体を綺麗に2
「ということで、試します!」
「します!」
「お試し!」
「本当にこの子から石鹸が?」
ジケたちが家に帰ってきて、それからしばらくしてサンモーウとオルナもこちらにやってきた。
向こうでは家を借りていたらしく、色々と処分して身軽になって越してきた。
二人は冒険者だし、それなりに腕が立つ。
これまではフィオス商会の護衛はユディットたちジケの騎士が交代で行っていた。
今回はオルナも含めてフィオス商会で雇用して、護衛の仕事もしてもらうことにした。
なのでフィオス商会の近くにあった空き家を買い取って二人に贈った。
夫婦であるので同じ家がいいだろうし、フィオス商会は福利厚生もバッチリなのである。
サンモーウがやってきたということは、アワシープラクーンドッグも来たということだ。
ようやく本格的に目標としていた石鹸作りを始めることができる。
ジケを始めとして、実験要員のキーケックとアワシープラクーンドッグのケッセンの契約者サンモーウ、それになぜかピコも白衣を着てキーケックの横に立っている。
エニは教会に行っているのでいないけれど、せっかくだから最後まで見届けたいとリンデランがいたり、リンデランに誘われたウルシュナ、みんなが何かしてるとついてきたミュコまでいた。
つまり結構賑やか。
「まあ危なくないしいいか」
石鹸を作るだけなので今のところ危ないことはない。
みんなが見学していても大丈夫だろうとジケは思う。
「そんで、なにすんの?」
とりあえずキーケックの白衣を勝手に引っ張り出してきたピコは首を傾げる。
今はテーブルの上にいるのはフィオスではなく、ケッセンだ。
主役たるケッセンはこんなに注目されたこともないので、テーブルの上で緊張で震えていた。
「石鹸……体を綺麗するものを作ろうと思うんだ」
石鹸を作ると口では言うものの、ジケはそんなものの作り方知らない。
ましてアワシープラクーンドッグから石鹸を作る方法も記憶にはなかった。
ただアワシープラクーンドッグが分泌する液体が、石鹸のように汚れを落としてくれる効果があるということを知っていた。
それを利用して石鹸もどきのようなものを作れないかと考えたのだ。
「ちょっとこの子に触ってみ?」
「ほい、触るよー」
ピコが手を伸ばすとケッセンはプルプルと震える。
「……どりゃ!」
かわいそう。
なんてことは思わずピコはケッセンの頭から背中をチュルンと撫でた。
「のぉ!? なんかヌルヌルする!」
「これがアワシープラクーンドッグの能力だよ」
徹底した生存戦略。
それがアワシープラクーンドッグが生き残るために考え抜いた生き方だった。
「ちょっと水加えて手を擦ってみて」
「ホイホイ」
ジケの言うことならば大人しく従う。
「おおっ! アワアワしてきたよ!」
軽く水を垂らして手を擦り合わせる。
するとヌルヌルとした体液が泡立ち始めた。
ヌルヌルとした体液は敵の攻撃を滑らせる。
さらには口に入れると苦くてまずい。
体をアワアワとさせると大きさを誤認させられるし、泡を攻撃されてもアワシープラクーンドッグはなんのダメージもない。
加えて人畜無害な見た目と攻撃されないように進化を遂げてきたのだ。
さらにはアワアワした体液には体を綺麗に保って健康でいられるようにする効果もある。
強くなるという方向性に縛られない特殊な進化を遂げた魔物だった。
今回は体を綺麗に保つ効果に注目した。
「ど、ドンドン泡立つね」
ピコの手はみるみると泡立っていく。
気づけばピコの顔が隠れてしまうほどに泡の塊ができている。
「水で流しちゃえばいいよ」
「なら、ジャワ〜」
キーケックが魔法で泡を洗い流す。
「ピカピカ〜」
ピコの手は綺麗になっている。
「ただ泡が問題なんだよな」
体液そのまんまでもいい。
だけど軽く一撫でして、軽く手を擦り合わせるだけでピコが隠れるほどに泡立ってしまった。
「こんなの使ったら、すぐにそこら中泡だらけになっちゃうからな」
みんなも興味を持ったのかケッセンを触って手を泡立てている。
泡立ちが良すぎる。
手を洗うぐらいなら問題はないだろう。
しかし体を洗うとなった時に、お湯を大量に使えるならともかく多少制限のあるお風呂事業や体拭き事業では泡を流しきれない。
変に流されるとそこら中泡まみれになって、困ったことになるのが目に見えている。
石鹸にしようというのは、使う量を抑えつつ、泡も控えめで、なおかつそれでも綺麗になるというところを目指したいと思ってだった。
「どうやったらどんな反応が出るのか、も分かんないしな」
石鹸のように固める方法もこれから探らねばならない。
「あとは髪に使っても大丈夫かな……とか石鹸だといい匂いがするものもあるしな……」
考えることは多い。
ただみんなアワアワしているのが楽しそうにしている。
少しずつ試していけばいいかとジケは思った。
「まずは体液をどうにか集めなきゃな」
何にしても試すのにいちいちケッセンを撫でつけるのは面倒だ。
石鹸体液を集めていつでも試せるようにしておきたいとジケは考えた。
「この体液だけたくさん出してもらうことってできますか?」
「うーん、どうでしょうね……やったことないので。ケッセン、できるかい?」
いつの間にかフィオスがケッセンの隣にいる。
ピョンピョンと跳ねてケッセンに何かを話しかけているかのようで、もうおしまいですといった感じだったケッセンも少し落ち着いていた。




