表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

エピローグ

 「おまえが気にすることはないんだよ、レイヴン」


 ふいに声をかけられて、レイヴンと呼ばれた赤毛の大男はパンの生地をこねていた手をとめました。顔を上げると、そこにはチェリーブロンドの髪をした魔女の姿がありました。


 「なんの話だ」


 ぶっきらぼうにそういうと、西の魔女はその紅茶色の瞳をレイヴンに向けたままいつものように淡々と続けました。


 「オグル族のことはおまえだけのせいじゃない。たまたまそこに悪意を向けざるを得なかったその時代の人間の心の結果だ」

 「そうかよ」

 「リンデークは長い間の悪意を正そうとしている見込みのある人間だ。時間はかかるだろうが奴に任せようと私は思うよ」

 「うるせえ」


 レイヴンは心の中で舌打ちをしました。この魔女はどうやらレイヴンが黒猫とかいうオグル族の娘に自分が手助けをしてやっていたことを知っているようでした。もちろん、その心情も含めて。

 何やら気恥ずかしい気分でパンの生地をこねまわしていると、台所から去ろうとしていた魔女が背を向けたままでぼそりとつぶやきました。


 「オグル族の娘が幸せになって、よかったな」


 魔女が隣の部屋に消えていくのを見計らって、レイヴンは瞳を上げました。そうしていきをひとつ吐きます。

そうして思いました。まあ今日はキャロットパンではなく、魔女の好きなパンプキンパンにしてやろうか、と。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 むかしむかし、あるところに粉屋の三男坊がおりました。父親が死んだあと三男坊は家を追い出され、大切にしていた黒猫一匹だけを抱いて外の世界へと旅立ちました。

 その世界は大きく広く、そしてとても自由なところでした。

 そこで三男坊はまず思いました。これまでずっと叶えてやれなかった黒猫の願いを叶えてやろうと。

 三男坊は黒猫のことが大好きで、ずっといっしょに居たいと思っておりましたが、黒猫はずうっとずうっと、お家に帰りたがっておりました。ちっとも笑わない黒猫を笑わせてあげようと三男坊はおしゃべりになりましたが、黒猫はちっとも笑ってはくれませんでした。

ですから思ったのです。黒猫はお家に帰れれば笑えるのではないかと。

だからまずは、お家に帰してあげようとしたのでした。


 けれども黒猫も、じつはおんなじことを思っていたのでした。

 大切なひとのために、ただ何かをしてあげたいと。それだけを。



 三男坊と黒猫は、今日も一緒に歩いています。

 三男坊はあいかわらずよく笑いますし雲のような軽口をたたきます。

そして黒猫は、三男坊の前ではすこしだけ笑うようになりました。


ひとつのブーツから作ったおそろいのブーツを履いて、二人はあしたもあさっても、ずうっとずうっと仲良く並んで歩いていくのでした。




 おわり



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