来訪者
夢か現実かハッキリとしない微睡みの中で微かにコンコンコンと扉をノックする音が聞こえる。
世界一幸せな寝起きの瞬間を邪魔されて若干だがイラッとしてしまう。
しかしきっと夢だと思い込み、またぬくぬくと布団を被る。
コンコンコン。
夢じゃなかった。
誰だっ!この幸せを邪魔するヤツはっ!
私は負けないっ!この幸せを守るんだっ!
コンコンコン
「ご主人様。冒険者ギルドの職員の方がお見えです。」
これは間違いなくメイドのミリーの声だ。
だがまだだ、まだ負けてはいない。
気付かなかったとすれば、あと2時間は稼げる。
忍耐だ。誰もが恐れる忍耐を手に入れるんだ。
コンコンコン
「入ってまーす。」
しまった。つい返事をしてしまった。
これがコミュ力3万の無せる技か。
……
……
ドゴッ!
「おいっ!客だって言ってんだろうがっ!」
「はいっ!起きてますっ!応接室にお通しして下さいっ!」
今日は2時間稼ぐのは無理だった。
いそいそと起き上がり制服に袖を通す。
誰だよ朝から訪ねてくる無作法なヤツは。
ちゃんとアポ取ってから来いよ。
廊下を歩きながらグダグダと寝起きを邪魔された事に文句を言う。
だいたいなんなの、あのデスボイス、悪魔憑きなの?
寝起きの子が聞いてイイ声じゃないじゃん。
応接室までくると、先ほどドアを殴ったとは思えないほど華奢なミリーが立っていた。
ミリーがドアを開けてくれ、中に入るとそこにはこんがりと灼けた肌のガタイの良い見知った顔があった。
「よう旦那。朝からすまんね。」
またお前か。
来訪者の向かいに座るとミリーが紅茶を入れてくれる。
うん美味しい。
「それで朝から何の用ですか。」
こっちは寝起きを邪魔されてプンプンなのだ。
「それが、また来たみたいでよ。」
「またですか、最近多くないですか?」
「そりゃ俺に言われてもってヤツだが、また冒険者ギルドで揉めててよ。」
はぁ、また揉め事か。何故奴らは毎回こうなのか。
「冒険者ギルドで処理出来ないんですか?」
私は働きたくないのだ。処理できるならそっちでやってくれ。
「それが冒険者ギルドで受けた商業ギルドの案件でよ。」
詳しく聞くと商業ギルドが冒険者ギルドに依頼した期日指定の納品の遅延らしい。
商業ギルドは期日指定までして2週間の余裕を持って依頼、冒険者ギルドも2週間あればと依頼を受諾、即日で依頼を受ける冒険者パーティーが現れ、冒険者ギルド受付は納品日の期限がある事、遅延した場合違約金が発生する事をパーティーに伝え受理。
ところが蓋を開ければ期日に間に合わず、4日遅れで冒険者ギルドにやってきて受付で揉めているらしい。
「典型的な何時ものヤツですね。」
「そうなんだよ。受付で説明してもヤツら納得もしやしねぇし自分勝手な事ばっかり言ってやがる。おまけに弁護士呼べときたもんだ。」
はぁ行きたくない。
チラとミリーを見れば人形みたいに微動だにせず立っている。
さてどうしようか。




