緊張逃避行1
「さぁて……どうしようかな」
かなり難しい問題となってしまった。
馬車詐欺は他国の内情を調査しながら、戦争資金を稼ぐという目的の悪どいものだった。
ドカナイの目的は戦争。
といっても国全体を全て侵略し尽くすわけではなく、最大の障壁となっているシュトレイブル領地を狙って襲撃するようだ。
「このまま関わらないのが俺たちのベストなんだけどな」
正直な話、ジケたちはイルヒッコクとドカナイの間で戦争が起きようと関わりがなく、特に興味もない。
しかし今はその両国に近いところにいるのだから難しい。
一番いいのは戦争に関わらずに帰ることだ。
ただ問題がたくさんある。
「いいのか! 俺を殺すとお前ら終わりだぞ!」
「あいつうるせぇな。もう一発ぶん殴ってやろうか」
「やめとけ」
リアーネにぶっ飛ばされた男は、ドカナイの貴族の中でも偉い奴の息子らしい。
あまりシュトレイブルとの戦いに出てこないような奴で、ゲルシトンも名前は知っていても顔は知らなかった。
だから本当に偉い奴の息子なのかわからない。
ただ嘘じゃなかった場合、殺すと少し厄介なことにはなりそう。
「俺たちの選択肢は二つ。一つは最速で逃げる。もう一つは遠回りで逃げる」
戦争に関わるなんて選択肢はない。
なんにしても逃げるのだけど、一つ目はイルヒッコクのシュトレイブル領を通り抜けてそのまま帰ることだ。
ともかく移動距離が短く、戦争が始まっていないなら早く帰れる。
ただし戦争が始まったらどうなるか分からない。
対してこのままルエン国内を通ってぐるっと回って帰ってしまうこともできる。
ドカナイとは逆方向、イルヒッコクを丸々回避する形で移動するので時間はかかるが、安全に帰れるだろう。
「そんで他の問題が……あいつらどうするか、だな」
大きな問題は他にもある。
捕まえたドカナイの戦士たちをどうするのかについて頭が痛い。
偉い奴の息子を殺すと問題になるが、別に殺してもいいんじゃないかとはちょっと思う。
ただゲルシトンたちにとってみれば、偉い奴の息子ならそのままシュトレイブルに連れていって何かの交渉カードとして使いたいところである。
幸い向こうはゲルシトンがシュトレイブルだと気づいていない。
じゃあゲルシトンたちが連れて行けばいい、と簡単にも言えないのだ。
戦争が起こるかもしれないという情報はいち早く伝えたい。
だがドカナイの戦士たち捕虜を連れていては早く移動できない。
では一人だけ先に向かうとするとゲルシトンとバハナイの二人しかいないのだから、一人になってしまう。
一人で捕虜を監視しながらイルヒッコクまで運ぶのは、現実的に無理である。
「だからと言って逃せないしな……」
逃すとドカナイに逃げるだろう。
戦争が始まってしまうかもしれないし、堂々とフィオス商会を名乗って邪魔したのだから何かの報復もあるかもしれない。
殺せないし、逃せないとなると連れていくしかないのだけど、二人だと厳しい。
つまりはジケたちの協力が必要なのだった。
ここまできてゲルシトンたちに勝手にしろとも言いにくい。
あまり関わりたくないのだけど、もっともいい解決法を考えると関わることになってしまう。
「…………最速でイルヒッコクを抜けていこう」
しょうがない。
こうなったら取れる選択肢は一つだった。
バハナイが馬を走らせて先にシュトレイブルに向かい、ゲルシトンとジケたちが捕虜を連れて後を追いかける。
捕虜をシュトレイブルまで送り届けたら、そのまますぐに出発して帰るというものだ。
「これしかないな」
シュトレイブルで捕まればフィオス商会が、なんて言ってられなくなるだろう。
実際に戦争が起こる前に逃げられるかは不安だが、やるしかなかった。
「本当にありがとうございます!」
色々な積み重なっての結果的な協力ではあるものの、ゲルシトンたちにとってみればそんなこと関係ない。
「では先に行ってまいります」
バハナイが先に馬を走らせていく。
「おい、俺たちをどこに連れていくつもりだ!」
「黙って歩け!」
捕虜であるにも関わらず態度がデカい。
ちなみにアマーチとメソラも一応捕虜扱いをしている。
まだ信頼するにはちょっと足りないし、二人を自由にしていたら捕虜がうるさそうなのでしばらくはまだ寝返っていないように見せかけておく。
先頭をゲルシトン、間に二列になった捕虜、そして後ろから監視するようにジケたちがついていく。
ここはまだルエンである。
捕虜を歩いていると流石に怪しく、どんな反応をされるのかもちょっと予想がつかない。
町を避け、上がらないペースのままにシュトレイブルを目指す。
ーーーーー
「止まれ!」
もう少しでイルヒッコクに入る。
そんなところでジケたちは呼び止められた。
馬に乗った兵士らしき男たちが三人ほどジケたちの方に向かってくる。
馬車の中でピリッとした空気が流れる。
「これは何をしている!」
糸で手を縛られた男たちを連れていれば、いかにも怪しい集団だ。
怪しまれるのも無理はない。
「これは……」
どう返事をしたものかとゲルシトンは、渋い顔をしてしまう。
「怪しいな……」
「ルエンのやつか! おい、助けてくれ!」
偉い奴の息子がルエンの兵士を見て明るい顔をする。
やはりルエンとドカナイはどこかで関係していそうだ。




