第1話 その刹那、異世界につき
数ある作品の中から、本作を見つけていただきありがとうございます。
「現代の知恵」が、魔法の存在する停滞した異世界に何をもたらすのか。
それは救いの光か、それとも破滅の毒か。
少年と商人が織りなす、少しシビアな文明開化の物語をお楽しみください。
※Web小説での執筆は初めてのため、読みやすい改行や行間について試行錯誤しております。
もし読みづらい点などあれば、感想欄などで教えていただけると幸いです
石鹸の泡は、白くて、柔らかくて、綺麗だった。
俺が「この世界」で最初に作ったもの。
その泡が、街を飲み込む道具になるなんて、
あの頃の俺には、想像もできなかった。
――これは、「救い」と「支配」が同じ意味になっていく話。
* * *
退屈、だった。
窓の外から聞こえる部活の声も、黒板を叩くチョークの音も、汐見湊にとっては遠い世界の出来事のようだった。
どこにでもいる、少し刺激に飢えた高校生。
(異世界にでも、行けたらいいのに)
そんな手垢のついた妄想を枕に、湊はまどろみの中へと沈んでいった。
ふと、頬を撫でる風の冷たさに目が覚めた。
「……ん、エアコン効きすぎか?」
重い瞼を開けた湊は、またたく間に思考を白く染めた。
天井がない。
あるのは、抜けるような青空と、見たこともない巨木がそびえ立つ密林だった。
「……まじか」
慌てて立ち上がり、お約束の言葉を叫んでみる。
「ステータス・オープン!……ファイア!」
静寂。
鳥のさえずりが虚しく響くだけ。
「神様!? スキルとか、ステータスとか、ないの!?」
……返事はない。
だが、落胆する暇は与えられなかった。
「グガァァァッ!!」
背後から、腐った肉の臭いと共に、緑色の醜悪な怪物――オークが迫る。
「うわああああっ!?」
なりふり構わず走り出したが、突き当たりの巨木の根に追い詰められた。
棍棒が振り上げられたその瞬間
――ガキィィィン!!
激しい金属音。
オークの剛腕を弾き飛ばしたのは、一人の女戦士だった。
燃えるような赤い髪をなびかせ、彼女は流れるような動作で怪物を瞬時に仕留めてみせた。
「……怪我はないか? 運のいい男だ」
彼女は剣の血を払い、湊を一瞥した。
「ナノ・ウィプスだ。……お前は?」
ナノが地面に落ちたプラスチックの板を拾い上げた。
「これは? お前のものか?」
「あ、それ……俺の身分証です」
ナノは眉間に皺を寄せ、怪訝そうにそれを眺める。
「みぶんしょう……? 素材の滑らかさもさることながら、寸分狂わぬこの形。なにより、この似顔絵はどうやって描いたんだ?」
「……故郷のお守りのようなものです。そんなもので良ければ、差し上げます。街まで同行させてもらえませんか」
「いいだろう。こんな場所で一人でいれば危険だからな。行くぞ」
ナノは満足げに頷くと、それを大切そうに懐にしまった。
森を抜け、視界が開けた。
丘の下に広がるのは、石造りの壁と、古びた街並み――アラインカプス。
「……あれが、私の街だ」
ナノが誇らしげに顎をしゃくった。
砂利道は泥に塗れ、重そうな荷車がガタガタと悲鳴を上げながら牛に引かれている。
街の門の前では、衛兵たちが巨大な石材を前に、顔を真っ赤にして綱を引いていた。
「うわ、きつそう……。あそこに太い棒とか挟まないんですか?」
「棒? 挟んでどうする。パキッと折れて危ないだろ。いいから急ぐぞ、門が閉まる」
「……あ、はい」
湊は、顔を真っ赤にして綱を引く男たちと、ナノの背中を交互に見つめた。
「おい、湊。遅れるな」
ぐうぅ、と。
夕暮れの静けさに、情けない音が響いた。
ナノが足を止め、ジト目で振り返る。
「……飯が先だな」
「……すみません」
湊は赤くなった顔を伏せ、鳴り続ける腹を片手で押さえながら、ナノの背中を慌てて追いかけた。
最後までお読みいただきありがとうございます
本作は現在、第一部の全エピソードを書き終え、予約投稿にてお届けしております。
「第二部」のプロットも無事にまとまり、現在はその執筆に全力を注いでいるところです。
湊たちの物語がさらに加速していきますので、ぜひ今のうちにブックマークをして、更新をお待ちいただければ幸いです。
皆様の感想や評価が、第二部をより面白くするパワーになります。よろしくお願いします。




