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リンドバウム王国記~転生王ユーヤ~  作者: 三ツ蔵 祥
第1章 ―転生・ガロウ獣王国編―
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第六話 禅譲

展開が安直かも。

でも、ゆる~くいきたい今日この頃。

 聖都の正門を潜ると、そこにはモスクのような建造物が幾つも建ち並んでいた。

 道路は綺麗に区画され、道端にゴミもない。市民は礼儀正しく、笑顔で挨拶を交わしている。

 区画された道路は大変道程がわかり易く、中央にある広い道幅の道路をひたすら進めば大教会…リンドバウムで云えば王宮に辿り着く。


「なあ、マリっぺ…綺麗に整備されてて凄く道が判り易いのはいいんだが…。」


「どしたの?」


「これってさ、攻め込まれたらイチコロなんじゃないか?」


 物凄く物騒な発言に、二人の後ろを歩いていたエテリナが慌てる。


「へ、陛下!?聖女様もいらっしゃるのに、そのような発言はお止めください!」


 二人の前方を歩いていた聖女ハンナも苦笑いをしている。


 聖女ハンナは、見たところ二十代くらいで、淡いピンクの髪をしていた。「聖女」と云う称号が不似合なほどのグラマーさんだ。


 一行は、聖都正門に辿り着くや否や歓迎を受け、聖女様随行の許、大教会に向かっていた。大教会の建物が遠くからも見える位置まで来ると、道端には僧侶達が平伏していた。


 ―聖女様の御威光って奴かな?と、ユーヤは不思議そうに眺めていた。


 しかし、大教会に入場してからも通路を挟んで僧兵に至るまでが平伏している姿に違和感を憶えた。


 そして、案内されるまま一行は大教会の大聖堂までやって来た。


 聖女ハンナは振り返り微笑む。


「ようこそ、戦神サガ様の使徒ユーヤ様。そして女神マリオン様」


 ―あ…そうか、ここって宗教国家だもんな…バレバレか。


「この度の訪問に関し、実は戦神サガ様よりの御神託がございました。」


 ―だろうね…。どおりで仰々しく歓迎されるわけだ。


 ユーヤは、戦神サガの姿を思い返しながら、ものすごーく嫌な予感に俯いた。


「このジュディ―アル聖王国は、元々戦神サガ様の生まれた祖国であり、現在の主神もまた、戦神サガ様であられます。」











「ユーヤ、何をいつまで俯いてるのよ?喜ばしい事じゃない。」


 応接室でくつろぐ一行。マリオンはフルーツジュースをいただいている。


「ああ、そうだな…。」


 顔を上げて返事はしたものの、ユーヤの目はまた遠くを見ている。


 ノックの音と共に、聖女ハンナが山のような書類を持って入室して来た。何百枚あるのだろう。その山を見て、ユーヤは頭を抱えた。


 禅譲。それは王位を譲ったり、比喩的に地位を平和裏に譲ることを言う。


「突然すぎてわけがわからん。ドS神め。」


 ―大陸統一を確かに胸に誓いましたよ。しかし、それは魔王を討伐する流れの中で必要な国と同盟したり、滅びかけた国を救済して行くような形を思い描いてたわけで…。『あ、俺の手持ちにあるからやるわ』的に神様からもらっても…そりゃラッキーって言えばラッキーなんだけどもさ!


