強制力
「この世界に魔王は7人しかいません。グレゴアさんと言う名の魔王は西区冒険者ギルドで職員をされています。貴方のゲームのシナリオでは2年後にいきなりグレゴアさんがエルフの森を襲うのですか?」
サイコパス魔王かよ。急に森を焼きたくなったりするの?怖ぇよ。
青髪は私の言葉を聞いて考え込む。
「魔王は長年各地に侵攻していた筈だ。そんな描写がゲームの中であった気がする。」
青髪は言葉を振り絞るように呟く。
「では、この世界はゲームのシナリオ通りとはいかないのでは?馬も5万Gで買えない。魔王も侵攻していない。私との会話もゲームには無い。何処を取ったらゲームの中だと決めつけれるのでしょうか?」
知ってるゲームの知識で最強だっ!って無理だろ。後半にいくにつれて辻褄が合わなくなるんだって。
私の辛口な言葉に青髪はプルプルしている。白髮は考え込むように、オレンジ髪は最初からオロオロしている。
「で、でも、ゲームの中のシナリオ通りに進む様に強制力が働く筈なんだ。」
まだ諦めきれない青髪は何とか形勢不利を覆そうとしてくる。
はぁ。めんどくさ。
「もし貴方の言う強制力とやらが働くのであれば、貴方達は馬が5万Gの値になるまで王都に来れないのでは?」
私の言葉に青髪はハッとしている。
「自分達の行動には強制力が働かず、シナリオには強制力が働く。矛盾していませんか?何処から何処までの行動だと強制力が働くのでしょうか?貴方と会話した私には強制力が働くのでしょうか?貴方達が昨日泊まった宿には?王都までの道で会話した人々には?少しでもゲームの行動と違えば強制力が働くのですか?」
強制力とか知らねーよ。ご都合主義って事でしょ?だからゲームのシナリオ通りは破綻してるんだって。
「そ、それは……わからない。異世界物だとそうだったから…」
でしょうねっ!考え無しのご都合主義だもんねっ!
「お分かりにならないのに強制力とやらが働くと?エルフの森が危険に晒されると?いやはや、これは一大事です。各国にも使徒の名において警戒を促す事と致しましょう。」
私の言葉に顔色を真っ先に変えたのは白髮エルフだ。
「お、恐れながら使徒様っ!若者には間違いというのも一つの大変な経験となります。使徒様におかれましてはその寛大な御心を持ちまして御容赦頂けたらと。」
私が動くとなればそれこそ一大事だ。各国の上層部に情報が届けられ、各所で考察、議論が絶え間なく行われるであろう。それがもし何の根拠もありませんとなれば、良ければ死罪、悪くても一生牢獄だ。
白髮エルフは自分達の首が物理的にヤバいと理解してしまったようだ。
何を考えて青髪達に同行しようとしたのかは知らないが。
「それはそれは。ところでエルフの森と言えば、今の族長はコルベル殿でしたかね?大変思慮深い同族をお持ちになって大変喜ばしい事です。かの御方もさぞご安堵されている事でしょう。」
必殺。お前の森の族長のとはマブだけど、この事知ってんだろうなぁ?てめぇの勝手でチョロチョロ動き回ってんじゃないよなぁ?を貴族風の言い回しでパンチだ。
案の定白髪エルフはダラダラと汗を流しながら顔を青くしている。
どうせ森を救った英雄にとか考えてたんだろ。
そうで無ければもっと上のルートから情報が来るはずだ。
私のパンチにオレンジ髪は涙目で、しきりに「謝って帰ろうよぉ。」と言っている。巻き込まれると大変だね。どんまいオレンジ髪。
青髪も涙目でプルプルしながらコチラを伺っている。
「もし本当にエルフの森が危機に陥るのであれば、それはとても大変な事です。ただ現状では貴方の仰る事が起こるとは考えにくい。貴方がゲームのシナリオを遵守しようが周りに迷惑をかけなければ問題ありませんし、誰も気にしません。しかし貴方が口にした言葉で影響を受ける人がいるかもしれない。」
そうなのだ。別に自分達だけでゲームのシナリオヒャッホーってやってるなら別に問題ない。なんかやべーヤツいんなくらいしか思わない。
「エルフの森が襲われると商人が耳にしたら?エルフの森への流通の減少とそれに伴う周辺都市の経済変化について貴方達は考えましたか?また、それに伴う情報、前提条件等を考慮し考察しましたか?」
異世界物で読んだから。ゲームの中だとそうだったから。そんな糞の役にも立たない理由で行動してるヤツは脳みそ腐ってるとしか考えられない。だいたい、ゲームの中だとーじゃねぇよ。ゲームの中だからこそ違う視点から攻めろやっ。駄馬より良い馬いっぱいおるわ。何で2年後にーって2年待つんだよ。2年前に魔王ヤッちゃえば良いだろうが。自分で出来なきゃ高位冒険者頼めば良いだろうが。高級武具の情報知ってんでしょ?それを報酬にしたら良いじゃん。
「貴方達はまず。この世界が本当にゲームのシナリオ通りに回っているかの確認が先だとおもいます。本当にゲームの中の人がその通りに過ごしているのか、違う行動をしても強制力とやらが働いてシナリオ通りになってしまうのか。」
「その上での情報であるならば私も協力は惜しみません。」
3人は涙目でノックアウト寸前だ。使徒様の時間を無駄にさせるんじゃない。
「それで?当家が購入した馬が欲しいとの事でしたか?」
心のぽっきり折れた3人に改めて本日の来訪理由を尋ねる。
「…いえ、もう大丈夫です。」
彼らに400万Gは厳しかったようだ。
トボトボと門へと向かう3人を応接室から眺める。
ご都合主義の小説ばっかり読んでるから、いざ行動となった時に同じ様にやるんだよね。
もっと現実を見ろ若者よ。
あと駄馬よキラキラした目でこっちを見るんじゃない。気色悪い。
貴様は本来5万Gの価値らしいから195万Gは借金な。働いて返済しなさい。
あーぁ。ほんと異世界人は厄介だな。




