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リンドバウム王国記~転生王ユーヤ~  作者: 三ツ蔵 祥
第1章 ―転生・ガロウ獣王国編―
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第四話 婚約

伏線を張るのは苦手です。

私は手品で例えるなら、すぐにタネをばらしてしまいたい方なのです。

そんな私なので、プロットと呼べるものは有ってないようなものなのです。

 各種改革が進められ、情勢が落ち着きだした頃、国民や重鎮からアレクソラス13世に対してある問題に対する早期解決の声が上がりだしていた。


「もう陛下も御年十七です。いい加減腹を決められては如何かと。」


 ―いや、俺の感覚から謂えば『まだ十七』なんだけど。


「家臣群からも、下は市民達でさえもまだかまだかと噂しております。」


 クレィル侯爵家現当主アンジェリカ・クレィル侯爵婦人は、王宮のテラスにてアレクソラス13世ことユーヤと歓談をしていたはずだった。初めはニコニコとそれは楽しそうに。


 しかし、どこから出火するかわからないもので、彼女にとって娘であるマリオネートの話に及んだ際に火が点いてしまったようだ。


 ―ご婦人の剣幕には敵わないなぁ。なんにも言えないよぉ…。


 ただ引き攣りながら相槌を打つことしか、ユーヤには許されていないようだ。


「せめて、婚儀の日程を決めてください。復興に従事する者達にとっても励みになりますゆえ。」


 ―王様って本当に面倒くさいなぁ…。


 そんなタイミングでマリオンは今日はフリフリの青いドレスに身を包み、後ろにエテリナ嬢を引き連れてテラスにやって来た。


「あら?お母様、そんな怖いお顔でどうされましたの?」


「おお、マリオネート。貴女も聞いて―」


 そこからまた、二人の婚儀についての意義やらをアンジェリカは熱心に説明しだした。ユーヤは紅茶を片手に遠くを見ている。その後ろのヒッターは、アンジェリカの話に強く同意しながら頷き相槌をしている。


 マリオンは、目を閉じ優雅に紅茶の香りを楽しんでいるようだ。後ろのエテリナ嬢も目を閉じ静かに直立している。


 アンジェリカが息を切らし始めた頃、マリオンがようやく口を開いた。


「お母様、お忘れでしょうが私達二人には、魔王討伐の使命が課せられています。その使命を果たさずして、婚儀など執り行えようはずがありません。執り行うのであれば、全てが終わってからというのが筋と謂うものです。」


 アンジェリカが驚いた表情でマリオンを見ている。マリオンの後ろではエテリナが驚愕に近い顔をしていた。―姫様がまともな事を言っている!?


「そうね…二人にはそのような使命があったのよね。忘れていたわ…。気を引き締めないとね。」


 少し俯いてアンジェリカは溜息を吐いた。


「そうです。お嬢様が無事陛下とご婚儀に挑まれるようになるまでは、このウテナが陛下のご寝所をお預かりいたしま―」


 いつの間にか片膝を付きながら涌いて出たウテナに、エテリナからの鉄拳が「話しをややこしくするんじゃない!」と、お見舞いされた。マリオンは目を閉じたまま紅茶を啜り、アンジェリカは目をシパシパさせている。