 心の中で愚痴をブチブチと吐きつつ、ユーヤはジュディ―アルをリンドバウム王国に領有する為の書類の山に挑んでいだ。


「てか、聖女さん。地図からいきなりこの国の名前が消えることに異議はないのか?」


 わずか数分で目の下に隈が出来たユーヤが、ドヨヨーンとしたオーラを放ちながら聖女ハンナに問いかける。


「神の御心には逆らえません。全ては戦神サガ様の御心のままに…。」


 美しいオーラを放ち、微笑を浮かべ、瞳を輝かせながら聖女ハンナは答えるのであった。


 ―宗教ってこえーな…。




 聖都は、そのまま聖女ハンナ以下教会に統治してもらう事にした。その他の街、領地に関しては精査した後に場合によっては領主の入れ替えも考慮する事とした。


 いきなり神様からもらった領地は、大陸三位の国だった。リンドバウムの二倍強もの広い国土をポンと渡されて、ユーヤは途方に暮れるのであった。


 なお、事情を聞いたヒューズも、しばらく思考停止に陥っていたと謂う。






「戦地には既に僧兵二万五千人が配備されています。そして現在本国には、一万の僧兵と五千の騎士がおります。」


 元ジュディ―アル聖王国軍官からの報告をユーヤは聞いた後、五千の騎士をリンドバウムに近いヨーホーと云う街に駐留させた。

同盟国とは謂え最大の戦力を誇るベルツ帝国が、彼ら曰く「勇者王」不在の際にどんなおイタをして来るかわからないので、そのような配置にしたようだ。


「陛下、ジュディーアル内に関してはご心配なさらずに。この国の臣民は、神の御心には逆らいません。」


 聖女ハンナの言葉を受けて、ユーヤ達は本陣へと帰投した。聖王都を訪れて、三日の時が経っていた。


 そして更に六日の後、ガロウ獣王国との国境にて二万五千の僧兵達と合流した。そこにはウテナ以下影の軍団百人も合流。詳細な戦地の情報を手に入れた。


「魔族のみならず、魔獣もいるのか…。」


「クーガー王は現在王都を捨て、第二の街レザリアにて防戦中です。」


 ウテナは報告すると、褒めて褒めて!といった様子で目をキラキラさせている。ヒューズがそれを見てギョっとしていた。


「ああ…ご苦労さん。よくやってくれた。ウテナはこのまま影を率いて後方攪乱を頼む。」


「御意!陛下のお心のままに!」


 パーっと笑顔を振りまきながら、ウテナ嬢は毎度の如く素早く気配を消した。そんな同僚の姿を見たエテリナは、遠くを見ていた。


「若、さてどう料理いたしますか?」


 ヒューズの声に皆が我に返り、地図を睨んだ。リンドバウムの1.5倍程の国土である獣王国をどう動き回ろうかと、意見を交わす。


 マリオンが僧兵一万と共に西部へ。こちらは、割と広く敵が分布していてる。恐らくリンドバウムに侵入して来たのはこの軍勢の一部であろう。

 ジードとエテリナは、騎士隊五千と僧兵五千を引き連れて東部へ。こちらは割と層が薄いらしいので二人に任せた。

 そして、ユーヤとヒューズはクーガー王の援護救出の為、レザリアの街に残りの兵を引き連れて行く事になった。


「さあ、ここからが本当の前哨戦だ!一人も欠けるなよ!」


「「「おう!」」」






各部隊は、一日半程でそれぞれの配置についていた。


「あれは、ゴブリンの群れですか。その向こうは四つ足の魔獣も見えますね。魔族はその向こう…。」


 東部戦線に辿り着いたジード、エテリナ隊だったが、まずは小高い丘の上から廃墟となった街の様子を遠見のスキルでジードが窺っている。


「ジード様、騎士隊と僧兵隊を混成にしてエクステリナ様と二部隊に分けては如何でしょうか?」


 ジード直下のガンプ隊副官ブランが進言した。二十代後半で淡いブルーの短い髪が特徴だ。スマートなラインのジードとは対照的に、無骨な印象を受ける。


「そうですね。エクステリナ殿、各隊の分配を任せて宜しいでしょうか?」


「承知いたしました。」


 速やかにエテリナはマントを翻し、まずはクレィル隊の面々に指示を出し、それに従い各隊員が他中隊に声をかけに行く。


「やはりエクステリナ様は直接戦闘よりも、裏方仕事の方が栄えますなぁ。」


「あ、ああ、それより私達も準備を急ぐぞ。ボーっとするな!」


 が、先にボーっとエテリナを見ていたのはジードだ。


 副官のブランは主の様子に気付いて、意地悪くエテリナの事をジードに告げたのだ。ジードは耳まで赤くなりながら、八つ当たりするかのようにいつもの丁寧な口調も忘れてブランに答えていた。


 『東部は、敵の展開はさほど多くはないが連中の本国には近い。故に深追いは決してしないように。ある程度殲滅したら、街を拠点にし、陛下やマリオネート様の到着まで守り抜いて頂きたい。』


 未だに顔を赤らめながらも、ジードはヒューズの言葉を頭の中で何度も繰り返していた。


 ―王宮騎士団は守りの要!ヒューズ卿、必ず果たしてみせます!!


 決意を胸に、ジードは敵の軍勢を睨みながら丘の上でライフル型の魔銃を構える。背には散弾魔銃、腰にはレイピアとピストル型の魔銃を装備して。


 そしてジード、エクステリナ隊の攻撃が始まったのは、半刻後の事であった。




 一方、マリオンの部隊は西方を既に暴れ回っていた。途中で獣王国の部隊とも合流し、連携して西部から魔族を追い立てている。


 機動力を重視する為小隊単位で分散し、包囲殲滅を繰り返す。以前ジードの部隊に振り回された事がよっぽど身に染みていたのか、マリオンはクレィル隊と共にリンドバウム王都では暇を見つけては訓練していたのだ。


