体を綺麗に1
「あなた方は命の恩人です」
「このご恩……どうお返ししたら……」
サンモーウ、オルナ夫婦も無事に遺跡を脱出していた。
足が折れて内出血していた血が溜まったせいで遺跡での治療では完全に治っていなかった。
しかし骨折そのものはエニが治したし、無理をしなければ足の状態もすぐに良くなるだろう。
負担がかからないように軽く杖をついて歩くサンモーウに、オルナは寄り添うようにして支えていた。
目を覚ましたジケが教会の病室に会いにいくと、二人は深く頭を下げたのだった。
「そうですね……お礼なら一つ話があるんですけど」
「話……ですか?」
「そういえば、サンモーウに用があると言っていましたね」
サンモーウはジケが何を話したいか分かっていない。
そもそも当初の目的は遺跡でもなければ、遺跡で孤立したサンモーウを助け出すことでもない。
「あなたのことをスカウトしたいんです」
「俺のことを…………スカウト?」
何が何だか分からない。
サンモーウはそんなふうな困惑した顔をする。
「サンモーウさんの魔獣を見せていただけますか?」
「魔獣ですか? それぐらいなら構いませんが。出ておいで、ケッセン」
サンモーウが魔獣を呼び出す。
とうとうアワシープラクーンドッグとお目見えすることができる。
「これが……探してた……魔獣?」
エニが首を傾げる。
出てきたのは茶色っぽい毛をした小型のケモノ系の魔物だった。
やや犬っぽい顔をしていて、目の周りが黒い。
ポテポテとした体型をしていて、割と愛嬌はある見た目をしていた。
ただあんまり強くはなさそう。
「この子がどうしたんですか?」
ジケが探していると聞いたからどんなすごい魔物かと想像していた。
しかし強そうでもないし、特殊な見た目をしているわけでもない。
なんでジケが求めているのかリンデランにも謎だった。
「至って普通の魔獣ですよ?」
サンモーウ本人も、どうしてジケが魔獣を見たいと言い出したのか分からずにいる。
「泡……出せますか?」
「泡?」
「ええ……出せますが」
「ちょっとお願いできますか?」
「ケッセン、やってくれるか?」
サンモーウが声をかけるとケッセンはブルブルと体を震わせる。
「あっ」
体を震わせると毛同士が擦れる。
するとケッセンの毛から白い泡が現れ始める。
そのまま体を震わせ続けるとあっという間にケッセンの体が白い泡に包まれてしまった。
「泡シープ……」
なるほどな、とエニは思った。
泡に包まれるケッセンの姿を見ると、モコモコとした毛を持つ羊の姿にも良く似ている。
「うん……これが欲しかったんです」
「これ……とは?」
「この子の力を活かして、うちの商会で働きませんか?」
ようやく目的のスカウトができた。
フィオスはいつの間にかケッセンの横にいて、モコモコとした泡にそーっと体を伸ばしている。
触れると泡が弾けて、フィオスは驚いたようにプルンと揺れる。
「ケッセンを活かして……?」
サンモーウとオルナは思わず顔を見合わせたのだった。
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「まーた変なことを考えるよね」
「上手くいったらエニだって満足すると思うぞ」
結果で言ったら、スカウトは成功した。
ただサンモーウたちにも生活がある。
今すぐにジケと一緒に行きますというわけにもいかない。
色々と整理したら行きますという言質をとったので、ジケたちは帰路についていた。
「石鹸をお作りになるつもりだとは思いませんでした」
どうしてアワシープラクーンドッグをスカウトしようとしていたのか。
その理由は石鹸を作ろうとしていたから。
お風呂や体拭き事業をジケは抱えることとなった。
体を綺麗にすることはいいのだけど、石鹸というやつは貴族が使う高級品である。
そこらの人がホイホイ使えるものではない。
でも体を綺麗にする上で、石鹸があればより効率がいいのは言うまでもない。
ただ石鹸を買ってみんなに使わせていたのでは、事業の採算なんて取れなくなってしまう。
そこでジケは過去の記憶を使って石鹸を作る方法をなんとか作り出した。
過去でアワシープラクーンドッグを魔獣にしている人に出会ったことがある。
泡立つアワシープラクーンドッグを利用して体を洗っていた男は、貧民にも関わらずいつも体を清潔に保っていたのだった。
アワシープラクーンドッグは、体から石鹸のような成分を出して体を泡立たせている。
触ってみると滑るような性質を持っているので、野生ではそれで身を守っているのだが、体を清潔に保つという効果もある。
「アワシープラクーンドッグから出る成分をあって、体を洗う石鹸みたいなものを作る。これでさらに一儲けってわけさ」
事業そのものはオランゼに任せているような形になっている。
だからもうちょっと何か貢献したいと思った末にこれを考え出した。
「スカウトには成功したから、あとは向こうに戻っていろいろ試してみる必要があるな」
アワシープラクーンドッグを確保したから石鹸ができるわけじゃない。
これからどうにかして実際に石鹸を作っていくという作業がある。
ただアワシープラクーンドッグがいれば計画は八割方上手くいったも同然であると、ジケは思っていたのであった。
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