生まれて初めての、誕生日プレゼント
「浩介、おはよう。」
「おはよー!」
「誕生日おめでとう、今日はお祝いするからな?」
「お祝い?」
一週間が経ち、浩介もだいぶ悠介達との生活に馴染んできた頃。
家庭裁判所からの呼び出しに応じたり、児童相談所と連携を取って話を進めているうちに、一週間が経った。
今日は十二月十二日、浩介の誕生日だ。
浩介自身はお祝いと聞いてもピンと来ていない様だが、悠介を始めとして、子供達もニコニコと笑いながら何かを企んでいる様子だ。
「じゃあ悠治、頼んだぞ?」
「わかった。浩くん、今日は野球のチームのい見学に行こうね。」
「いいの?」
「あぁ、行ってらっしゃい、俺はちょっとやる事があるから、悠治に連れて行ってもらってくれ。」
悠介が送っていきそうなものだが、悠介は用事があるから、と悠治に任せていた。
「じゃあ、ご飯食べ終わったら行こっか。」
「はーい!浩ちゃん達と一緒?」
「そうだよぉ!」
やった!と浩介は喜んでいて、三人に連れられて家を出た。
「さて、始めますか。」
残った悠介は、一人準備を始めて、さて何が残ってて何がないか、と台所を探し始めた。
「今日から一緒にチームに入る、浩介君だ。皆、仲良くしてやってくれよ?」
「よろしくお願いします!」
初老の監督に紹介され、浩介は緊張した面持ちで挨拶をする。
小学生の野球チームである昭和リトル、チームには三十人ほどの学生が所属していて、悠治が見知った顔も何人かいた。
「悠治先輩だー!久しぶり!」
「久しぶり、元気にしてた?」
「もっちろん!浩介君、って悠治先輩と一緒に暮らしてるの?」
「そうだよ、って言っても、つい一週間くらい前からだけどね。」
悠治が顔なじみの上級生と挨拶をしている中、浩介は下級生達に囲まれ、挨拶をされていた。
浩介は、初めてのクラスメイトの名前をやっと覚えてきた所で、また覚えなければならない名前が増えた、と目を白黒させていたが、それがまた嬉しい様子だった。
何せ、両親以外と殆ど交流を持った事がない、語学こそしっかりと覚えていれど、対人関係など殆ど構築した事がないのだ。
楽しい、戸惑い、色々な感情が浩介の中にあって、憧れていた友達という存在を構築していく。
「悠治、兄貴さんは元気か?」
「はい、いつも通りです。」
「お前さんが卒業してからもう少しで二年か、時が経つのは早いもんだ。中学でも、野球は続けてるのか?」
「はい、監督に色々教えてもらって、それを実践出来る様に頑張ってます。」
「ほうほう、言う様になったもんだな。教え甲斐があるとは思ってたが、お前さん程飲み込みの早い子ってのもなかなかいないな。」
監督は、悠治をよく覚えていた様子だ。
悠治は、当初野球をやった事はなく、基礎から教えていたのだが、飲み込みが早く、驚く速度で成長していた。
中学に入ってもそれは変わらず、先輩や顧問の言う事をよく聞き、吸収していく、と教え甲斐があるとよく言われる。
「浩くん、楽しそうだね!」
「ねぇ!」
「浩くんって呼んでるの?じゃあ、俺達も浩くんって呼ぼうぜ!」
浩希と悠介が浩介の事を楽しそうに見ている、ポロっとあだ名を言ったら、それを皆で呼ぼうと六年生のひとりが話し、それに下級生も賛同していた。
「浩くんは野球やってたの?」
「ううん、初めて!」
「じゃあ、教えてあげるね!」
がやがやと話をしている浩介を見て、悠治は大丈夫そうだなとホッとする。
「それじゃ、始めるか。皆ー、練習始めるぞー!」
「はーい!」
「浩介君、一緒にやろうな、わかんない事があったら、すぐに聞いてくれ。」
「はい!」
練習を始めるに当たって、浩介に上級生のサポートがつく様子だ。
悠治はそれを見届けると、部活に向かった。
「楽しかった!」
「浩くん、上手だよね!」
「ねぇ!」
「そうかなぁ、えへへ……。」
帰り道、浩希と悠介と一緒に歩きながら、浩介は疲れと共に高揚感に包まれていた。
