後篇 王子の思い
王子の視点です。
かなりご都合主義の王子ですが、私は自分の為に生きる彼が嫌いではないです。
自身に不浄の呪いを掛けられたと知った時、絶望が心を占めた。
焼けただれ、腐り落ちる自身の体から漂う異臭。
これが一国の王子の姿であろうか。
だが、今この国は宰相に乗っ取られてしまい危機に瀕していた。
父王や母は自分の目の前で殺された。
血しぶきが舞い、自身にかかる生暖かく鉄臭い匂いをした物で全身がつつまれた瞬間からは必死で逃げるしかなかった。
今は引くしかない。
燃え滾る憎しみの炎をどうにかおさめ、馬を駆けさせた。
どうにか側近らと共に命からがら生き延びたが、宰相は俺に呪いを掛けて殺そうとしているようだ。
そんなにも王位という物が欲しいのか。
もうこのまま死んでもいいのではないかと思ったが、皆が俺に期待を掛けてくる。
やめてくれ。
この腐った体でどうしろと言うんだ。
そんな時、再生の魔女の噂を耳にし、魔女が封じられていると言う牢屋へと足を向けたのだ。
彼女を見た瞬間、あぁ、自分は彼女に出会うために生まれたのだと悟った。
他人に期待され、生き延びたが、どうしても自分が王になるという実感がなかった。ただ、自分にその能力があるがために、ただただ必死になって働いてきた。
父や母が死んだのにもかかわらず、憎しみは燃えるが、自身の将来への希望などなかった。
だが初めて、自分の心に希望が宿る。
王子として宰相から国を取り戻すとか、民の為だとか、そんな事は頭から抜け、自分の生まれた意味は彼女をこの劣悪な環境から救いだし、そして、一緒に生きる事なのだと悟った。
真っ白な肌と髪をした彼女は、まるで天使のように美しかった。
だが、彼女の閉じ込められていた牢には大量のごみが入れられており、何故かとその牢を管理する町に尋ねると、彼女は再生の魔女だからだと言う。
再生の魔女は文字通り物を再生させる。
だからこそ、彼女の周りをごみためにし、再生させてそれをまた再利用していたのだと言う。
何という事だ。
そんな事の為に彼女は捕えられ、ごみための中で暮らしていなければならなかったのか。
もうそんな事にはならないように、理由をつけて町から彼女を救いだし、そして自分の傍へと置いた。
だが、自分は腐り落ちる体を持っているので、近寄れば悪臭がする。
「近寄るな。俺から離れろ。」
魔女はいつも可愛らしくて、部屋にいるとすぐにちょこんと近寄ってきていた。
だが、あまり近寄られるとおそらく臭ってしまう。
それは彼女に悪い気がした。
けれども気が付けばいつも彼女は寄ってきていて、そんな可愛らしい姿を見るたびに心臓が煩くなるのを感じた。
「あまり近寄るな。はぁ、いつになったら私の呪いは解けるのだ。」
早く呪いを解いて、彼女を抱きしめたい。
そして彼女を幸せにするのだ。
呪いを解いて、彼女と一緒に暮らすことを夢見るだけで幸せな気持ちになった。
だが、その前にやらなければならないことがある。
次の年にやっと呪いを解くことが出来た。
本当ならば傍に置いておきたいが、自分の傍は今は危険だろう。
嫌であったがしばしの別れだと自分に言い聞かせて彼女を元居た場所へと返した。
『新王陛下万歳!お妃様万歳!』
宰相は他の貴族らを従わせるまでにかなりの時間を要したようで、王位につくまでに一年もかかり、今やっと王座へとついた。
だが、それも仮初の王座である。
今晩、俺の率いる反乱軍がその王座を奪還する。そしてこの国を民主化へといざなおうと考えていた。
俺は王にはならない。
俺は、彼女を幸せにするのだ。その為には、王座などという物は邪魔でしかならなかった。
これが終わったら、彼女を迎えに行こう。
きっと、ごみために戻して怒っているだろう。
俺は、彼女を迎えに行き笑ってくれるだろうかと胸が高鳴った。
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