第二章24『七方塞がり』
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「ここぁ…………あぁ、なるほど……」
ディノスが意識を取り戻すと同時、これまでのおさらいとばかりに記憶が鮮明に浮かび、憂鬱に浸る。
さて、薄暗く少し汚いこの部屋でも、目を動かし考える権利は約束されているようだが、体に関しては動かすことすら許可されていないらしい。
「ばっちり拘束されてんな…はぁぁぁぁぁ………」
あいにく椅子に体を縛られており、手足を動かすことすらできない。
雷で自分を繋ぐ鎖を破壊できないかと試してみるが、その鎖も世界に不相応すぎる高度な素材で作られており、破壊など夢のまた夢………
………
「本当はオレが弱いから壊せないだけな気がしてきたな……」
鎖が頑丈というよりも、どちらかというとディノス自身の体の感覚が鈍い。
vsヘラクレスの時はそこそこ好調だったのに、肝心な時にこれだ。とことんついてないと言うべきか。
なんとか体の自由を確保しようと踠くも、一向に成果は出てこない。
どうしたものかと悩んでいると、金属が軋む小さな音が響き、閉ざされていた扉は、わずかな隙間を作った。
「こうなってしまって、僕たちも残念でならないよ」
「おいおい、ちゃーんと話し合いさえすれば、ここからでも軌道修正できるとは思うぜ?」
「みんなで話し合った結果がこれさ」
時間の感覚はとうに失われ、どれほど長い夢を見ていたのかは知らない。
ただ、少なくとも自分が眠っている間に彼らが心変わりしたということはなさそうだ。
「嫉妬の使徒だとかどうだが知らないが、オレの功績全部を否定されるとは心が痛むな。メタルムとか流石に文句タラタラなんじゃないか」
「確かに、彼の証言も考慮しなきゃいけないね。アルマくんもそうだが、ディゴと名乗った襲撃者の撃退に君はよく貢献していたと聞く」
「だろ? なら……」
「———だからこそ、僕は許せないんだ。善良なディノスくんが、人喰いに利用されている事実にね」
「……?」
話題に乗っかってきたのを見計らって、自らのペースに持って行きたいところだったが、そう易々と事は上手く運んでくれないらしい。
過剰に溜まった体温を調整するためか、冷や汗が地面に滴ると……
「嫉妬の大罪には人々を惑わす、魅了の力がある。僕たちはそう捉えている」
「違う」
「ディノスくんの善性に関しては信じられるが、アレは別だ。今まで襲ってくることはなく、形だけでも村を守っていたのは僕たちを油断させるためだろう」
「違う!!!」
聞く耳を持たずとはまさにこのことか。彼らは既にリヴァを"敵"として断じている。
反対に、リヴァはまだこちらを敵として見做してはいないが、万が一こちらが攻撃しようものなら……
そのときこそ、成ってしまう。初めからこの光景を思い描いていた、何者かによる意志のされるがままに。
「君が寝ている頃には、全部解決している。そこで休んでいるといい」
「このままじゃ碌なことになんねぇっての!! いいかよく聞け、情報の伝達速度から考えるに、確実に内通者がいる。だから、ここ最近の村への出入りを…」
ディノスの呼びかけは無慈悲にも意味を為さず、フェイオンは背を向け扉に手を振れる。
「おい、待て、待つんだ………おい!」
残酷にも防音材が張られたこの部屋から光が徐々に消え失せ、暗闇が支配する。
ひとりぼっち、暗闇の中で、静かに後悔しながら、破滅へのカウントダウンを胸に刻むこととなったのだ。
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「ディノスさんは?」
「さぁなァ。確かァ、別の避難所の警護に向かったんじゃないかァ」
「えぇ? じゃあ僕もそっちに移りたいっす」
「ダメだダメだァ。上が決めたんだから、そんなこと許可出るはずねぇだろォ」
「そ、そうっすか…?」
どうやらディノスはディゴ撃退の実績を買われ、別の警備が手薄な避難所へと移ることになったそうだ。
