第44話 口は災いの元
「ふーん……。それで追放されたと……」
食堂にいるウィードは、テーブルに片肘をつき、紙を宙でひらひらと泳がせていた。その前には、ジェイビーとその横にはシータスが座っていた。
「どういたしましょう」
シータスがウィードに視線を向けた。
「別に良いんじゃない。新しい部屋と、適当な働き口を作れば良いんじゃろ?」
「そうは申してもウィード様。この者の能力は、食べられないものを産出するだけのもの」
頬杖を付き、軽く息をこぼしたウィードは、ジェイビーに幾つかの疑問をぶつけた。
「おい、ジェイビーとやら。お主はそれを使って壁とか、足場とか作れたりするのか?」
「いや、全く皆無でございます、ウィードの姉御!」
正面に座っているジェイビーは、自信満々に言い切った。とはいえ、それは既に予想していたこと。だが、ウィードはそんなことより、自分を呼ぶ呼び名の方が気にかかった。
「じゃろうなぁ……。というか姉御はやめい。こう見えても年頃の女子じゃ、別の言い方があるじゃろ」
「……ね、姉さん……? ですか……。なんかその、元々いた世界では、良く姉御って言ってましたので……」
「姉から離れろって言うんじゃ!」
「……とは言え、似てるんですよ。ボクの姉御に」
ジェイビーは、元いた世界の姉とウィードに、その姿を重ねていた。顔立ちも話し方も、ジェイビーの姉に酷似していたのだ。
「だいたい、姉姉言うとるが。肝心のお前はいくつなんじゃ、ジェイビー」
「じゅ、十六でございます!」
「ちょ、ちょっと待てい! ワタシより十も下じゃないか!」
「ええっ、そうなんですか!?」
その言葉を耳にしたシータスは思わず声を上げ、テーブルに両手を突くと立ち上がった。しかし、その視線はウィードへ向けられていた。
「ええっ!? ウィード様……?」
「ちょ、えええっ! って、お前。いや、なんでこっちを見とるんじゃ!!」
「う……ウィード様、てっきり三十くらいかと思って……、って、はっ!?」
ウィードはその言葉を耳にすると、シータスにゆっくり視線を向けていった。そして、手を震わせると、その眼光が次第に鋭くなっていった。
「……シータス。お前の晩飯は、ミントの素揚げに決定な!」
「そ、そそそ、そんな殺生な!!」
シータスは声を張り上げた。その声を聴いたウィードは、背もたれに寄りかかり椅子を鳴らした。そして、厨房の方へと顔を向けると、叫んだ。
「おーい、ミンティ。そこにいるじゃろ!
シータス貸すから部屋のミントの駆除を頼んで良いぞ!」
すると扉が開き、ミンティが顔を出した。
「ほ、本当ですか!? 助かります!」
「えっ、あっいや、これはですね! 頭が切れるという意味での『三十歳』という意味でですね……」
その様子に手を広げ、必至に釈明しているシータス。だが、言葉の選択はどれも絶望的だった。
「それ以上言い訳したら、尻にミントをぶち込んで、青海苔がミントに出会うまで、口から注ぎ込むことになるぞ……シータス……」
「い、嫌アアアアァァ!!」
「あと、そいつの晩飯は、ミントの素揚げと煮つけ、それとミントの味噌汁で決定じゃからな」
「す、素揚げだけじゃないんですか!!」
「知らんわボケ。お主のまいた種じゃ! じゃあ、あとは頼んだぞミンティ」
「分かりましたウィード様!」
こうしてシータスは、ミンティにミントを絡みつけられ、そのまま食堂から引きずられていった。
扉の先からはミンティの鼻歌と微かな悲鳴が聞こえ、それは次第に静けさに溶け込んでいった。
「……こほん。では、ジェイビーとやら。逆に問うが、自分は何ができると思う?」
ジェイビーは顎に拳を乗せると、首を傾げていく。そして、そのまま表情は曇りゆっくりと目を閉じていった。
それからして、三分ほど沈黙が漂ったのち言い放ったのは、
「――勇者ゴッコでしょうか!!」
だった。
「ああああああぁッ! 確かにッ! 確かにそうだが、そうでは無いのだジェイビーよ!」
頭を抱えて身をよじるウィード。どこか嬉しい反面、それだけの為では皆に示しが付かなかった。
「では……ボクに辱めを受けろということですかッ!? くっ、殺せ! とでも言わせたいんですか!」
「馬鹿か貴様! この世界でオークもゴブリンも見たことないわッ!!」
その言葉を耳にすると、ジェイビーの動きがぴたりと止まった。
「……いや、ちょっと待ってください姉御。何故この流れで、オークとかゴブリンが出てくるんですか……。転移前のこと、何か知ってるんですか?」
「ししし、知らん!! というか出来る仕事をだな!」
慌てふためくウィード。両手を上げ下げして顔を赤らめていた。
「わ、分かってますって……肉体労働とか、鞭打ちとか。……あとは土いじりくらいですよ」
「うーむ、なんか色々と歪んでそうだが、土いじりとは……なんぞな?」
首を傾げるウィード。俗世には疎かった。
「ああ……。畑仕事ですよ。親が農家だったもので、色々と手伝わされてたんで……」
「ほほう、それは良いことを聞いた。ならばヒル・ワームに畑をこしらえてもらおうか」
こうして大したオチもなく、ジェイビーは農作業に従事することになったのである。
だが、彼はまだ知らない。癖のある住人がいることを。
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