 アンジェリカがこの後貴族同士の宴席があるとの事で退席したあと、ユーヤはそのままテラスに残り、物思いに耽っていた。その場には、マリオンも残っていた。


 ヒッターは晩餐の用意の為退席し、エテリナは騎士団の会議へウテナを引き摺って向かった。


「婚儀か…確かに対外的にはやった方が良いのだろうなぁ…。」


「あら、ユーヤは私と結婚したいの?」


 マリオンは頬杖をつきながら笑みをもらして問いかけた。しかしユーヤはボーっと空を眺めている。


「ん?まあ、正直言うと嫌いじゃないよ。あの日の夕焼けに染まったマリっぺの顔をたまに思い出して、頭から離れなかったりするし。」


「あら、随分正直ね。全力で否定してくると思ったのに。」


 マリオンはニマニマしているが、当のユーヤは相変わらず遠くを見るような目をしていた。


「ん~なんて言うのかな。どっちにしろもう本当の体も失くしちゃってあっちには戻れないんだし、なるようになるしかないか~なんて思ってる。」


「ちょっと、投げやりになってるの?これまで俺王様!って感じにやってたユーヤらしくないわよ?」


 ユーヤの寂しそうな表情につられて、マリオンもどこか寂しげだ。


「それもそうだよなぁ。うーん。婚儀はちょっとなーと思うけど…婚約の儀でもやれば、周りも落ち着くかな?」


 閃いたようにユーヤが言うと、マリオンも「それだ!」と同意した。


 そして、多少ユーヤの中で葛藤はあったのだが、次の日の閣議で婚約の儀を一ヶ月後に執り行う事があっさり全会一致で可決した。

 クレィル侯爵夫婦が諸手を放り出して喜んだのは、勿論のことである。








 そして時は流れ、婚約の儀が執り行われている。


 貴族社会の慣例に則り、式の三日前から晩餐が催された。この為に幾つもの会場が設営され、ユーヤの計らいでそのうちの3つの会場は一般市民の出入りも自由とされた。


 会場周辺での商いも、申請さえあれば自由にさせた。貧民街では、下級騎士団が炊き出しをして食事を振舞った。


 ―どうせお祭りするなら無礼講でいいじゃん。と、かのアレクソラス13世が言ったとか言わなかったとか…。


 式場に厳かな空気が流れている。白いスーツに身を包んだユーヤの横で、白いドレスに身を包んだマリオンがお互いの手を握り、片手には花束を携えて赤い絨毯の上をゆっくりと式場中央へと歩を進める。


 結婚式ではないので、ベールは着用していない。代わりに髪に白い花飾りをしている。


 そして、ここは教会ではなく王宮の謁見の間である。


 二人は玉座の前に辿り着くとスっと振り返り、絨毯の周りに居並ぶ者達に向け宣誓した。


「「我々は、魔王が討伐されるその日までこの身を神に捧げ、全ての臣民の為に働く事を盟約す。そして、ここに戦神サガと女神マリオンの名の下に、婚約が成された事を宣言いたします。願わくば平和の訪れし時、死が二人を別つまで添い遂げられん事を願い奉ります。」」


 直後、ワー!と云う歓声と拍手で謁見の間が、王城が揺れる。


 傍らで見ていたクレィル夫妻は、涙でクシャクシャになりながら抱き合っている。エテリナ嬢もいつもの鎧姿ではなく、青いドレス姿でハンカチを片手に瞳を潤ませていた。


 ウテナは…「ちっ」と舌打ちをしながら一応周りに合わせて拍手をしている。薄紫色のドレスとは不似合な、なかなか無尊な態度である。







 王城から豪華に飾り立てられた一台の馬車が、二人のお披露目の為にゆっくりと走り出す。馬車の中に座しているのは勿論ユーヤとマリオン、そしてクレィル夫妻と護衛のエテリナである。


 馬車の右前方を先導しているのは、騎士団長ジード。全身真っ黒な馬に騎乗している。


 左は鎧姿に着替えたウテナだ。こちらは白い馬体に銀色の鬣の馬に騎乗。馬車の後衛にはヒッターを始め、騎士団の精鋭達が騎乗し居並ぶ。


「馬車内の護衛は本来、影である私がするべきなんじゃ…。」


 と、ウテナはブチブチ言っている。それを聞いていたジードが返した。


「貴女を陛下と一緒の空間に入れると、色々な意味で陛下の身が危険だからですよ。」


 ―ちぃっ!


 ウテナは小声で「心外だわ。心外だわ。」と繰り返し呟いていた。





 一方、馬車の中は和やかな雰囲気であった。


「陛下、それに姫様。私なぞが同乗してしまってて良いのでしょうか?」


 マリオンの正面に座して式場の衣装のままのエテリナが、恐縮しながら問いかけてくる。


「いいのよ。貴女は私の姉みたいなものでしょ?もっと胸を張って堂々と座っていなさいよ。」


 マリオンの言葉に、その場の皆が微笑みながら頷いた。


「それにしても、まだ後三日もこの祝宴は続くのか…。もう胃がもたれてきてるんだけど、途中で抜け出せないものなのかい?」


「陛下、主賓が何を仰られておいでですか?本当の結婚の儀ともなれば、前夜祭も後夜祭も七日間催さなければならないのですよ?」


 ―マジか!王族って本当に面倒くせー!