今まで親身に接してくれた彼が突如自分に何にも言わず向かったことは疑問だが、彼らが嘘をつく理由もないのと、そしてここから確認できる手段もないため困っている。
「………うーん」
納得は行かないが、今は争い合うわけにもいかず、むしろ団結しなくてはならないのだ。
不思議に思いながらも手を引き、再び自分のやるべきことを果たそうと……
「あ、みなさんこんにちは! 僕です! 怪我人はいらっしゃいませんかっ」
背後から、聞き馴染みのある少し騒がしい声がこの避難所に響く。
その声は、もちろん……
「あぁ、アルトさんっすか!」
おっちょこちょいながらも、医療の分野に関しては誰にも引け目を取らない、そんな小さな妖精。
彼が怪我人をもはや達人の領域にある迅速な速さでずばばと癒していく。
「あぁ、アルマさん! お怪我は大丈夫ですかっ」
「僕は大丈夫っすよ! 大変だと思うっすけど、お仕事頑張ってほしいっす」
「いえいえ。ディノスさんにもよろしく言っといてくださいっ」
「——? アルトさん、ディノスさんのことまだ見かけてないんっすか?」
「え?」
おそらくほぼ全ての避難所を回っているであろうアルトが、まだディノスのことを見かけていないというのはおかしいのではないか。
もっとも、避難所自体は複数個あるが、両手で数えられるほどしかないはず。
もちろん、まだアルトが訪れてない避難所にディノスがいるのか、はたまた入れ違ったせいで遭遇できていないだけなのかもしれないが……
「ディノスさん、どうやら別の避難所に急にサセン?になったっぽくて。アルトさん、本当に見かけてないんっすよね」
「おっかしいですねっ? 僕、全部回ったけどあの人いませんでしたよ」
「———!! やっぱり……」
何の意図かは知らないが、ディノスに何かあったのは間違いなく、そしてその要因には村の人々が関わっている可能性が高い。
といっても、純粋な人間はキョトンとしており、彼らは事情を知らないと見ていいだろう。
ハンターたちは、その限りではないようだが。
「アルトさん。避難所Cで怪我人が発生したらしく」
「……? このタイミングで?」
「はい。できれば早急に向かって欲しいのですが…」
「わかりました…腑には落ちませんがっ」
慌てた様子の屈強な鎧男がアルトに対し声をかけ、そのまま彼を連れて行ってしまった。
場にはアルマ一人だけが残り、何も解決しないどころか、ますます
「……やっぱり何かおかしいっす〜」
不信感を募らせるばかりだ。しかし、アルマにとって考えることは大の苦手であり、ここからどうすべきかの打開策も思いつかない。
_____正々堂々と詰め寄ってみるべきか?
いや、いくら考え足らずのこの頭でっかちな自分でも、それが愚策であることは一目瞭然だ。
ならば………
_____交渉?
ディノスから『お願い』は鉄火場じゃ全く役に立たないことはよく聞かされている。ならば、必要となるのは何か。
それが交渉だという。ある種の脅しのようなものだが、双方に利益・不利益があるならばこれが一番効く。
「僕が持ってる交渉材料は……」
______ない。
アルマには力も、物資も、頭脳も、カリスマ性も、技術も、何にもないちっぽけな盾だ。
それ以下でも、それ以上でもない。
交渉をする前段階にすら至っていない。八方塞がりだ。
「これじゃ……」
どうしようもない。打てる術はない。このまま、何にもできず……
「あのぅ、もしよければ、その、お、お手伝い、しましょうか…?」
「え!?どこから…」
「あ、そ、その、気づかれちゃうかもなので、あんまり大きな声出さないで欲しいです…」
無から女性の声が聞こえ、彼は目を見開く。いや、無ではない。そこにいるのだ。ただし、誰の肉眼にも捉えられないだけで。
「私です、ベガですよぅ」
"改造人間"として、人の身では明らかに実現できないことも遂行できる彼女。
それが、この状況を打開できるジョーカーそのものであった。




