【恋愛】灯台下暗し
【お題:塔、水、言葉 テーマ:恋情 文字数:450字】
「灯台下暗し、って言葉知ってる?」
「……何だよ、突然」
あさぎ色に揺れる港の海を眺めながら、私は幼馴染みの翔君の隣でポツリとこぼした。
「灯台ってね、港で一番高い建物で、自ら輝きを放っているんだよ。それで沖に出た船は、その輝きに惹かれるように港へと帰ってくるんだ」
「随分と詩的な表現だな」
「でもね、肝心の灯台はいつも遠くばかり見つめているの。近くに想い人がいても気がつかないなんて、とんだ鈍感さんだよね」
呟くたびに、どんどんと声が掠れていく。
ダメだって分かっているのに、徐々に視界も潤んできて。
でも翔君は気にする素振りもなく、むしろムッとした声音で言う。
「言葉の意味くらい知ってるよ。バカにしてんのか?」
「…………」
「俺は今年こそ海外に出て自分を磨く。だからって日本語の勉強を疎かにはしてねえよ」
「……うそ。絶対意味知らないよ、翔君は」
最後はもう、言葉にすらならなかった。
瞳から涙がこぼれては、自分の膝ばかりを濡らしている。
そんな私に気づくこともなく、翔君は遠くの果て、地平線の彼方をずっと見つめていた。