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【シリアス】優しきものは損をする
【お題:鼠、馬飼 テーマ:特になし 文字数:498字】
「馬を一頭貸してくれ」
その日、馬飼いのもとに訪れた少年は大層汚れた身なりをしていた。
ボロ布を被っていて顔は見えない。だが身分階層は明らかだ。
最下層。ドブネズミ並みの生活を送ってきたに違いない。
「あんた出身は何処だ? 階級は?」
「……金ならある。だからどうか……」
質問には答えず、少年は黙って麻袋を突きつける。
中身を確認すると、大した額ではない。「少し借りるだけ」と言ったきり持ち逃げする気が透けて見える。
「あのなぁ、初めから返す気のない輩に貸す馬なんて――」
「頼むっ! 生き残るには他に手段がないんだ! だから……っ!」
否定すらせず、ただ慈悲を乞う少年の姿に、馬飼いは内心呆れる。
馬が欲しけりゃ、黙って盗めばよかろうに。
この街じゃ、それができない奴から死んでいく。
……街から逃げ出さない限りは。
「……ちっ。いいぜ、持ってけよ」
「……いい、のか?」
「半日分の金はもらった。なら拒む理由はねえ」
「あ、ありがとう!」
少年は涙目の笑顔で頭を下げると、
馬に飛び乗って去っていった。
……お礼を言われたのは何年振りだろうか。
遠くへ駆けていく少年を、馬飼いはいつまでも見送り続ける。
その姿に、かつての自分を重ねながら。




