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第81話 誤算

「こんなところで何をするんですか。」



蚊山は何のために



このようなところへ連れて来られたのか



腑に落ちずに叫んだ。



島塚は車からゆっくり降りると



拳銃を手に下げていた。



「悪いな。



組のためにここで死んでくれ。」



島塚がボソッと言って



銃口を蚊山に向けた。



すると他の二人もドスを抜くと



顎を上げて目を細め、



凄みを効かせた。



「うっ」



蚊山はしばらく言葉を失いながらも



無意識に身構えると



何が何だかわからなかったが



無性に腹が立って来て



「俺が何のために死ななくちゃならないんですか。



俺は組のために一生懸命やって来たんだ。



一度だって裏切ったことはない。



それなのに



何で殺されなきゃならねえんだ。



訳がわからねえ。」



怒りに任せて怒鳴った。



「口を割られちゃ困るんでな。



悪く思うなよ。」



島塚が冷ややかに言うなり



二人に目配せした。



蚊山は島塚を怒る以上に



組長の飯山が



自分にこのような仕打ちをするとは



信じられず、



こんな冷酷無慈悲な奴だったのかと、



蚊山自身が抱いていた信頼を裏切ったことに



失望し怒りが燃え上がった。



殺し屋の二人が



抜き身のドスを持っている右手を



背後に隠して身構えもせず、



無言のままゆっくりと



間合いを詰めて来る。



明らかに



殺意を持っている行動だ。



躊躇ためらう様子もなく、



殺しに慣れているのだろう。



蚊山は間合いを詰められて



押されるように



少しづつ後ろに下がって行ったが、



これ以上下がると



海に落ちてしまうと思って



動きを止めた。



その瞬間、



一人が突然



体ごと蚊山にぶつかって来ると



背後に隠し持ったドスを突き出した。



はっ、とするほど素早い動きだ。



刃物が隠されて見えないために



どこから飛び出して来るかわからない。



蚊山は辛うじて横にかわしたが、



すぐにもう一人の男のドスが



横腹をかすめた。



蚊山は二人の間を



海側から陸側へ擦り抜けると、



そのまま走って逃げた。



「あ、逃げたぞ。



追えー、追えー」



島塚が叫びながら照準を合わせたが、



間に殺し屋の二人がいるので



拳銃を撃つことが出来ない。



「逃がすな。」



と叫んで車に飛び乗った。



タイヤをきしませて



方向を変えると



猛スピードで走り出した。



瞬く間に



三人が追いつ追われつしているところに



車を追い付かせると



蚊山の前に車を突っ込んで止めた。



蚊山は行くてをさえぎられて



二人に追い付かれてしまった。



三人は ハアハア息が切れている。



島塚が薄笑いを浮かべながら



車から降りて来て



蚊山に拳銃を向けた。



二人の男が蚊山の不意をついて



立て続けに攻撃して来た。



ハアハア息があがっている目の前の男の



スレスレのドスを



体を少しずらしてかわしたその時、



男の股間を足の甲で蹴り上げて



鋭く引いた。



「あっ」



と前屈みになって



男がうずくまったのを、



今だとばかり



車のボンネットの上を飛び越えて、



また一目散に走って逃げ出した。



島塚が慌てて



拳銃を向けたまま撃とうとしたが、



男の一人が後を追い掛けているので



撃つことが出来ない。



歯ぎしりしながら



島塚はまた車に飛び乗ると



タイヤを軋ませて



猛スピードで走り出した。



もう少し行くとコンテナが林立している。



そこまで行ってしまうと



隠れる場所が出来て



島塚としては都合が悪かった。



その前に片付けてしまわなければならない。



島塚は焦った。



再び蚊山にぶつけるように



猛スピードで車を突っ込んで止めた。



そして一段と薄笑いがひどくなって



目に残忍な光りをはらんで



車から降りると



蚊山に銃口を向けた。



波止場の薄灯りに、



はるか後方から



先程股ぐらに蹴りを喰らった男が



足を引きずりながら



走って来るのが見える。



蚊山はハアハア息を弾ませながら、



襲って来たドスを皮一枚でかわすと



男のミゾオチに蹴りを入れた。



男がそれをかわそうとした瞬間、



側頭部に鋭い回し蹴りが炸裂して



男が白目を剥いて崩れ落ちた。



蚊山は空手の達人だったのだ。



そのことに気付かなかった島塚の誤算だった。



すぐに蚊山は



その男が持っているドスを奪うと、



またダッシュで逃げ出した。



「あっ、くそっ、待て」



拳銃を撃とうとしたが躊躇した。



少し離れた暗がりのところに人がいる。



発砲してしまったら



すぐ逃げなければならない。



音を聞いた者が通報してしまうだろう。



「逃がすものかーっ」



慌てて島塚は蚊山を目で追いながら



勢いよく車に乗り込もうとした。



「ガツッ」



鈍い音がして



おでこがドア枠に当たったと思うと、



グキッと首が曲がり、



顔が裏返って顎が前に突き出たまま



車の中へ倒れ込んだ。



「あーっ」



当たり所が悪かったのか



目に当たってしまった。



島塚は車の中に倒れ込んで、



痛みに体を震わせながら



目を押さえてうずくまった。



蚊山は走って行って



闇にまみれたコンテナの林立している中に



吸い込まれた。

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