嘘の投書をするってさぁ…」


「「頭悪いよね」」


うんうん、とまた頷いていると、ガチャリと扉が開いた。



「あれ、晴じゃん」

「どうしたの?」

「…2人こそ、どうしたの?」


部屋の中に人がいるとは思っていなかったのか、碧い瞳が驚いたように真ん丸になっている。


「僕らは授業が休講になっちゃったから、ここで暇潰してるんだ」

「そうなんだ。おれも、授業が休講になっちゃって」

「晴はなんの授業だったの?」

「西洋史だよ。2人は?」

「「数学だよ~。まぁ、嫌いな先生だったからラッキーだったけどね~」」


語尾を伸ばすところまでぴったりな2人に、素直に驚く。

さすが、試験の点数もぴったり同じという双子である。


「休講が重なるなんて珍しいね~」

「それも2つもね~」

「静華はあんまり休講になるイメージがないもんね」

「僕ら初等部からいるけど、休講は結構珍しいよ」

「静華の授業は振り替えるのが難しいんだよね。基本的に生徒はみんないっぱいいっぱいに授業が入ってるから」

「休日に振り替えるわけにもいかないしね」

「そうなの?おれがいた中学校は休日に振り替えてたこともあったけど」

「静華に通ってて、特に高等部生にもなれば家の仕事を手伝ってたりパーティーに顔出したりする人も多いからね。休日でも忙しいらしいよ」

「だから簡単に休講もできないし、振り替えもできないんだって」

「そうなんだ…」


静華学園に通うようになって3年目の晴だが、新しく知ることがいっぱいである。


「こうやって休講になると、授業が1回分なくなってついていけなくなるっていう人もいるけどね」

「休講してできなかった分、次の授業のスピードが速くなるしね~」


そう言いつつ休講になって嬉しそうなところを見ると、2人にとってその程度は余裕らしい。



静華学園は授業のレベルがとてつもなく高いので、一度授業を休んだだけでもついていけなくなる生徒もいる。

そうならないように予習復習を欠かさない生徒が多い中、休講になっても図書館に行かないあたりが、成績上位を維持するこの3人である。

つぼみに選ばれるのは基本的に成績優秀者からだが、今年のつぼみは珍しく上位を独占している。

晴は学年4位、双子は同率5位である。



「あら。もしかして、みんなも休講になったの?」


そう言ってつぼみの部屋に入ってきたのは、学年1位の雫石だった。


「「え、雫石も?」」

「えぇ。授業中に突然先生が呼ばれて、そのまま休講になってしまって…。何かあったのではないかと思って、ここに来たの」

「確かに、こんなに休講が重なるなんておかしいよね」

「どうしたんだろう」


それも、雫石のところは双子と晴とは違って授業中に突然休講になったらしい。


「何かあったのは間違いないだろうな」


そう言って雫石の背後の扉から現れたのは、翔平である。


「「もしかして、翔平も休講?」」

「あぁ。教師の反応からして、何かあったんだろう。ここに来る途中に少し様子を見て来たが、おそらくほとんどの授業が休講になっていたな」


これは、学園で何か問題が起きたと見て間違いないだろう。そうなると、場合によってはつぼみの出番となる。

雫石と翔平はそれを察知してここへ来たのだ。


「あいつの授業も休講になってるはずなんだがな…」


翔平は眉間にしわを寄せてため息をついている。

あいつというのは、ここにいない1人の人物のことだろう。


「きっと、サボっているのね」

「え?」


この学園で聞くはずのない言葉に、晴は思わず自分の耳を疑った。

それを察した雫石は、少し困ったように微笑みながらも補足してくれる。


「純は、授業をよくサボるのよ」

「純って確か、成績は…」

「学年2位だ。入学以来な」


学年3位の翔平は、相変わらず眉間にしわを寄せている。


「あいつは最低限の出席以外はサボってばかりいるからな。図書館か中庭にいることが多いんだが…」


その時、指令箱の鈴が鳴った。

5人の視線がそこに集まる。


「やっぱり、何かあったみたいね」


このタイミングでの理事長からの指令だ。無関係ではないだろう。


「でも、純いないよ?」

「どうする?」


双子が翔平に尋ねると、翔平は窓の外を見てため息をついている。


「大丈夫だ。今来た」

「「?」」


双子が窓の方を振り返ると、ちょうど純が窓枠を越えて部屋の中へ入ってきていたところだった。


「いや、だから…」

「ここ、塔の最上階なんだけど…」


始業式以来の衝撃の光景に驚きつつ、つい突っ込みを入れてしまった双子だった。


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