 アンジェリカの返答にユーヤは驚愕した。―魔王討伐したら、どうにか家に帰してくれないかなぁ…戦神様。。。







 後夜祭三日目、ユーヤの胃もたれは限界突破しフラフラになりながらも幾つかある会場のうち、主に商人ギルドの集まる会場に来ていた。そこでユーヤはフェルナンドと云う若いが、有力な商人と歓談していた。


 年の頃はユーヤと同じ16~17と謂ったところに見える。しかし、よくよく聞けば4~5歳ばかり上の年齢のようだ。


「ええ、あの海岸付近を改良する許可を頂ければ、数ヶ月でこのラウズ大陸でも有数の港湾施設が出来ると思っています。」


 フェルナンドの言うあの海岸(・・・・)とは、例の転生の際に沈んだ半島の付け根の事であり、要はあのクレーターを利用しませんか?と云う事だった。


 ユーヤは面白いと思った。


 あの場には既に崖の上に鎮魂碑が置かれている。半島が沈んだ際に被害を受けたのは貴族や騎士だけではない。半島には漁村もあった。人口200人にも満たないその漁村の住民達も、海の一部となっていたのだ。


 ただ死を悼み碑を置いたところで、彼等の無念は晴れない。そして自身が腫物を扱うように、あの場所を封印してしまう事は間違っているのではないか?そんな想いもユーヤにはあった。


「今の話し、ベルヌ宰相に話してみよう。俺は君の事を応援するよ、フェルナンド。」


「陛下。ありがとうございます!」


「ただ、君にはこれ以外の(まつりごと)にも関わってもらいたいんだよね。」


 ユーヤは笑顔でフェルナンドに握手を求めた。


 フェルナンドは幾何か悩んだが、笑顔でその手を握り返すのだった。近い年代の国王に、何か感じるものがあったのであろう。


 転生の事故の際に空席になり、ベルヌ宰相が兼任していた建設大臣の席が埋まった瞬間だった。


 これにより、準男爵であったフェルナンドは男爵へと引き上げられた。名実共に有力豪族になったのだった。






 それからもう秋も終わり、農家が収穫を終えた頃。東隣りのジュディーアル聖王国との国境付近に魔族が現れた。

登場人物


ユーヤ・クノン:主人公の筈。久能佑哉の魂+アレクソラス13世の肉体と魂の欠片+戦神サガの分け御魂を持つ異世界転生者。


マリオン:今回はちゃんとヒロインぽいよね?元女神、現在亜神。子孫であるマリオネートに憑依している。戦神サガとユーヤからはマリっぺと呼ばれる。


フェルナンド:リンドバウムにて、若くして伸し上がった有力商人。国政の一端を担う事になった。準男爵から男爵へ。


アンジェリカ・クレィル:マリオネートの母。クレィル侯爵家は女系の為、この方が現当主。


エクステリナ・アンダーソン:マリオネートの側付きにして王宮騎士団副団長。クレィル隊隊長。愛称エテリナ。


ウテナ・ハーゲン:マリオネートの側付きにしてクレィル隊副官。そして、影の軍団くノ一隊筆頭。陛下にご執心。


ヒッター・ユング:アレクソラス13世の幼少からの側付き。ユーヤを坊ちゃんと呼ぶ。


ジード・ガンプ:王宮騎士団団長。魔銃使い。


ここまでに登場している国家


リンドバウム王国:主人公の治める、よくある立憲君主制国家。魔王の存在する大陸から遠く割と安穏としているが、国力はラウズ大陸内に於いては他国に劣る。


ベルツ帝国:リンドバウム王国の北東に位置する軍事大国。ラウズ大陸に於いて最大の国力を保持。


ジュディ―アル聖王国:リンドバウム王国の東に位置する国家。法王、又は聖女と呼ばれる聖職者が代々治める。戦力の大半は僧兵であり、ある意味テンプル・ナイツを地で行く感じ。国力はラウズ大陸に於いて3番目くらい。

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