商売人ジケ2
「サンモーウより先にピリついてる原因を探ろうか」
状況を全く無視してサンモーウに聞いて回ってもいいが、それで無用なトラブルを生む可能性は否定できない。
何がこんな雰囲気にしているのか。
それを知ってからサンモーウ探しをしても遅くはない。
「えーと……あの人でいいかな?」
明らかに苛立って貧乏ゆすりなんかしてる人は、触れれば怒りが爆発しそうだから避ける。
まだ落ち着いていそうな人に目をつけて、声をかけてみる。
「あっ?」
それでも機嫌は悪そう。
「みんな、どうして機嫌が悪いんですか?」
「はっ、知るかよ」
見た目上落ち着いているというだけで、内心結構イラついているようだ。
イラついているところに見知らぬガキがヘラヘラと声をかけてきたら対応する気にもならないのは理解できる。
「まあ、そう言わずに」
ジケはサッとニノサンに合図を出す。
ニノサンはジケのそばに寄ると、背中を向けて膝をつく。
「何すんだろね?」
「んー、なんでしょうか?」
ジケはニノサンが背負うリュックに手を伸ばす。
「これでどうですかね?」
ジケがリュックからあるものを取り出した。
「おっ? それは……」
「お酒です」
ジケの言う秘密兵器、それはお酒だった。
冒険者というのは揃いも揃ってお酒が好きなものである。
ただ町から離れたキャンプにお酒なんてものはあるはずがない。
キャンプは商人が設営しているらしいが、多分食料なんかは運んでもお酒までは手が回らないと予想していた。
そんなところにお酒を持ち込めば、相手は目の色を変える。
リュックの中にはお酒の瓶が詰め込んであった。
相当重いだろうに、ニノサンは顔色ひとつ変えずに背負ってるのだからさすがである。
「酒か……」
「おっと、話聞かせてもらったら、ですよ」
酒瓶を見て、男の態度が変わる。
フラッと手を伸ばしてきたので、ジケは酒瓶を遠ざける。
男の目は酒瓶に釘付け。
どれほどお酒を飲んでいる人なのかは知らないが、毎日飲んでいるという人も珍しくない。
半日も移動にかかるのだから、一度キャンプに来たらめんどくさくて町に戻るなんてことしないだろう。
多少の期間、お酒も飲んでいないはずだ。
特に苛立っているような状態ならお酒は余計にほしいだろうと思う。
「おい、俺が教えてやるぞ!」
「なんだと! 今声かけられてんのは俺だ!」
男だけじゃない。
周りにいる人も視線は酒瓶に向いている。
獲物を狙うような目をしていてちょっと怖いなとエニは思った。
酒瓶が欲しくて他のやつが声をかけてきた。
男は慌てたようにまた酒瓶に手を伸ばしてきたので、軽くかわす。
「なんでみんなピリついてるんですか?」
「それは……遺跡を独占してる奴らがいてな」
男は周りを警戒しながらも深いため息をついた。
「遺跡を独占?」
「元々町にいた冒険者の方が早くきていたのは当然なんだが、そいつらの性格が悪くてな。後から来た俺たちのような冒険者が入れないように邪魔するんだよ」
「あー、なるほど」
みんな平等に。
そんなものただの理想に過ぎない。
実際には自分が利益を上げたいというのがそれぞれの腹の中となる。
先に遺跡を探索していた町の冒険者にとって、同じ町で活動している冒険者ならともかく、よそから来た冒険者など邪魔でしかない。
そんなところから、先に遺跡を探索していた町の冒険者と後から来た他のところの冒険者で争いが起きていた。
キャンプにいて苛立っているのは多くがよそから来た冒険者。
遺跡の探索をさせてもらえず、だからといっておめおめと町に戻ることもできずにキャンプに留まっているのだ。
「ありがとうございます。これ飲んでください」
「おお、ありがとよ」
事情は分かった。
ジケは話を聞かせてもらったお礼として酒瓶を渡す。
男は嬉しそうに酒瓶を開けて、そのままグイッとお酒をあおる。
周りの冒険者たちは羨ましそうにその様子を眺めている。
「うーん、ちょっと面倒だな」
「どうしてですか?」
酒をくれと囲まれても厄介なのでその場を離れる。
ジケはちょっと悩ましげな顔をしている。
「探してるサンモーウは町の冒険者だ。とすると今はキャンプにはいなさそうだなって」
状況を整理すると、今キャンプにいるのはよそ者の冒険者で、遺跡の方には町の冒険者がいるということになる。
キャンプで町の冒険者であるサンモーウについて聞いても話は聞けなさそう。
お酒を無駄に消費して人に聞いて回るのは嫌だなと思う。
「どういたしますか?」
「……ちょっと遺跡の方に行ってみようか」
こうなると選択肢は二つに一つである。
遺跡の探索だって夜には引き上げて戻ってくるだろうと考えてキャンプで待つか、それとも直接遺跡まで向かってみるかだ。
ただ奥まで探索していたらすぐには帰ってこない可能性もある。
悩みどころではあるが、もうここまで来たのなら遺跡まで行ってみようとジケは思った。
「周りの目も気になるしな」
ジケたちがお酒を持っていると話が広まっている。
ニノサンが背負うリュックに視線が集まっていて、少し居心地が悪い。
「いざ行かん、古代の遺跡!」
「なーんか、楽しそうにしてない?」
「まあ、その、否定はできないな」
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