元々運動はした事がなかった、運動という運動を初めてしたのは一週間前だが、ポテンシャルがある程度ある様で、息切れしながらも練習について行っていて、楽しそうにしていた。
「練習のユニフォーム、買ってもらわないとね!」
「そうなの?皆が着てたやつ?」
「そうだよ!」
野球というものに初めて触れた浩介は、ユニフォームの存在も知らなかった様子だ。
皆同じ様な服を着ているな、程度の認識だったが、それが正しい格好だとは思わなかった、と言った風だ。
「にいちゃにお願いしようねぇ!」
「良いのかな……?」
「大丈夫だよ!にいちゃ、優しいもん!」
家に着く直前、浩介はわがままになってしまわないかと悩んでいる様子だ。
幼少の折からずっと、わがままを言ってはいけない、何かを欲しがるのは悪い事だと言われ続けてきた浩介からしたら、それは当たり前のことかもしれない。
「うーん……。」
「お願いしてみようよ!にいちゃなら必要だ!って言ってくれるよ!」
嫌われてしまわないだろうか、わがままと怒られてしまわないだろうか、そんな考えが浩介の頭の中を巡る。
そんなこんな悩んでいるうちに、家に到着してしまった。
「聞いて、みようかな……。」
勇気を出して、言ってみよう。
そんな事を考えながら、玄関を開ける。
「誕生日おめでとう、浩介。」
「おめでとー!」
「え……?」
玄関前で待ってクラッカーを鳴らすと、浩介はきょとんとした顔をして驚いてる。
それもそっか、祝われた事なんてなかっただろうし、誕生日に何かするって言う発想がそもそもないんだろう。
「えっと、え?」
「ほらほら、入った入った。」
「う、うん。」
悠治が三人を家の中に入れて、俺は一足先に台所に向かう。
「わぁ……!」
ハッピーバースデーと飾り付けをしたリビングを見て、浩介が驚いてる声が聞こえる。
喜んでくれてそうだな、って思いながら、ケーキにさしたろうそくに火をつけて、悠治に電気を消す様に合図する。
「ハッピーバースデートゥーユー。」
「わぁ!」
ケーキをもって行って、浩介の前に置くと、浩介は暗がりの中で少し泣いてるみたいだった。
「浩くん、泣いてるの?」
「ううん……、嬉しい……!」
「さ、お願い事してふーって吹き消すんだぞ?」
「うん!」
浩介は少し考えて、その後ふーって息をはいて、ろうそくを消した。
「さ、食べよっか。」
「今日のご飯なあに?」
「今日は寿司を取ったよ。浩介、寿司って食べた事あるか?」
「ううん、食べた事ない!」
寿司を出すと、浩介は見た事ない!とはしゃぐ。
生魚が苦手な子もいるから、どうしようかって一瞬悩んだんだけど、それならそれで別のものを用意すれば良いか、と思って、チャレンジだ。
「お魚なの?」
「そうだよ、生魚を醤油につけて食べるんだ。ワサビは……、そうだな、まだ早いかな?」
「ワサビってなあに?」
「辛いんだよ、ツーンとするんだ。寿司にはよく合うけど、まあ子供だから苦手かもしれないな。取り合えず、醤油だけで食べてご覧?ネタはそうだな……、浩ちゃんと悠ちゃんはマグロが好きだったか。」
浩介のお皿にサーモンを置いて、食べてご覧とそそのかす。
浩介は、醤油にシャリをつけると、パクっと一口でサーモンを食べて、少しもぐもぐと味わってる。
「……。美味しい!」
「お、それは良かった。」
「僕達も食べるー!」
「はい、どうぞ。」
浩希達も食べ始めて、暫く無言が続くと思ったら、浩介が一個一個のネタが何の魚かとか、どんな味なのかとか、そういう事を聞いてくるもんだから、賑やかな誕生日だ。
今まで味わった事がない感覚なんだろう、でも、喜んでくれるのは嬉しい。
「さて、浩介にプレゼントだ。」
「良いの……?」
「良くなかったら買ってないよ。ほら、開けてごらん?」
ある程度ご飯を食べ終わって、今度はどんな反応をしてくれるか、なんてちょっと楽しみにしながら、プレゼントの袋を渡す。
「わぁ!ユニフォームだ!グローブも!お靴もある!」
「野球やりたいって言ってたから、必要なものを一式、な。ホントはもっと色々あると思ったんだけど、あんまり思いつかなくてな。来年までの課題だ。」
