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デジタルアライズ  作者: ワニ
1章 『デイノスクスの夜明け』
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第一章9『穀潰しが過ごす夜』

マウスの擦れる音を響かせ、あれからも根気強く『モンスターパートナー』を検索エンジンにかけてみたが、何も成果はなかった。

 そして気付けば時間は2時間も経過、時計の示す針は深夜の零時。


 これ以上成果も出せないのにネットカフェに居座る理由もない…むしろ財布がどんどん軽くなるだけだ。


「クソが」


 ディノスは離席し、退店…する前に水浴びしにシャワー室へ。大切な大切なマントとギター…

そして衣服類を預け、扉を開き、蛇口を捻り、あったかいお湯を全身に浴びる。

 

…温かいはずなのにそれでも冷たく感じる。もっと温度を上げていく。アルマがその場にいたら止めるくらいの熱湯だが、彼は既に


「いない」


 相棒はここにはいない、記憶だけに残っている。そんな過去の記憶に縋る彼は、作られた故郷から投げ出された抜け殻。


 今まで喧嘩を売ってきたのは神だの魔王だのとんでもないやつらばっか。何度も逆境に立たされたが、立ち上がることのできた理由はもはや言うまでもない。———それが、今ではどうだ。


「何もない」


 笑い合った故郷の仲間たちは皆いない。守るべき者のためなら何度でも立ち上がれたが、その守るべき者はどこ? 

 あの故郷がこの世界にもたらしたのは、穀潰しの自分だけ。


 勝手に脳が見せる光景は、もはや思い出しても無駄なのに、思い出さないように意識してるはずなのに、つい先日まで当たり前だと思っていた日常だ。そればかりが映る。


 ———ここと違って、ディノスにとって大切なものしか映っていない。


 しかし非情なことに、それらも誰かに作られたモノと判明。しかもディノスの場合、その作られたモノを閲覧することすら世界は許してくれなかった。


「会いたい」


 断じて、こんな何もかも変わり果てた世界を望んだわけじゃない。

 しかしラクールがいるのだ、他のみんなにもまたこの世界で会えるかもしれない。会えると願っていた。


いつに? ラクールがやってきたのは数十年前でディノスは先日。時代がバラバラなら、遙か過去か未来に、彼らが取り残されている可能性もある。


どこで? ありえないくらい広大なこの世界。神速で駆け抜けてもどうにもならないくらい無駄にだだっ広いここで、どうやって会ったらいいのだ。


だれと。 この世界にやってきた同時代同郷も、必ずしも自分の知ってる仲間がやってくるわけではない。カタストロなどの厄災と再開しても嬉しくなんてない。


 熱湯で洗い流してるはずなのにいつまでも瞳から流れてくるソレが、心底うざったらしくてたまらなかった。そんな彼は、今も、ずっと、


溺れているのだ。


—————————————————


「心を落ち着かせるには、やっぱこいつが一番だな」


 時刻は深夜の一時。とぼとぼ歩いてたどり着いたのは名もなき河川敷。本来深夜のギターは騒音が気になるし、何より屋外でのギターは夜露の危険もあり控えるべきだ。


———だが、ディノスが持っているギターは仮にも神器、その辺も融通が効く。そうして荒んだ心に反して輝く星空を見ながら、ひとりぼっちで楽器の絃を指で弾いていた。


 厳つい体と顔からは到底思えないほどの指先と歌声は、たった一人でプロの楽団にも匹敵。


 もし誰か観客がそこにいたら思わず見惚れ…否、聞き惚れてしまうだろう。しかし、特等席の隣は用意してあるのにまだ相棒は姿を見せてくれない。


「…そろそろ帰るか。ご苦労さん、ありがとうよ。いつも」


 唯一ずっと変わらないギターは、たとえ彼が言葉を発することはできなくても、ただ存在するだけで気持ちを多少落ち着かせることができる。


 今までギターに感謝の気持ちを伝えることはあまりなかった。だが、このギターもいつ失われるかわからなくなってしまった。だから、感謝は言えるときに言えるだけ言っておいた方がいい。


 さっさと帰り支度を済ませ、また明日に備えようとしたものの…


「む」


近くに意思ある存在がいることを今更感じ取った。このスキルも前と比べ明らかに劣った気しかしないか、そこは置いておく。


「こんな時間に誰だ。オレの命を狙うってんなら容赦はしないが」


 すぐさま戦闘体制に移り、影に潜んでいるソレを睨む。恐獣と違って理性を感じるが、その理性も血塗られた暴力性を伴うものだったら意味はない。


 しかし驚くことに、出てきたのは恐獣でも悪意ある存在でもなく、


「ちが、ちがくてっ!!たまたまここを通ってたら、すっごくいい音が聞こえたから聞いてただけなんですあのそのごめんなさいっ!!」


白い毛と緑の羽根を持つ、可愛くて小さいネコの妖精、それが手をバタバタとさせながら飛び出してきた。


刺客かなんかだと思っていたが、様子を見るに悪意はまずなく、「これはちょっと予想外だったな…」と流石のディノスも呆気に取られた。

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