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断罪された最強の女騎士、傭兵少女と地の底から逆襲を開始する 〜冤罪で国を追われた騎士団長は、王国を守るために牙を剥く〜  作者: 十目 イチ


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第7話 相棒として

 ハルの町外れ、赤茶けた荒野に土煙が舞い、敗走するファビアン一味の背中が遠ざかっていく。


 アルテアは漆黒の細剣『夜帷』を腰に納めながら、逃げゆく背中に向けて氷のように冷たい声を投げかけた。


「ファビアン。……次はないと思え。次にその顔を私の前に晒した時、お前たちの首は体と別れることになる」


 その言葉に、逃げる男たちの足が目に見えて震えた。

 かつて王国の頂点にいた騎士団長の殺気は、たとえ地位を失おうとも、並の傭兵が耐えられるものではない。


 静寂が戻った荒野で、ミーナがぽつりと呟いた。

 

「……本当に行っちゃった。これで、『赤狼の牙』は本当になくなっちゃったんだね」


 兄バルトが守り、自分が家族として過ごした傭兵団。

 裏切りによってバラバラになった残骸を見つめるミーナの肩を、ザックスが大きな手で叩いた。


「何言ってやがる。傭兵団の名前や看板がどうなろうと、俺たちがここにいるじゃねえか」

「そうだよ、ミーナ。私たちがいる限り、いつでも始められるわよ」


 カレンが優しく微笑み、ロイも無言で力強く頷く。


「……みんな。ありがとう」

 

 ミーナは涙を拭い、確かな決意を込めて笑い返した。


 

 ハルの宿に戻った一行は、古びた宿の一室で地図を囲んでいた。

 現状、彼らには解決すべき二つの大きな課題があった。


「……兄さんは生きている」

 

 ミーナが地図の上で、バルトが消息を絶った崖の周辺を指差した。


「ファビアンの奴は逃げられたと言った。なら、今もどこかで傷を癒しているか、追手から隠れているはず。一刻も早く見つけ出さないと」

「だが、同時に進めなきゃならねえこともある」


 ザックスが腕を組み、アルテアを見つめた。

 

「ガルフの話じゃ、コークエでルーバス公爵が良からぬことを企んでいる疑いがある。アンタの王子暗殺の冤罪を晴らすには、奴の尻尾を掴むしかねえ。……だが、俺たち五人で行けば目立ちすぎる」


 アルテアが静かに頷いた。彼女の瞳には、救えなかった主君・エリオス王子への悔恨が沈んでいる。

 だが彼女は異なる色を持つ双眸を、全員の顔に向け、静かに、強く言葉を投げかける。

 

「二手に分かれよう。ザックス殿、ロイ殿、カレン殿。貴方たち三人はバルト殿の捜索に向かってほしい。地の利に詳しく、追跡に長けた貴方たちなら、彼を見つけ出せるはずだ」

「じゃあ、アンタとミーナは……」

「私とミーナは、港町コークエへ向かう。公爵が王子を死に追いやり、私を陥れてまで手に入れようとした『力』の正体を突き止める。……それが、エリオス殿下の無念を晴らす唯一の方法だと思っている」

「無理はするなよ。……死んだら、何の意味もねえからな」

 

 方針が決まった五人は、固く握手を交わし、夜明けと共に二つの道へと分かれた。


 

 コークエへと続く街道は、海が近づくにつれて湿り気を帯びた風が吹き抜けるようになる。

 ザックスたちの賑やかな声が消え、二人きりになると、街道の静けさが妙に重く感じられた。


「――っ、来る! アルテアさん! この方向!」

 

 ミーナの声と同時に、茂みから数頭の魔獣、黒毛狼ブラックウルフが飛び出してきた。


 アルテアは素早く反応し、漆黒の細剣を抜く。

 この剣を手にしてからほとんどの機会で、刃を立てぬ「不殺」を貫く彼女だが、理性なき魔獣に対しては、その剣筋に慈悲はない。


「はっ……!」

 

 アルテアが鋭く踏み込み、漆黒の柄を握る手に魔力を込める。

 刹那、刃のなかった『夜帷』の刀身が、超振動する空気の刃を纏い、死の唸りを上げた。


 アルテアの斬撃は一瞬だった。

 一頭の喉笛を深々と切り裂き、返す刀で別の一頭の頭部を両断する。

 空気の刃は毛皮も骨も紙のように容易く断ち切り、狼の鮮血が街道の草木を赤く染めた。

 最後の一頭が逃げようとした背後から、アルテアの精密な刺突が心臓を貫く。


 鮮やかに血を振り払い、魔力を解いて『夜帷』を鞘に納めた。


 側に駆け寄るミーナに向かって、アルテアがふと口を開いた。


「ミーナ。……道中、一つ提案がある」

「えっ、何?」

「……私に、敬称をつける必要はない。かつての役職も、名誉も、今の私にはないのだから。ただの『アルテア』でいい」


 アルテアは少し気恥ずかしそうに視線を逸らした。ミーナを護るべき対象としてではなく、対等な相棒として向き合おうとする彼女なりの表現方法だった。


 ミーナは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに悪戯っぽく微笑んだ。

 

「……わかった。じゃあ、これからよろしくね。アルテア」


 その呼び捨ての響きに、アルテアはわずかに口角を上げた。


「あぁ。よろしく、ミーナ」


 街道を抜けた先、潮の香りが色濃く漂い始める。

 夕闇の向こう側に、数多の灯火が揺れる港町コークエがその姿を現した。


 あの光の下で、ルーバス公爵は何を隠しているのか。

 王子の命を奪った陰謀の正体は、まだ分からない。

 二人の「相棒」としての本当の戦いが、ここから始まろうとしていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

ここからアルテアとミーナのバディとしての戦いが始まります。

これからもよろしくお願いします。

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