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憧憬の向こう側  作者: 葉竹ゆり
93/138

ながくうしなう《改》




あなたの可愛い小指の爪を切る


深づめをしてしまって

まん丸い月になっている


涙目には

なってないよね

むかしの春の葉が

なぜか

遠くからユラユラと

サヨナラをしている


寂しがりやが

ちっちゃな発見と

いい張るものを積み上げよう


わかりやすい嘘や

かたちのない悪を

ちっぽけな矜持をもって

チガウ、といい張ることができる

むかしからのもはや

崩れ堕ちそうにしかみえない

心配な赤レンガ、


ななだん、

までは積み上げた記憶があるのに


おそらく

どこの誰でもないあたしたちの

春の葉は、

青空の下、心配そうに

ヒラヒラと、ヒラヒラと

手を振り

ふたりの音楽を

そっとイヤホンで聞いてくれるのに。


ななだん、よりは、


もう、ないのか。


これ以上積み上げられる

赤レンガはないのか。


煤で真っ黒に汚れているとはいえ

その純粋という漆喰で塗り固められた聖性を

無闇になかったことには

できないんだけれど、

あらたにレンガをさがす不毛には

もはや耐えきれない


サヨナラをしたままでいい


あたしたちは

癒しの街の賑やかなお祭り騒ぎのあと

あの日から今日まで引き摺りつづけた

なになのかもわからない

ちっぽけなこころの欠片を

お互いにみせあって

お互いのなにかを知った気になるんだ


だからもうそこには

サヨナラだけしか残らない


放射冷却の上を

そっと流れるあたたかいあなたを愛する気持ちは、

やはり、夢の中のように

永遠不滅というわけにはいかないようで…………


その夢。


夜空に輝く

まん丸い月は、夢の中のあなたゆえ

冷たく輝くふりをしながら

そっとあたしにだけ

サヨナラの秘密を教えてくれたのだけれど、

むろん夢からさめれば

すべて忘れ去ってしまうこと、

もはやその身と頭とこころに、

薄っぺらいナイフで刻み込まれたんだった


その夢、ながくうしなった…………






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