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第58話 何の入り口だろう

男は危険がないとわかると、



やっと安心したように



気をゆるめて歩き出した。



体の傷が痛むのだろう。



左手で傷口を



押さえるようにして、



よろめきながら進んで行く。



肉体の痛みを



感じているところを見ると、



本人は自分が死んでいることに



気付いていないのだろうか。



苦痛で呼吸が乱れて



咳込せきこみながら



背中を丸めると、



道端の草むらに倒れて



寝込んでしまった。



その間



イタチも樹木の根元に



横になって、



今までの疲労を



いやすように



うつらうつらと



居眠りをしていたが、



時折目をまして



男の様子を見張っていた。



小一時間ほどたっただろうか、



男は目を覚まして



起き上がると、



元気を取り戻したように



立ち上がって、



何処へ行くともなく



また歩き出した。



イタチはいち早く気付いて



後から尾行を始めた。



男は先程とは違って



元気に歩いて行く。



極限までの疲労が



だいぶ取れたのかも知れない。



下山して



街へ出ようとしている



のであろうとイタチは思った。



歩く速度は速かった。



どれくらい歩いただろうか、



突然、暗い道の先のほうに、



ぼんやりと



細い丸太を門にした



鳥居のようなものが



目に入って来た。



ん、あれはなんだろう。



このまま進んで行けば



その門の中に入ってしまう。



こんなところに



なにがあるのだろうか、



いぶかりながら



どんどん近づいて行くと、



道の両脇に



細い丸太を立てて、



上に丸太の横木を渡し、



荒縄で縛った



粗末な門のようなものが



口を開けているように



立っている。 



道はそこから



まだ先のほうへ



続いているのだが、



そこを通り抜けるしか



道はないのだろうか。



男はその前で



立ち止まって



思案していた。



その何かの入口のような物の



向こう側からは、



何とも言えない



甘美かんび享楽的きょうらくてき



雰囲気が漂って来て、



入って行きたい衝動が



ウズウズと沸き上がって来る。



その入口の



こちら側と向こう側は



明らかに



意識に作用して来る波動が



違っているのだ。



ふと男は



その入口の手前に、



目立たないが



細い脇道があることに気付いた。



しかし その道は



余りにも細すぎて、



街のほうへ向かって



続いているとは



どうしても思えなかったのだ。



脇道はけわしそうだし、



男はこの異様な雰囲気に



躊躇ちゅうちょして、



行こうか戻ろうか迷っていたが、



この世界から出て来る



フェロモンのような、



異常な波動の



逆らうことの出来ない吸引力に、



入ることをとどめている



意識の奥からの忠告には、



すでに耳をかせなくなっていた。 



男はこの世界を



勝手に妄想して



期待を膨らませ、



胸が高まって来ている。



酒と女と力の世界だ。



男はワクワクしながら、



この入口に入って行きたい



強い欲求が



意識の底から突き上げて来て、



自分で自分を押さえることが



出来なくなっていた。



この入口の中に



自分が求めている何かが



あるような気がして、



男は意を決したように



足を踏み出すと、



ついにその入口をくぐって



行ってしまった。



イタチが樹木の陰から、



その入口へ



意を決したように



入って行く男を見ていると、



彼は十数歩歩いたあたりで



何かしら気になったのか、



何気なく後ろを振り向いた。



その次の瞬間、



男は目を見張って



顔が恐怖に凍りついたまま



茫然ぼうぜん



立ち尽くしてしまった。



そして我に返ると



自分がくぐって来た



入口のところまで



慌てて走り寄って、



うろうろと



行ったり来たりして



何かを探しているような



仕草をしだした。



イタチは 怪訝けげんな面持ちで、



一体何をやっているのかと



思いながら、



男があわてふためいている姿を



不思議そうに眺めていた。



しばらくの間、



男はその入口のあたりで



うろうろしていたが、



終いには諦めたように



振り返ると



あたりを見回しながら、



恐る恐る中のほうへ進み出した。

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