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第85話 極道として

荒谷の傷はたいしたことはなかった。



命を狙われたくらいで



ビビるような俺様じゃねえ。



荒谷は平然と事務所に顔を出していた。



発角から話しを聞いた荒谷は



あらためて今までのことを思い直してみた。



「どうもおかしいと思っていたんだ。



飯山が仕組んだとすれば、



すんなり辻褄つじつまがあうことになる。



あの野郎、



コソコソとふざけた真似をしやがって。



生かしちゃおかねえ。」



独り言のように言うと



「すぐに飯山のたまを取れ。」



近くにいた抜畑ぬきはたに命じた。



「わかりました。すぐに手配します。」



抜畑は嬉々として答えた。



こういう不穏な動きが大好きらしい。



また出入りだ。



命のやり取りがあってこその



ヤクザ稼業だという信念を持っている。



抜畑は五人ほど



実戦に馴れている組員を選ぶと



全員に飯山剛太の顔写真を渡して



熊虎組の組事務所周辺に



張り付かせた。



飯山は警戒を強めて



あまり出歩かない。



外へ出る時はまわりを配下の者が



ガッチリとガードして、



すぐに防弾装備の施された



高級外車に乗り込んでしまう。



抜畑のほうは



なかなか手が出せないまま、



しばらく日にちが経ってしまった。



一方、



飯山はいままで警戒を強めていたが、



心の中からしきりに、



こんなに厳重にしてたんじゃ



みっともなくてしょうがねえな。



まるで小心者に見えるぞ。



これじゃあ子分にも馬鹿にされる。



命を惜しんで、



人をたてにしていると思われた



極道として認めてもらえなくなる。



皆に見捨てられるぞ。



という想いが湧いてきて



気が気ではなかった。



自分で考えているほど



取り立てて危険な動きもないし、



そんなに神経を



尖らせるほどのこともないかと



思い直すようになっていた。



極道として



格好悪いことはしたくない。



大袈裟にし過ぎていたかな。



発角は消したし、



鮫谷もそろそろ終わりだろう。



荒谷に洩れる心配はないはずだ。



何も起こる気配はないようなのに、



これじゃまるで



俺がおびえていると思われて



馬鹿にされる。



まわりからナメられる。



ヤクザはナメられたらおしまいだ。



少し度胸のあるところを



見せつけなくちゃならん。



飯山は無理に虚勢を張って



薄笑いを浮かべながらそう思った。

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