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「僕からもプレゼント、はい、これ。」
「悠治お兄ちゃんもくれるの?これなあに?」
「ミサンガ、っていうんだよ。ほら、悠にぃも浩ちゃんも、悠ちゃんもつけてるでしょ?だから、浩くんにも、つけてほしいなって。」
目をキラキラさせながら野球の道具を眺めてた浩介に、悠治がミサンガを編んでたみたいで、手渡ししてる。
浩介、ってローマ字で編んであって、相変わらず悠治は手先が器用だなって関心関心。
「皆つけてるの?」
「そうだよぉ!悠治にいちゃがつけてくれたの!」
浩希と悠介は右の足首に、俺は左腕に、悠治お手製のミサンガをつけてる。
それを見せると、浩介はわあぁって言いながら、つけてつけてってせがみ始めた。
「はい、これでオッケーだよ。切れちゃったら言ってね?また編んであげるから。」
「ありがとぉ!」
「僕達もプレゼント!」
「あげるねぇ!」
浩希と悠介も、少ない小遣いから工面したお菓子をプレゼントして、浩介はそれを嬉しそうに受け取ってる。
そろそろ小遣いも増やさないとな、って思いながら、そういえばそろそろ年末か、って思い出す。
年末年始の過ごし方っていうか、そういうのも教えてあげないとな、って思いながら、なんか忘れてる気もする。
「明日は悠にぃの誕生日だからね、楽しみにしててよ?」
「ん?そっか、俺も誕生日か。」
「忘れてたのぉ?」
「あぁ、すっかりな。」
そっか、俺誕生日か。
浩介と一日違いだって言ってたのに、すっかり忘れてた。
「浩くん、お手伝いお願いしてもいい?」
「何すればいいの?」
「うーん、ケーキ作るお手伝いをお願いしようかな。」
「うん!」
俺の事なんて、って思ったけど、せっかくの気持ちを否定するのもちょっと違うかなって思い至って、黙って話を聞いてると、浩介がふとこっちを見て、不思議そうな顔をしてる。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんは何か欲しいの?」
「ん?そうだな。皆が幸せでいてくれる事、それが一番だな。ものなんかなくたって、何がなくたって、皆が幸せでいてくれれば、それが俺の一番の幸せだから。」
浩介は、わからないって感じの顔をしてるけど、悠治達はそういわれ慣れてるから、いつもそうだよねって話をしてる。
実際、物欲がないわけでもないけど、子供に無理して買わせる様な感覚は持ってないし、何より皆の幸せが一番嬉しいのは事実だ。
「じゃあ、ケーキと……。うーん、ご飯も明日は僕達が作ろうかな。皆で悠にぃのお祝いしよ!」
「わかった!」
「僕達も手伝うねぇ!」
「うん!」
それは嬉しいな、なんて笑ってると、悠治はどうしようかなんて悩んでる。
メニューの事かな、俺が何好きかなとか話をしながら、ケーキを食べてる。
「ハンバーグと、カレーにしようかな?明日は部活もないし、買い出しも僕が行ってこようかな。」
「お金はあとで渡すからな?」
「それじゃ意味ないでしょ?僕が出すよ、お小遣いもお年玉もためてるしね。」
「そっか、ありがとう。」
ちょっと心配ではあるけど、子供達の自主性を重んじる事は大事だ、って矢川さんにも言われてるし、任せてみようかな。
悠治はたまにご飯は作ってるし、多分大丈夫だろう。
「ねぇお兄ちゃん、あのね。」
「どうした?」
「あのね、ありがとう、僕を見つけてくれて。僕、幸せ、お兄ちゃんに、皆に会えて、嬉しい。」
「そっか、それはよかった。でも、これから先色んな事があると思う、不幸な事もあると思う。でも、浩介は独りじゃない。だから、きっと大丈夫だ。」
悠介が話している途中で、浩介は幸せそうにまどろみの中に落ちていった。
幸せそうな笑みを浮かべ、満足そうな体力の使い方をして、疲れてしまったのだろう。
明日は明日、また話をしよう、と悠介は思い、眠りについた。




