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第89話 ミヤナとバドグ

「だから嫌だって言ったんだよ」



男の声がした。



「そんなこと言ったってしかたないだろ。



あたしだってまさか引き返せないなんて



思っても見なかったんだから。



こうなったら行くしかないんだ。



グダグダ言ってないで



さっさと歩きな。」



女の声が言った。



「なんであんなイタチ野郎なんかに



くっついて来ちゃったんだよ。



あれだけ止めたじゃねえか。



俺は気が進まなかったんだ。」



男は愚痴ぐちっぽく言った。



「悪いけどね。



あたしゃイタチに



くっついて来たわけじゃないんだよ。



無踏むとうがちょっと心配だっただけだ。



変なこと言わないどくれ。」



女がたしなめた。



あの滝のところから



ミヤナとバドグがイタチを尾行して来たらしい。



「だけどよ。



さっきまで誰かが俺達を



ジッとうかがっているような



嫌な感じがしてたけど。」



バドグがさも薄気味悪るそうに言うと



「あたしも感じてたよ。」



ミヤナもあたりを見回しながら言ったが、



なぜか得体えたいのしれない



不気味な恐怖と孤独感が



ヒシヒシと迫って来て



いい気持ちはしなかった。



突然、



銃声が響き渡ったあと悲鳴が聞こえて



シーンと静まり返った。



「オッ、イタチがいるあたりだ。



こりゃあイタチが撃ち殺されたんじゃねえのか。」



バドグがミヤナの表情を盗み見しながら



悪戯いたずらっぽく言った。



ミヤナの目が瞬間、残忍な狂喜をはらんだ。



「あ、おい待てよ。



行ったら危ねえぞ。」



バドグが止めたが、



まるで聞く耳を持たず、



長い髪を振り乱して全速力で走り出した。



「しょうがねえな。



ありゃあイタチのことなんかどうでもいいんだ。



血みどろが好きなだけだぜ。



あの目は喜びで狂ってる。」



と言いながら



バドグも残忍な期待にうち震えながら



全速力で後を追った。



ミヤナの着ている物が



いつのまにか真っ赤な戦闘服に変わって



朱鞘しゅざやの長剣を背中に背負っている。



興奮すると過去の世で身につけていた物が



記憶の中からよみがえって来るのかも知れない。



意識で想い描いたものが現実化する。



くびれたウエストに



黒い幅広の革ベルトを巻いて



太いバックルで留めてある。



その腰下あたりの側面に



縦の長いスリットが入っていて



風にあおられた上着の下に



ゆとりのある白いズボンのような物が見え隠れする。



赤い革靴の爪先は上に反り返って



黒い靴底が妙にしっかりした作りになっている。



全力で疾走していたミヤナが



突然、何かにつまづいて



前のめりにつんのめった。



ゴロゴロッと体を丸めて転がりながら



油断なく体制を立て直して



スタッと跳びはねるように立った。



「どうした。」



バドグが驚いて叫んだ。



「変な物が転がってるぞ。」



言いながらミヤナがましいげに



目をらした。



「あっ、なんだこりゃ。骸骨か。」



ミヤナとバドグが同時に声を上げた。



「ふざけやがって。」



ミヤナが腹立ちまぎれに



骸骨を蹴り飛ばして



草むらの中に落とし込んだ。



「イタチじゃねえじゃねえか。ばかやろう。」



ミヤナはイラついて怒鳴った。



「なんで怒ってんだよ。



イタチがやられてりゃよかったのか。」



バドグが愉快そうに言った。



「うるせえ。」



ミヤナはイライラをつのらせて、



また怒鳴り散らした。

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