歴史に消えたスライム
「ん……」
「ジケ!」
「ジケ君!」
「ここは……?」
「町の宿!」
ジケが目を覚ますと、そこはとっていた宿のベッドだった。
「何があったんだ?」
「それはこっちが知りたいよ!」
「本当です! 心配したんですから!」
ジケの胸の上にはフィオスが乗っている。
話を聞いてみると、突然ジケが気を失って倒れたので、慌てて遺跡から脱出して町まで戻ってきたらしい。
ゴーレムはジケたちのことを追いかけず、台座のあった部屋に留まった。
サンモーウたち冒険者も無事に脱出し、一応教会で治療を受けたらしかった。
「ああ……そっか」
「そっかって何?」
エニは少し拗ねたような目をしている。
「夢を見たんだ」
「夢……ですか?」
「俺はスライムだった」
「急に何?」
ジケは体を起こす。
胸に乗っていたフィオスが足の上に転がる。
ジケは軽くフィオスを手で挟んでモニモニと潰すように揺らす。
「フィオスじゃない。別のスライムだった。始まりは分かんないけど、多くの人が俺のことをちやほやとしてくれるんだ」
なんとなく幸せな始まりだった。
スライムとして可愛がられて、多くの人が愛を持って接してくれていた。
「俺もスライムとしての力を活かして頑張るんだ。するといつの間にか人が集まって、宗教みたいになった」
どうしてそこまで大きくなったのかは分からない。
でも気づいたら周りの人はスライムのことを崇拝するようになっていたのだ。
スライムを中心として集まり、団結し、割と幸せに暮らしていた。
「そんな時に……どこからか攻められるんだ。どこか知らないけど敵だった」
ジッとフィオスを見ながらポツリと口にされるジケの話を、エニとリンデランは大人しく聞いている。
「何回か追い返したけど、相手は諦めなかった」
夢で見たものだし、中身は飛び飛びだった。
だから細かいところまでは分からない。
でもスライムは敵を追い返して、さらにみんなの信仰を得ていく。
「みんなを逃すために俺は戦うんだ……でもスライムだからな。最後はやられちゃうんだ」
だが諦めない敵に最後は追い詰められてしまう。
スライムがやられたことに胸が痛む思いで、そんな痛みを感じたかのようにフィオスはジケに身を寄せる。
「でも夢の中の俺は……スライムは幸せだった。みんなが逃げられたならそれでいい。そんな思いだったんだ」
ジケはたまらなくなってフィオスを抱きしめる。
「つまり……どういうこと?」
「フィオスが取り込んだあの黒いカケラ……あれはたぶんスライムのコアだったものだ。あそこはスライムを信仰して作られた神殿で、そのスライムのコアが残されていたんだよ」
理由は分からない。
けれども、フィオスが取り込んだスライムの記憶がジケに流れ込んできたのだ。
神殿を作られるほどに人に愛されたスライムがいた。
聞いたこともない話であり、どこかの歴史に抹消された存在なのかもしれない。
「お前はその力を受け継いだんだな」
ただ記憶が流れ込んできただけじゃない。
ジケの魔力が多くなった。
それでも少ないのかもしれないけれど、これまでよりもフィオスから得られる魔力が多くなったのである。
「一つ言えるのは……あそこにゃ何もないよ。残ってるのはゴーレムだけ。最後までスライムのことを思って残された……思い出を守るためのゴーレム」
「……不思議な経験をなされたのですね」
「他の人なら頭でも打ったのっていうけど……ジケだもんね」
変な話だ。
いきなり倒れて起きがけにこんな話をされたら少し心配にもなる。
でもジケなら不思議なことを体験してもおかしくない。
スライムの遺跡。
きっと誰にも分からないし、言っても信じてもらえないかもしれない。
でもジケだけは分かっている。
あそこには歴史に残らない不思議な信仰や崇拝があって、人と幸せに暮らしていたスライムがいた。
「うん……変な経験。でも、スライムが主役だった時もあるんだなと思うとなかなか面白かったよ」
何はともあれ、サンモーウは助け出せた。
なんだかんだと不思議な経験をして、魔力も増えた。
「俺もスライム教の一員だからな」
きっと伝わることはないけれど、今の時代にも幸せに暮らすスライムがいる。
そして、そんなスライムを大切に思う存在がいる。
「心配かけてごめんな」
「まあ、無事ならいいの」
「ジケ君の寝顔、可愛かったですし許します」
穏やかな会話の中心にはスライムがいる。
いつの時代にも不思議なスライムがいるのかもしれない、とジケは思ったのだった。




