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物語を書き終えて、僕はペンを机に置いた。
いつの間にか埃っぽくなった部屋で、伸びをする。外はすっかり日が落ちていた。
――僕は何を残せたのだろう。
昔自分にした問いかけを思い起こして、目の前のノートに視線を落とす。
そこには自分の手で描いた物語が記されていた。
楽しい話。暗い話。ゾクッとする話。泣ける話。
それらどの物語の主人公も、自分とは違う世界を生きている。
壁の鏡を見る。そこには『素』の僕が映る。
旅人でも、魔女でも、勇者でもなく、何の特徴も特技もない素の自分が。
人生は一度きりだ。なのに僕は僕以外の人生を歩めない。
それはひどくもったいないことのように思えて、僕は物語を描き始めた。
自分では決して経験できない人生を経験してみたくて。
それは思ったより簡単じゃなかった。けどそれでもペンは止めなかった。
頭の中の理想形は、文字にした瞬間「何か違う」形に変わってしまう。でも逆にそれが面白かった。
もう昔みたく『声』は聞こえてこない。
僕はノートをパタリと閉じた。机の明かりを消して、席を立つ。
書くのを止めるからじゃない。新しい物語を考えるためだ。
そして歩きながら、また妄想に耽る。
――次はどんなお話を描こうかな。
お読みいただきありがとうございました。




