第83話 密告
蚊山を消すことに
失敗した島塚に飯山は激怒した。
「これで蚊山が発角達にばらすに違いねえ。
発角の奴らもすぐ始末しろ。
グズグズするな。
兵隊はすべて動かせ。」
飯山は恐怖に駆られて叫んでいた。
大魔会と狂龍会に工作員を送り込んで
荒谷の店を破壊させて
仲たがいさせようとしたのは
飯山だとばらされでもしたら、
両方の組織から
一斉に攻撃されるだろう。
そうなったら取り返しがつかない。
島塚はすぐさま組員達に招集をかけた。
一方、発角はマンションの外にある公衆電話から
狂龍会寺野組の事務所に
電話をかけていた。
「もしもし、寺野組ですか。」
「そうだが、どなた?」
まだ荒谷襲撃から
それほど日数が経っていない。
電話に出た相手が疑わしげに聞いた。
「石山と申します。」
発角は偽名を使った。
本名は絶対出せない。
「何の用だ。」
「荒谷さんに
お知らせしたいことがありまして。」
発角が言うと
「どんなことだ。」
相手はあくまでも警戒している。
「重要なことなので、
荒谷さんに直接でないと
都合が悪いのです。」
発角は何とか早く
荒谷を電話口に出してもらいたかったが
「ちょっと待てよ。石山?
石山なんていう知り合いはいないぞ。
なんか怪しいな。」
電話番は石山という名前を
聞いたことがなかったため
警戒をゆるめなかった。
「どうしたんだ。何かあったのか。」
突然受話器の向こうで誰かの声がした。
「石山っていう知り合いはいますか。
荒谷さんに話したいことがあるって
言ってるんですけど。」
電話番が説明している。
しばらく待った。
不意に
「荒谷だが、石山なんて聞いたことねえな。
誰なんだ。
何で俺を知っているんだ。
俺に何の用だ。」
荒谷本人が電話に出た。
「あ、荒谷さんですか。
ぶしつけで仁義を欠きまして
申しわけございません。
ちょっと
小耳に入れたいことがありまして
電話しました。」
「なに、小耳に入れたいこと?」
荒谷が訝るように言った。
「そうです。」
「何だそれは」
「実は店を爆破した者のことなんですがね。」
発角は荒谷の興味を引くように
少しづつ話しを進めた。
「爆破した者?
お前知ってるのか。
誰だそれは。誰なんだ。」
爆破と聞くと
荒谷が興奮で
身を乗り出して来るのを
受話器を通して感じた。
「はい。
ですが、言っていいものかどうか。」
発角はちょっと言葉を濁した。
「なんだと。
俺をおちょくってんのか。」
短気な荒谷は少しのことで
簡単に怒りが爆発する。
「いえ、そういうわけではないんです。
これをばらしたら
こっちの命が危なくなるので、
ちょっと迷っただけです。」
発角はこれ以上怒らせてはまずいと思った。
「実は店の爆破を
指示していた張本人が判明したんです。」
「なにっ、それは誰だ。」
「それは」
一瞬、密告という後ろめたさに言葉が詰まったが
「極斬会熊虎組の組長、飯山剛太です。」
それを吹っ切るためか、
一気に名前を出してしまった。
荒谷の表情がみるみる変わった。
「本当か。まちがいねえだろうな。」
「まちがいないです。」
「何でおまえがそれを知ってるんだ。」
荒谷は本当に信じて大丈夫なのかと疑っていた。
ここで信じてくれなければ
飯山は生き延びて発角達の命がなくなる。
急を要した。
「それは言いにくいことなんですが、
飯山の指示で店を爆破した
メンバーの一人が私だからです。」
発角は荒谷の怒りを覚悟して言った。
「なにーっ。
おまえがやったのか。石山てめー、」
荒谷が怒り狂う声を聞きながら
公衆電話の受話器をそっと置いた。
「これで荒谷は動き出すだろう。
次は魔崎組だ。」
独り言を言いながら、
発角は再び受話器を取るとダイヤルを回した。