18段目
しばらくは、鶏と黒曜石の切っ先を交互に見つめて、逡巡する時間が過ぎていった。餌を与えない鶏を置いていても痩せていくばかりだし、始末するのならば早い方がいいだろう。
先ほどまでとは違い、躊躇することなく鶏を隅に追い詰め、捕まえた。俺の覚悟が、鶏に伝わったのだろうか、抱きかかえても暴れなかった。
「すまん」と胸の中で強く謝ると、一気に黒曜石で、喉元を切り裂いた。
「アーーー!!」
鮮血が裸の上半身に飛び散ると、思わず大声を出し、怖気付いて鶏を放り出してしまった。
血抜きのためには、すぐに逆さ吊りにするべきだが、かき集めたワラを鶏に被せ、屠殺の現実から逃げてしまう。
いつまでも、のた打ち回る鶏から、目を背け耳を塞ぎ、時が過ぎ去るのを待った。
1時間以上は経過した頃、積み上げたワラをどかすと、無残にも血で羽毛が真っ赤に染まった鶏が、横たわっていた。鶏冠とクチバシは苦しみもがいたために、地面とこすれてボロボロになっている。残酷な末路にしてしまった罪を、少しでも償うためにも、亡骸を無駄にしたくない。この冷たくなった肉体を、我が血肉に換えて、1日でも長く生き延びようと奮い立つ。
血抜きをせず時間の経った死体は、さばくのに苦労をしたし、味もまずかった。
しかし余す所なくすべてを食べ終えると、胃袋を中心として体の隅々に至るまで、ポカポカと暖かくなり、「命を頂いたんだ」という実感がわいてきた。