 それこそエテリナに「姫!婚約の儀を済ませたとはいえ嫁入り前なのですよ!?」と諭されても、どこ吹く風だった。




「さあ、聴きなさい!破滅の歌を!!」


 ―音撃波


 破滅的な曲調と旋律が戦場を駆け巡り、彼女のギターは死のメロディーを奏でる。


 そしてピックを一閃。高くギターを掲げると、雷鳴が迸った。


 ―招雷波


 音撃波と異なり、こちらはどちらかと云えば攻撃系の部類に入るギタースキルだ。音撃魔力を雷に転化し、雷鳴がリズミカルに魔族を蹂躙する。


 魔獣達は雷から本能的に逃げ惑う。逃げ惑う魔獣に魔族は混乱し、陣形を崩した処へメイスを持った僧兵達が雪崩れ込む。


 ―これだけ上手くいっちゃうと、もうただの蹂躙ね。


 マリオンは、ちょっとつまらなそうにしながらも、戦況を確認する。何やら遠くから大きな影が迫って来ている。


 体長3メートル以上はありそうな魔獣だ。頭はライオン、胴は山羊、尻尾の先には蛇の頭がシューシューと唸っている。キメラだ。


「これはこれは、楽しませてくれそうね。」


 マリオンは口の端を歪ませながらギターを構えた。後方部隊は火矢を放ちキメラを牽制する。


 ―まだよ。まだ。


 マリオンは音撃波の間合いを計る。


「取り敢えず、大人しくしてもらうわよ!音撃波ーーーー!」


 音撃の直撃を受けたキメラが、唸りを上げながら大地に伏した。そこへすかさず幾人かの狼人族と猫人族の戦士が、キメラに向かって爪を奔らせた。


 キメラは怒り狂い、思うように動けなくなった筈の身体を無理矢理躍動させる。

 狙いは音撃の源であるマリオンだ。


 凄まじい勢いでマリオンに向かって地をかけるキメラ。彼女はギターを盾にするように構えた。


 ―ガ!ビキキ!


 突撃に耐えられず、ギターは真っ二つに圧し折れた。そのままマリオンはキメラの頭にズルズルと押されて後退して行く。


「こんのぉ。一番のお気に入りだったのに…。」


 マリオンは呻きながら一旦横へ跳躍し、懐からカスタネットを取り出した。今回は初めから魔力糸を発生させている。


 カスタネットをキメラに向けて投擲。キメラがカスタネットを叩き落とそうと、上体を起こして前足をブンっと振る。


 しかし、魔力糸に引っ張られたカスタネットは、ヨーヨーの要領でマリオンの手に戻った。


 キメラは空振った勢いで前方につんのめる形となり、大きく隙を作ってしまった。マリオンがその隙を逃す筈もなく、間髪入れずにヨーヨーがキメラの額に食い込んだ。


 そして弱ったキメラにマリオンは追い打ちをかけるように、風魔法を詠唱した。


 暴風が吹き、竜巻となった。竜巻がキメラの身体を拘束する。キメラは唸りを挙げながら抵抗するが、抗えずに天を見上げる格好となった。


 マリオンは風を纏いながら跳躍をした。彼女の紅い髪が逆立つ。そして片手を天に掲げると、彼女の体を渦のように風が包んだ。風に包まれた彼女は、その渦のような流れに身を任せ回転する。


 ―竜巻穿孔蹴り


 風を纏って凄まじい回転運動により、敵を穿つ蹴りを放つマリオンの固有技だ。


 その蹴りがキメラの頭部に炸裂し、血飛沫を上げるが回転は止まらない。ゴリゴリとその頭骨を削る音とキメラの断末魔の悲鳴が辺りに響く。


 キメラが白目を剥いた直後、マリオンはその回転を制止した。


 周囲で見ていた本来は気の荒い獣人達も、さすがにドン引きしているようだ。




 近隣の森から様子を窺っていた影が一つ。


「ふっ、見事な超電…超魔力スピンです!姫様。」


 それは木の上で頬を染めながら、親指をグっとサムズアップをしているウテナだった。直後マリオンの背筋がブルっと震えていたのは、見間違いではあるまい。


 こうして、西部の魔族軍はほぼ壊滅したようだった。

登場人物


ユーヤ・クノン:本名、久能佑哉。きっと主人公。アレクソラス王の肉体に、戦神サガの分け御魂と共に居候中。


マリオン:ヒロイン?元女神。現在亜神。クレィル侯爵家息女マリオネートの肉体を賃貸中。建前上はユーヤの許嫁…ではあるが、実は悪い気はしてないようだ。ユーヤと戦神からはマリっぺと呼ばれている。


聖女ハンナ:ジュディ―アル聖王国国主。戦神様には決して逆らわない。


ヒューズ・ロンバルト侯爵:嘗て前王の時代に名軍師と呼ばれた切れ者だが、諸事情で退役していた。三顧の礼によって復帰。ユーヤを「若」もしくは「若様」と呼ぶ。


ジード・ガンプ:王宮騎士団団長。魔銃の使い手。実はエテリナにゾッコンらしい。


ブラン・ゴルド:ジードの副官。


エクステリナ・アンダーソン:マリオネートの側付きにして王宮騎士団副団長。主と同僚に振り回され気味。愛称エテリナ。


ウテナ・ハーゲン:本来はマリオネートの側付きにしてエテリナの副官。現状は陛下直属の諜報機関「影の軍団くノ一隊筆頭」の任が楽しくて仕方ないらしい。陛下にご執心。


クーガー王:未だに噂だけの人。ガロウ獣王国国王。根っからの武人らしい。

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