第91話 恐怖
迂回する道はない。
真っ暗な水の中だが
明かりが見えるところを見ると
人が住んでいるのだろうか。
しかし
入って行く勇気は湧いて来なかった。
飯山は進むことも戻ることも出来ず、
どうしたらいいか思い悩むばかりで
立ちすくんでしまった。
なぜ自分がこのような場所にいるのかさえ、
まったく理解することが出来ていない。
おまけに拳銃で撃たれ、
刃物で刺された憎しみと怨みで
気が狂いそうになっていた。
早く組の事務所へ戻って、
自分をこんな目に逢わせた奴らに
どのような酷い復讐をしてやろうかと
想いを巡らせながら、
一方で
異様な世界に紛れ込んだ揚げ句、
化け物が襲って来る恐怖に怯え、
一刻も早くこんな場所から離れたかった。
あんな化け物とは二度と出会いたくないと
背筋に悪寒を走らせながら思った。
とそのとき、
突然背後から
カサコソと草の葉が擦れ合う小さな音がして、
ビクッと反射的に反応した飯山は
振り向きざまに拳銃を構えたが
「あっ」と絶句した。
拳銃の狙う方向が右往左往して
パニックで自制を失ってしまった。
こんなにいるのかというほど
犇めきあって、
針金のように痩せさらばえた
頭でっかちな骸骨の化け物が
今にも飛び掛からんばかりに
餓えた目をジットリと飯山に絡ませて、
半開きの口から
ボタボタとよだれを垂らしながら
強い気迫でジリジリと間合いを詰めて来ていた。
「俺を食うつもりか。」
飯山は思わず全身が凍りついた。
「ギャー、ギャー、ギャー」
不意に頭上で鳥が騒ぎ出した。
恐怖がますます妄想を増大させ、
思わずめくら滅法引き金を引いて
拳銃を撃ちまくった。
弾丸は目の前にいる、
いくつかの化け物の頭を撃ち抜いたが
全員怯む気配はない。
殺される恐怖以上に
飢餓の欲求のほうが勝っているのだろう。
どんどん間合いが狭って来て、
飯山はジリジリと
後ろへ下がらざるをえなかった。
距離を取って間合いを空けていたが、
もうすでに後がない。
これ以上、下がれば
水の中に落ちてしまう。
万策尽きて覚悟を決めるしかないのか。
突然、
右横から牙を剥き出して
骸骨が飛び掛かって来た。
至近距離で拳銃を向ける間もない。
危うく体をかわしてよけた途端、
斜め左から鋭い牙で噛みついて来た骸骨が
飯山の腕の肉を食いちぎった。
「ぐあー」
激痛で体をよじらせながら
飯山は食いちぎられた傷を押さえて
苦痛に歪んだ表情でよろめいた拍子に
ズルッと足を踏み外した。
「あー」
悲鳴が尾を引いて
真っ逆さまに水の中へ落ちて行った。
骸骨の化け物達は口惜しそうに
岸辺から下の方を覗いていたが、
諦めたようにゾロゾロと
草むらの中へ再び姿を消した。




