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その知恵、世界の礎(いしずえ)につき ~現代知識で異世界を便利にしたら、女商人と共に世界の道理を書き換えていた~  作者: カミツキ
二人の魔王編

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第51話 その震撼、旧来の権威との不協和音につき

ガタガタと揺れる馬車の振動が、新道に入った瞬間にぴたりと止まった。


アラインカプス領主から派遣された特使ヴァルンは、手元に置いていたワイングラスが一度も波立たないことに気づき、隣に座るガルム将軍と顔を見合わせた。


「……将軍、これはどういうことだ。まだ拠点は先のはずだが」


「わからん。だが、馬の足音が変わった。泥を叩く音ではなく、石を叩く音だ」


将軍が窓の垂れ幕を跳ね上げた。


二人の目に飛び込んできたのは、地平線まで一直線に伸びる灰色の帯だった。


かつて彼らが軍を率いて行軍した際、魔物と泥濘に足を取られ、一週間を費やした悪路。


それが今、見たこともない滑らかな舗装によって、わずか半日の道程に書き換えられている。


馬車が「アルヴェアル」の門に差し掛かった時、二人の衝撃は頂点に達した。


「なんだ、あの建物は……。王都の城壁よりも、ずっと『合理的』ではないか」


視界を塞ぐのは、建設中の巨大な集合住宅「フェリア」の群れだ。


木造の無秩序な小屋などは一つもない。


同じ高さ、同じ窓の配置、同じ灰色の壁。


それらが規律正しく並び、その間を、白い作業着を着た労働者たちが蟻のようにせわしなく動き回っている。


「止まれ! 身分証の提示を!」


門番の声に、将軍の護衛たちが色めき立った。


だが、門番は将軍の紋章を見ても、表情一つ変えなかった。


彼はただ、労働者たちが首から下げているのと同じ「木札」を手に取り、台帳と照らし合わせる作業を淡々と続けている。


「無礼な、こちらはアラインカプス領主の名代、ガルム将軍であるぞ!」


「……名前はどうでもいい。我々が確認するのは、リール商会が発行した『通行許可』の有無だけだ。……通してやれ、確認は取れている」


門番は横柄に顎をしゃくった。


将軍は憤慨するよりも先に、門の脇に立つ一人の男の姿に凍りついた。


「……アピウスか? まさか、あの『極光の勇者』が、なぜこんな場所で土まみれのシャベルを握っている」


アピウスは将軍を一瞥したが、敬礼もしなかった。


彼はただ、現場監督として労働者たちに指示を飛ばし、巨大な岩を軽々と担ぎ上げてどけていく。


伝説の勇者が「ただの動力源」として組み込まれている光景は、将軍にとって、どんな軍勢よりも恐ろしい脅威に映った。


「ようこそ、アルヴェアルへ。お待ちしておりましたわ」


拠点の中心部、噴水が湧き出る広場で彼らを出迎えたのは、リールだった。


その隣には、大きな測量計を抱えた一人の子ども――湊が立っている。


「……これが、噂の『駅』か。特使殿、どう思う」


将軍が低い声で尋ねると、ヴァルン特使は額の汗を拭った。


彼の目は、広場の売店で並ぶ商品の数々、そして労働者たちが食べている「白米と肉のスープ」に釘付けになっていた。


「……将軍、認めざるを得ません。ここは王都よりも、ずっと……『豊か』です。それも、我々の法ではなく、あの商人の作った『ルール』によって統治されている……」


特使の言葉通り、広場を行き交う人々は、領主の権威に怯える様子など微塵もなかった。


彼らは首から下げた「木札」を誇らしげに見せ合い、商会が定めた時間に食事を摂り、商会が作った道を、商会が用意した靴で歩いている。


「紹介しますわ。こちらの湊が、この『新道』と『フェリア』の設計者です」


リールが湊の肩に手を置く。


将軍と特使の視線が、湊に突き刺さった。


「……この子どもがか? まさか、冗談だろう。この巨大な石造りの街を、子ども一人が……」


「ええ、冗談ではありませんわ。彼はただ、もっと『速く届く方法』を考えただけ。……将軍、貴方の兵士たちも、このアルヴェアルのスープを一度飲めば、二度と泥臭い野営には戻れなくなりますわよ」


リールの扇子が、三日月のように弧を描いた。


その夜、彼らのために用意された一室。


そこには、清潔な水、煙の出ない魔導ランプ、そして一切の虫を寄せ付けない清潔な寝具があった。


特使ヴァルンは、ふかふかの寝具に腰を下ろし、震える手で窓の外を眺めた。


暗闇の中に浮かび上がる、整然と並んだ「フェリア」の窓明かり。


それは、彼らが守ってきた「古い王国の秩序」を、内側から静かに、そして確実に食い破っていく『毒』の輝きに見えた。


「……明日、この商会をどう扱うか、腹を決めねばならん。さもなくば……我々の国は、この『道』の先に飲み込まれるぞ」


将軍の呟きに、特使はただ、深く、重く頷くだけだった。

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